究極のダンジョン飯、至福の食卓――「ダンジョン飯」12話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

念願の「ダンジョン飯」12話。魔物を食べながら続けたダンジョン探索で遂にレッドドラゴンを倒したライオス一行。だが、彼らが真に味わうのは炎竜の肉ではない。

 

 

ダンジョン飯 第12話「炎竜2」

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1.蘇生に必要なのは究極の「ダンジョン飯

レッドドラゴンの燃料袋からファリンの亡骸を見つけ出したライオス達だが、ファリンは既に全く骨と化していた。復活が絶望的にも思える中、ファリンは自分が蘇生させると言い出し……?

 

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センシ「あの状態から生き返るのか?」
チルチャック「前例がないわけじゃないが……」

 

再会の「ダンジョン飯」。死闘の末レッドドラゴンを倒した主人公ライオス達だが、これまでと異なり即座に魔物を食べようという話にはならない。当然と言えば当然の話で、このモンスターを倒す目的は食材にすることでなくその腹中に収められたライオスの妹ファリンの救出なのだ。彼女を蘇らせるまでは「飯も喉を通らない」気持ちに陥るのは無理もないことだろう。だがようやく見つけたファリンの亡骸は完全に骨しか残っていなかった上、そこには同じくレッドドラゴンに食べられたワーグ(魔狼)の骨も混ざってしまっていた。肉体の損傷が激しいほど魂が剥がれやすくなり蘇生術も失敗しやすくなるというのに、この状況では地上の蘇生所に亡骸を運ぶこともできない。飯が喉を通る・・・・・・ことはない。

 

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マルシル「蘇生術師を連れてきてここで蘇生する。ただし修復には損傷した部分の倍以上のカロリーが必要だから、一緒に大量の血肉を運んでくる必要がある」
チルチャック「そんなの途中で腐って……」
ライオス「いや……」
チルチャック「え?」
マルシル「そう、今なら新鮮な血肉はそこに山ほどある」

 

今までの冒険が地上とダンジョンを行き来する時間を省く必要があったように、ライオス達に必要なのはここでも地上とは違うやり方である。地上へ運ぶのは不可能と判断した仲間の一人ファリンが提案したのは、骨の仕分けと彼女が研究する古代魔術とレッドドラゴンの血肉を使った蘇生であった。通常なら損傷の激しい肉体の修復にはヤギや豚といった食肉を用いるところをレッドドラゴンで代用するというのだから、これはいわば魔術的な魔物食……すなわち異様なようでもやはり「ダンジョン飯」、むしろその究極と言っていいだろう。目に見えぬダンジョン飯が行われるなら当然、今回の食卓のメインディッシュもまたレッドドラゴンであってレッドドラゴンではない。

 

 

2.至福の食卓

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骨と化した死体すら甦らせる、古代魔術による蘇生。それはダンジョン慣れしているライオスの仲間チルチャックやセンシをして一種の怯えを感じずにはいられないものだった。あたりは暗闇に包まれ、レッドドラゴンの血肉が骨に集まりファリンの肉体を組成していく異様な光景……魔物を食べる行為にライオス達以外が感じるであろうおぞましさを具現化したようなその有様を見て、不安や不穏さを感じた視聴者も多いことだろう。果たして本当に復活させられるのか。復活したとしてファリンはまともな状態なのか、と。

 

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ファリン「にい、さ……」
ライオス「良かった……!」

 

文字通り血まみれで肉を成したファリンにライオスはおっかなびっくり触れようとし、私達も手を握り合わせるようにしてそれを見守る。ファリンが目を見開き、気道に溜まった血を吐き出し、兄やマルシルを認識し……蘇生が半信半疑から安堵へと変わっていく感覚は、詰まりかけた飯が喉を通っていく瞬間に等しい。食べていいものなのか迷いながら口に入れた食材が、極上のそれだと腹落ちしていくかの如き心地。これほど「美味しい」ご飯が他にあるだろうか? そう、ファリンが復活した後のこの12話はあらゆる出来事が食事に他ならない。

 

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ファリン「すごい……! すっごいすごいすごい! どんな魔物を食べたの? どど、どうやって食べたの?」

 

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マルシル「なーにを生意気な! 私の中じゃまだちびすけのままだからね!」

 

ファリンの血を落とすためマルシルが一緒に風呂に入る。ここに来るまでにモンスターをたべてきたことを話す。もうあんな無茶はするなとライオスが抱きしめる。あれやこれやのその時その時、中心にいるのはいつもファリンだ。彼女の一挙手一投足を見る度、ライオス達はファリンの復活を実感する。私達視聴者もまた、これまで断片的に語られてきた幼少期の彼女と成長した現在の彼女が同一人物なのを理解していく。噛み締めて・・・・・いく。その時あふれ出す多幸感は、魔物食の王と呼べる竜の肉を口にした時だろうと遠く及ばないものだ。ああ良かったと胸を撫で下ろすその時、私達はお腹いっぱいになったような心地を味わっている。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

私達は時に、幸福になんとも言えない満腹感を覚えることがある。幸せな様子を見て「ごちそうさま」と言ったり、最近では好みの出来事に対して「◯◯からしか摂取できない栄養がある」などという言い回しをしたり……
「食事」をする時、そこにはどんな調味料よりも幸福が欠かせない。ファリンを助け出したこの12話、ライオス達が真に味わったのは炎龍の肉ではなく至福の食卓なのである。

 

感想

というわけでダンジョン飯のアニメ12話レビューでした。レビューを書く時は何度も続けて対象回を見返すのですが、今回はそれだとちょっともったいない感があってですね。それはたくさん噛むというより噛み締めている、味わっているということなんじゃないかということでこんなレビューになりました。とはいえ今回は最終回なんかではないわけで。さてさて更に変わっていく物語がどんな映像になるのか楽しみです。来週から時間の関係上、レビューを書くのが遅れていってしまうのがもどかしい……!

 

 

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