星の所在――「メタリックルージュ」11話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

紐解かれていく「メタリックルージュ」。11話では金星でのルジュ達の決戦が始まる。だが、副題にある「狙われた星」は金星を指していない。

 

 

メタリックルージュ 第11話「狙われた星」

metallicrouge.jp

1.二つの星

アルターの占拠した金星へ近づくもミサイル攻撃を受け、プラントへ強制着陸を余儀なくされたルジュ達。しかもジーンのいる移動カーニバルへ向かう中で一行は分断されてしまう。果たしてルジュはアルターを止め、人間とネアンの自由を守れるのか……?

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

エデン「このまま突入する!」

 

衝撃に備える「メタリックルージュ」。11話ではルジュ達が金星に到着し、最後の戦いの幕が上がる。とはいえ今回の「狙われた星」という副題はそのまま受け取るといささかぼやけた印象を受けるタイトルだ。確かに金星は地球人類と宇宙人・来訪者の約束の星であり、また人造人間ネアンとその生命維持に必要なネクタルのプラントが用意されているという戦略的に大きな意味を持ってはいるが、主人公であるルジュ達にとっても敵対する組織アルターにとっても金星そのものは目標ではない。ルジュの目的は兄ジーンの奪還と社会に大きな混乱をもたらすコード・イヴを止めることにあるし、アルターの目的は人間への隷属を強いるアジモフコードの抹消によってネアンを解放すること。金星はあくまで舞台に過ぎないのだ。

副題にある「星」とは何か? それを考える時、アルターに協力する謎の人間・人形遣い師の今回の台詞は示唆的である。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

人形遣い師「役割というのは時に与えられるもの。ましてや、エヴァ・クリステラの息子であるあなたには役割を果たす義務があるのでは?」

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

人形遣い師「この世は全て舞台。見えざる手に操られる人形劇のようなもの」

 

人形遣い師が語っているのはある種の運命論だが、運命はしばしば「星の下に生まれる」と形容される。そう、「星」。星を運命だとか見えざる手として読み直す時、確かにルジュ達はそれに操られている。金星到着直前に彼女達はミサイル攻撃を受けたがそれには手心が加えられていたし、到着後も人形遣い師の部下オペラの妨害によって離れ離れの行動を余儀なくされている。自分の意思や偶然によって事が運んでいると錯覚しているが、今回のルジュ達はまさに見えざる手に操られた人形のようなものだ。だが、だからといってただ操られているばかりかと言えばそれも正確ではない。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

アッシュ「行くぞシアン。ルジュとどっちが先にゴールするか競争だ」
シアン「うん、分かった!」

 

オペラによって分断されてしまった際、姉と慕うルジュと分けられたシアンを同行者の一人アッシュは競争に例えて言いくるめた。強いられた別行動を自分達の選択と読み替え、どちらのルートからも向かえる移動カーニバルをシアンの目的地に設定してみせたのだ。また金星を巡るこの大騒動は当然軍の出動も視野に入れて然るべきものだったが、真理部のチャウ部長は戦闘で金星付近の黒色反応炉が破損した際の被害の大きさを訴え解決をルジュ達に託させることに成功した。判断した者達はこれがチャウ部長の口車だと見抜いてはいたが、それが悪いものではないと考え受け入れた彼らの行動はアッシュの口車にもどこか似通っている。

 

ゴールだとか目的、目標といったものはある種の「星」である。何が正しくて何が間違っているのか分からない暗闇のような状況下、私たちはその輝きを目指すことで前進できるからだ。すなわち運命と目標という二つの「星」がこの11話には埋め込まれているのであり、しかも話はそれで終わりではない。ルジュ達とシアン達は確かに分断されたが、彼女達が向かおうとしていた移動カーニバルが接眼しているドックには両ウイングのどちらからも行くことができる。二つの星が合流する場所が、いやぶつかる場所が今回の話には用意されているのだ。

 

2.星の所在

© BONES出渕裕/Project Rouge

アッシュに言いくるめられて移動カーニバルへ向かったシアンだったが、彼女には不安要素があった。かつてシアンがルジュ達に敵対したのは彼女だけに聞こえる声、製作者である人形遣い師とも異なる謎の声が原因であったが、その声の主が何者なのかはまだ判明していないからまた聞こえてこないとも限らないからだ。シアンは今度は声が聞こえても自分で決めると決心していたが、結局はその行動を操られ一人走り去っていってしまう。彼女を追いかけたアッシュが見たのは、仮面を外した人形遣い師の声こそ謎の声の正体であったこと、二つの声が一つであった驚きの事実であった。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

シアン「仮面のお父さん……あの声はお父さんじゃないよね」
人形遣い師「いいや、『私だよ』」

 

人形遣い師の素顔は今回画面上には現れていないが、その声やアッシュの「俺としたことがまんまと騙されてたってわけだ」という反応からすれば、この怪人物の正体がロイ・ユングハルト博士なのは明白である。アルターの主要メンバーであるプロトネアンを生み出した創造主、殺害されたが動機も犯人もはっきりしないためアッシュが追っていたこの人物は、一連の騒動の糸を裏で引いていた黒幕でもあったのだ。つまり人形遣い師が正体を示唆したこの瞬間は、運命と目標という二つの「星」が衝突した瞬間でもあった。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

アリス「あんたもシルヴィアと一緒。人間もネアンも、考え過ぎるとバカになるやつが多いのよね」

 

運命に操られる者は受動的に、目標を目指し前進するものは主体的に見え、一般に私達は前者を称揚する。だが口車の例のように与えられた運命に主体的に振る舞うことは可能だし、自分の意思で決めてやってきたことが振り返れば見えざる手に操られた道筋に見えてくることは少なくない。全く異なるはずの両者はしかし、両ウイングを進んだルジュとシアン達がそうであるように同じところへ向かい合流するものでもあるのだ。その不可思議に気付いた時、両者が衝突した時、私達は衝撃を受けずにはいられない。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

グラウフォン「安心しろ。忌み子であるお前の息子はまだ息をしている」
エデン「ジーンを返してもらう……!」

 

星を狙うこの11話は、金星ではなく運命を目標の二つの星を示す物語であった。けれどその二つがぶつかった時、衝撃と共に生まれる輝きこそは真の「星」――本当の意味でルジュ達が合流すべきゴールなのである。

 

感想

メタリックルージュの11話レビューでした。アバンの「ミサイルの標的」「避けきれない」「衝撃に備える」などを元に描写を拾っていくとこんな感じかなと。ジーンの正体も二つの星がぶつかった結果らしいことが示唆されていますが、どう落ち着けることになるのかな。人形遣い師に新しい役柄を与えられてしまったシアンのこれからも大変に不安です。どういう形であれ、子供にはやはり幸せになってほしい……次回はおそらく日をまたいでの更新となってしまうと思いますが、残り2話を見届けたいと思います。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけると励みになります>