二つの似姿――「メタリックルージュ」10話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

よく似た者の「メタリックルージュ」。10話ではシアンが思わぬ形で再登場する。今回のルジュ達とアルターからは、家族の二つの肖像が見えてくる。

 

 

メタリックルージュ 第10話「家族の肖像」

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1.取り戻せない家族

アルターを止めるべく金星へ向かうルジュ達だが、宇宙船にはいつの間にかシアンが乗り込み眠りについていた。目を覚ました彼女はルジュを姉と慕う別人のような少女になっていて……?

 

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姉妹のような「メタリックルージュ」、10話の副題は「家族の肖像」となっている。数多くの肖像画が示すように、肖像とは対象の姿形をうつしとったもの――似姿(にすがた)だ。そして本作は今回、家族の似姿を二つ映し出している。

 

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ジーン「……ここは?」
シルヴィア「気に入った? 懐かしいでしょう。私達が幼い頃に住んでいたあの家を再現してもらったの」

 

似姿の一つ、それは金星で大願成就を待つアルターの回顧だ。リーダーのシルヴィアは仲間であるインモータルナインや捕えたジーンを伴い、かつて地球で過ごした日々を懐かしく振り返る。皆で過ごした休日の、ろくでもないことも含め今となっては全てが笑い話の思い出……当時住んでいた家をわざわざ金星で再現までするのだから手が込んでいるが、似せようとすればするほど浮き彫りになるのはもはやかつての日々には戻れないことだ。不死のはずの9人は既に4人が命を落とし、シルヴィアの愛したエデンに至っては敵対した結果重要ユニットであるイドを抜かれて余命幾ばくもない。彼らの姿形だけならインモータルナインの一人ジャロンがその能力で真似できるが、快楽主義者のこの男がエデンに化けても中身は当然別物だ。アルターの描く似姿は、似せれば似せるほど本物からかけ離れてしまうジレンマに捕らわれていると言えるだろう。では、もう一つの似姿はどうであろうか?

 

2.ナオミの嫉妬

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シアン「お姉ちゃん!」

 

アルターと対になるもう一つの似姿。それが主人公であるルジュ達の側なのは言うまでもないだろう。宇宙船で金星へ向かっていた彼女達は今回、仲間の一人ナオミが最終兵器として持ち込んでいたアンチフェイザーの箱にいつの間にかシアンが入り込んでいたことに驚愕する。シアンはかつてルジュの妹を名乗り彼女を破壊しようとし、互角のスペックを持つことからナオミの機転なしでは無力化できなかった相手なのだからびっくりするのも当たり前だ。だが自分に命令する「声」が止んだという彼女は打って変わって子供のような幼さを見せ、ルジュを「お姉ちゃん」と呼んで慕うようになっていた。スペックや姉妹という部分からはルジュとシアンが似姿のように思えるが、ここで注目したいのはナオミの方である。

 

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ナオミ「神祇官の権限で強制入浴を執行します! ぬああああ!」
シアン「いやだああ!」

 

ナオミは今回、シアンとよく喧嘩する。もちろん頭脳明晰な彼女が子供っぽいシアンと相容れるわけはないのだが、今回のナオミはいささか意地が悪い。例えばシアンの正体はかつてルジュに接触した人形遣い師が彼女のデータを元に作ったネアンであったが、ナオミは定義を厳密に語ることで彼女とルジュが姉妹なのを否定してみせたりする。また作戦会議を邪魔された時のつっけんどんな態度には冷静な彼女らしからぬ苛立ちが含まれていたし、シアンを風呂に入らせようと追いかけ回す場面に至っては全く同レベルに陥って見える。要するにシアンと姉妹のように――似姿のようになっているのが今回のナオミなのだ。

 

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ナオミ「自分には絶対に手に入らないものをもっているのを見ると……ちょっとだけ羨ましい」

 

なぜナオミが子供っぽくなってしまうのか? 理由は明瞭である。ルジュとシアンが寝静まった頃、同行者の一人アッシュに眠れないのかと尋ねられた彼女は皆に家族や大切な人との思い出があるのを羨んでいる気持ちを打ち明けている。宇宙人・来訪者が人間と接触するために作った最初のネアンという正体を隠して生きてきたナオミにとって、そういったものはこれまで望むべくもなかったのだろう。……ルジュと出会うまでは。彼女と出会い共に行動する中でナオミは来訪者からも指摘を受けるほど変化し、遂にはこの金星行に同行するため生まれて初めての休暇を申請するまでに至ったわけだが、そんな相手に突然自称妹が現れ、自分などより遥かに近い距離感で接するのを見て冷静でいるのは到底無理な話というものだろう。はっきり言えば今回、ナオミはシアンに嫉妬しているのだ。ルジュを取られないか気が気でなく、だからシアン以上に子供のように意地悪く振る舞ってしまう。意識するでも真似するのでもなく、いつの間にかナオミとシアンは姉妹のようになっていた。

 

3.二つの似姿

かつての家族の似姿を描こうとするアルターがもはやかつてに戻れず、かつてなど知らず意識もしないナオミとシアンが姉妹の似姿になっている。劇中のアッシュの後悔を振り返る時、この構図は示唆的である。

 

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アッシュ「ノイドを見ると息子を思い出しそうになっちまうから、あんまり深いところで関わらないようにしてたが……今となってはもっと話しておけばよかった。仕事じゃないどうでもいい時間をもっと一緒にな……」

 

守護局の捜査官であるアッシュがこの金星行きに同行したのは、相棒にして少し前に殉職した相棒のネアン・ノイド262のためだ。離婚によって息子とも別れた彼はノイドに子の面影を重ねてしまう自分に目を背けて敢えて邪険に扱っていたが、死なれてみれば痛感したのはノイドが息子同様に大切になっていた事実であった。追うどころか意識的に避けてすらいたにも関わらず、ノイドは息子の似姿になっていた。

 

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ルジュ「……最高の他人?」
シアン「なにそれ?」
ルジュ「うーん、そうだな。ムカつくとこもあるけど、ずっと一緒にいても平気。最高の他人だな、ナオミは」

 

似姿は似せて似るのではなく、気付けば似ているもの。ルジュは今回、知らずしてそれを体現し実践している。意地悪されて癇癪を起こしナオミを怪我させてしまったシアンを諭す際の彼女は誰がどう見ても「お姉ちゃん」で、そこにはシアン同様厳密には違うにも関わらず「お兄ちゃん」として接してくれたジーンの温かさの記憶があった。「お姉ちゃん」は「お兄ちゃん」の似姿だったのだ。またシアンにナオミはどういう存在なのか問われたルジュは、「最高の他人」……ムカつくところもあるけどずっと一緒にいられる人だと評したが、これは偶然扉の向こうでそれを聞いていたナオミをして今まで見せたことのないような安堵の表情を浮かべさせるものだった。ルジュにとってナオミは姉妹ではないが、それと同じように大切な存在ではある。似姿ではある。いや、気付けばそうなっていた・・・・・・・のだろう。これらの似姿に、アルターの時のような永遠に目的地にたどり着けない遠さはない。むしろ一致していないにも関わらず、目的地に既にたどり着いてしまったような自由さがある。劇中でシアンが「絵の中ならなんにでもなれる。絵の中は自由だから」と語るように、肖像「画」には、似姿にはある種の自由さがある。

 

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ルジュ「愛する人の願いを、わたしがやりとげる」

 

定義というものは難しい。突き詰めれば突き詰めるほどかえって遠くなり、しかし定義づけせずとも「そうだ」としか言いようのない状態は確かに存在する。シルヴィアが回想する思い出の時分、彼女やジーン達は間違いなく人もネアンも関係のない家族だった。しかし時が過ぎ「家族」という表現を当てはめて振り返る今、彼らはもはや家族ではない。一方でシアンの姉らしく振る舞えているルジュがジーンを一つのロールモデルにしているように、全くの無意識だけが家族を成立させるかと言えばそれもまた否だ。自由と秩序がそうであるように、どちらかだけでは「家族」は成り立たないものなのだろう。
この10話は二つの似姿を描いた回である。「家族」に象徴される、不確かなあわいに漂うものの姿形がこの30分にはうつしとられているのだ。

 

感想

メタリックルージュの10話レビューでした。目が覚めたらそのままでは無さそうだなとは思ってましたがシアン、ここまで変わるとは。回想のどうあっても戻れなさ、ルジュの成長やナオミの表情なども含め見どころの多い回だったと思います。アキレスとニウスの生きている時も見てみたかったなあ。
エデンが記憶を失い始めているらしい描写も含め、果たしてどんな結末が待っているのか。「最後の出し物」を見届けたいと思います。

 

 

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