座標を特定せよ――「ダンジョン飯」15話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

地上は遠い「ダンジョン飯」。15話では彷徨うライオス達が描かれる。必要なのは座標を知ることだ。

 

 

ダンジョン飯 第15話「ドライアド/コカトリス

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1.迷子と花粉

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

地上への帰還を決意したライオス達はしかし、2日に渡ってダンジョンで迷い続けていた。彼らを警戒したのか、狂乱の魔術師が定期的にダンジョンを作り変えているらしい。食料も乏しくなった彼らは水場へ向かうが……

 

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チルチャック「くそ! なんだよ、こんな壁来た時はなかったぞ!」

 

飯と迷宮の「ダンジョン飯」。前回ラスト、迷宮で道に迷っていると語られたライオス達だが、15話では相変わらず地上への道を見つけられずにいることが語られる。地図もあるのにどうして?と思うところだが、実はそれには理由があった。一行からライオスの妹ファリンを連れ去った狂乱の魔術師はその恐るべき魔術で定期的にダンジョンを作り変えており、以前の地図はもはや役に立たなくなってしまっのだ。更にライオス達は水場らしき墓地へたどり着くもそこでドライアドという植物のモンスターと遭遇。彼らによって花粉症を発症し大ピンチに陥ってしまった。

 

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チルチャック(やべえ、俺も目がかゆくなってきた。視界が……!)

 

迷子と花粉症。2つの危機は全く別物のように思えるがそうではない。花粉症がライオス達にもたらした危機は、猛烈な目のかゆみや涙、頻発するくしゃみで敵や武器がどこにいる(ある)か分からなくなってしまうこと――「迷子」になってしまったのが原因だからだ。すなわち、座標を見失う点で迷子と花粉症は何も変わりはしないのである(ドライアドが植物ながらその姿は人間そっくり、かつ雌雄で容姿が逆転しているのも迷子的だ)。だから仲間の一人センシは同じく仲間であるチルチャックにその優れた五感で目の代わりになってもらい、攻撃すべき位置的・時間的「座標」を教えてもらうことでどうにかドライアドの撃破に成功する。

 

座標を見失った時、人は実際的にも精神的にも迷ってしまう。目的地までどれくらいなのか分かっていない場合、同じ距離を歩くのでも疲労がまるで違うのは想像が容易なところだろう。ファリン救出の目標がレッドドラゴン退治に比べ遥かに複雑化してしまったライオス達にとって、今回座標を見失うのは状況としても必然なのである。

 

2.座標を特定せよ

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座標を見失うことは苦しい。努力が報われる可能性は著しく下がるし、そもそも何をどう努力すべきかから考え直さなくてはならない。だが、見ようによってはこれも悪いことばかりではない。

 

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ライオス「まだ無理はしない方が……」
マルシル「無理はしない。ライオス、あなたが頑張るの」

 

例えば仲間の一人マルシルは狂乱の魔術師との戦いで魔力をほとんど使い切ってしまったが、それを機に比較的適正の見込めるライオスに魔術を教えることを決める。治療にも長けたファリンの復帰が当面見込めない現状、ライオスが防御や治癒の魔術を使えるようになればそれは大きな助けになるからだ。魔術要員に乏しい現状は、ライオスに新たな可能性をもたらすこととなった。

 

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マルシル(私は私のやり方で……!)

 

また、ダンジョンが作り変えられる法則性のため観察に向かったマルシル達は以前戦ったバジリスクとよく似たモンスター・コカトリスと遭遇するが、かつてバジリスクを巧みに威嚇してみせたライオスは折悪しく魔力酔いで不在であった。代役として白羽の矢が立ったマルシルは確かに背が高いとは言え、魔物への造詣の深いライオスのようにはとてもできるはずはなかったのだが――マルシルは得意の魔術で背後を爆破することで自分を大きく見せ、見事威嚇を成功させてみせる。「ライオスをいかに真似するか」ではなく「いかに大きく視覚と聴覚に訴えるか」に威嚇で目指すべき座標を見つけ出したのだ。

 

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ライオス「まあ安定感は出たか……」
センシ「これなら倒れることもないだろう」
チルチャック「邪教の偶像みたいだな」

 

目的座標への道のりは一つではなく、そこにたどり着くためには様々な方法があり得る。コカトリスを威嚇しセンシに倒させることに成功するも噛み傷を負ったマルシルはその呪いで石化してしまうが、彼女を元に戻すためにライオス達が試したいくつもの方法は結局どれが功を奏したのか判然としない。魔術書の読み方を教わりたてのライオスが唱えた魔術のおかげか、チルチャックが探した解呪に効く植物のおかげか、はたまたセンシがマルシルの石像を使って仕込んだ食材のおかげか――とにもかくにもマルシルは回復したのだから、彼らとしてはそれだけで十分喜ぶべきことだ。ライオス達は目指すべき座標へたどり着くことができた。
そしてマルシルもまた、自分を助けるために時間と手間をかけさせてしまったことを謝った直後、「人を漬物石に使うな」とツッコまずにはいられない。それが冷静になってみれば通過せずにはおられぬ座標であり、あるいはパーティにおいて彼女が果たすべき役割の座標でもあるからだ。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

マルシル「みんな、ごめ……あ」
マルシル(違う、そうじゃない。こんな時はもっと他に言うことがある。そう、まずは……)
マルシル「人を漬物石に使うな」

 

位置、時間、相対、絶対……座標にも様々な形があり、私達はしばしばそれを見誤る。作り変えられるダンジョンのように全てが動くこの世界で、私達は常に特定すべき座標を問い続けなければならないのである。

 

感想

以上、ダンジョン飯の15話レビューでした。ダンジョンの変化に着目して見ている間はさっぱり話の繋がりが見えなかったのですが、マルシルが黒魔術について説明する場面で「座標」に目が向くと後は非常にシンプルでした。それとコカトリス蛇頭が体温で認識するのも座標ですね。
不安定で倒れそうな石像には漬物石がぴったりの座標というのが傑作、そしてこの迷子の状態がライオス達の現在位置なのだなあ。次回も楽しみです。