のっぺらぼうの逆襲――「メタリックルージュ」12話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

誰を問う「メタリックルージュ」。12話ではネアンのユニットであるイドが特別な輝きを放つ。それはいわば人の魂の輝きである。

 

 

メタリックルージュ 第12話「仮面の墓場」

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1.否定される特別さ

シアンを捕えた人形遣い師は彼女に仮面を被せ、しばらくは台本のない即興劇が続くと告げる。一方のルジュ達はジーンと再会したが、妙にテンションの高い彼の姿は明らかに異様で……

 

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終わりが近づく「メタリックルージュ」。12話では終盤らしく残り少ないインモータルナイン達が命を散らしていくが、その描写は一言で言ってあっけないものだ。グラディエイターへ変身することで超常的な能力を発揮する彼らだが、そんな存在でも胸や腹を貫かれればそれはあっけなく致命の傷となる。インモータルナインの中でも特に戦士然としたグラウフォンしかり、詐術に長け自分の死も偽ってみせたジャロンしかり……

 

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ジーン「ありがとうルジュ! じーん……」
ルジュ「ねえ、これって……」
ナオミ「うん、間違いないね」

 

強さや能力があれば特別なわけではない。そのことは今回、ジャロンの扱いに顕著である。擬態能力を駆使してきた彼は、この12話ではそれをまるで有効活用しない。ルジュの兄ジーンに化けて現れたもののふざけた言動からは彼女を騙す気など毛頭ないのが見て取れるし、彼を従えつつも内心嫌っていたアルターのリーダー・シルヴィアの前には抵抗する間もなく始末されてしまう。快楽主義者で道化のように振る舞ってきたこの男もまた、特別さからは程遠かった。

 

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シルヴィア「ずっと続いているんだ、ネアンと人間の戦争は! 私達9人が生まれたその日から!」

 

ジャロンの特別さを否定してみせたシルヴィアは、返す刃で別の特別さもまた否定してみせる。いわく、コードイヴで人造人間ネアン達を解放すれば社会が大混乱に陥るとルジュの兄ジーンは言うが、強靭な肉体を持つネアンですら3年しか寿命が持たない金星で労働を強いられる現状はかつて火星で起きた戦争=混乱と変わりはしない。そんなものは特別ではないのだ、と。けれど一方で彼女は、ネアンが人間に逆らえないようにするアジモフ・コードを無効化するコードイヴの特別さにすがりもしている。その起動に必要なルジュのイドを特別なものともしている。強大な力を持つネアンが人間に従う必要などないと考える彼女は、つまるところネアンの特別さを信奉していると言えるだろう。

 

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ルジュ「ナオミ、手、手ぇ貸して……」

 

ルジュのイドはコードイヴの解析機にを一度セットされれば取り外せないから、誇りをもってその身を捧げてほしい――崇高で特別な死を迎えてほしいというシルヴィアの頼みをルジュは当然ながら受け入れない。死んだら大好きなチョコレートが食べられない、と付け加えるのも特別さの否定として洒落ている。だが、結果を見ればルジュは敗北しイドを奪われてしまった。シルヴィアの信奉する特別さを否定するには、それだけでは足りないのだ。

 

2.のっぺらぼうの逆襲

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ルジュだけでは不可能な特別さの否定は、いかにして果たせるのか? その役割を担うのはルジュの相棒、ナオミである。宇宙人・来訪者に最初に作られたネアンである彼女は詭弁じみた理屈まで並べてルジュに同行する許可を来訪者から得ていたが、それだけでは自由になれたわけではなかった。ナオミは場合によっては決戦の場である金星をコントロールする黒色反応炉を暴走させ、全てを消滅させるよう指示を受けていたのだ。
ルジュの敗北によってナオミは彼女を見捨てての命令を実行を余儀なくされるも、反応炉のコントロールルームへ向かうさなか機械兵士に行く手を遮られてしまう。絶体絶命と思われたナオミを救った者――それは意外にも、腹を貫かれ死んだと思われていたジャロンであった。

 

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ジャロン「実に面白い。来訪者の方も随分と洒落たことをお考えになる。あなたがどんな未来を選ぶのかとても楽しみです、ナオミ・オルトマン。いえ、アデュー、ファースト……」

 

なぜ助けたのか? ナオミに問われたジャロンは自分は楽しみたいだけだと語り、またナオミが受けた命令を推測しそれを実に面白いと評する。……だが、生粋の詐欺師である彼の発言は言葉通りに受け取るべきではない。おそらくジャロンはナオミに警告しているのだ。「来訪者のその「面白い」命令を実行するなら、あなたは自分と同じ空っぽの存在に過ぎないぞ」と。

 

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ルジュ「どこに行ってたのかは聞きませんが、いいの? 戻ってきちゃって。なんかやることあったんじゃないの? それが合理的な判断……?」
ナオミ「分かんないよ。こんなの全然合理的じゃない。理屈が通ってないし、命令を破ってまでやることでもない。あたし壊れちゃったのかなあ……」

 

振り返ってみれば、ナオミというネアンはジャロン同様の詐欺師であった。能天気に振る舞っているようで実際はいつも計算づく。真理部の優秀なエージェントかと思えば守護局のスパイ、かと思えば実際は来訪者の作ったネアンで人間ですらない。能力を使わずとも擬態を繰り返してきたのがナオミなのだ。すなわち、シルヴィアのジャロン評を借りれば「誰かの顔をして、誰かのふりをして、本当は誰かを求めているだけのつまらない男/女」……己の特別さを否定されたジャロンはなんと、それによってこれまた詐欺の如く己とナオミを重ねてみせたのである。そして、自分がジャロンになりかねない危地にいることを指摘されたナオミは当然そのままではいられない。彼女は結局ルジュを見捨てられず、合理的思考の持ち主という自負も命令もかなぐり捨ててルジュのところへ戻っていった。

 

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エデン「ったく、バカな男だ」
グラウフォン「貴様もな」
エデン「確かに……」

 

かつてルジュと刃を交えたインモータルナインの一人、幻影のヴェルデは人間もネアンも共に愚かな存在だと諦めていた。どちらが特別でもないことに絶望していた。だが、特別でないことは必ずしも悲観すべきことではないはずだ。ルジュ達とは別の場所で戦っていたグラウフォン、そして漆黒のノアールことエデンは、命の奪い合いをしなければならないほど立場を違えていたにも関わらず愛する者のために戦う一点だけは変わらなかった。だからこそグラウフォンは戦いながらもエデンを友と呼び、エデンもまた内心ではシルヴィアを止めて欲しがっていたグラウフォンの末期の願いを約束として受け止めたわけだが、彼らに共通するものは正しさや間違いとは別のところにあって、そしてそれは決して特別なものではなかったのだ。

 

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ナオミ「エデンもそうだったし、しばらくは大丈夫っしょ。さっさと終わらせて返してよね」

 

私達には生まれや立場、性別、思想様々な違いがあるけれど、そんなものは本当はただの仮面に過ぎない。仮面を引っ剥がした下にあるのは「人間」……ヒトだろうがネアンだろうが意思持つ者全てに共通する愚かな思いだけであり、その点で私達はのっぺらぼうにも等しい。けれど、だからこそ私達はみな等しき存在なのだとも言える。それを証明するように、コードイヴのためのイドを奪われ瀕死に陥ったルジュに戦闘能力を取り戻させたのはナオミが自らの身体から抜き出したイドであった。ルジュのイドは確かにコードイヴのための特別なイドであったが、彼女が活動するには別に特別なイドである必要はなかったのだ。そう、特別さを奪われた彼女は特別でなさによって救われたのである。それも自分のイドを他者に貸すという、人間にはけしてできない(=特別)が極めて人間的な(=特別でない)ナオミの行為によって。彼女はエデンが以前イドを奪われてもある程度は問題なく活動できていたのを応用したわけでもあるが、ここでナオミがルジュに渡したイドとは単なる機械部品ではなく、いわば「意思持つ者全てに共通する人間らしさ」の象徴だと言えるだろう。仮面を剥がされのっぺらぼうと化した者達は、特別でないことを福音に裏返すことで逆襲してみせたのであった。

 

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ユングハルト博士「お前は自由か? ルジュ・レッドスター

 

この12話はルジュ達の前に仮面の男・人形遣い師が現れ、その正体がなんと死んだはずのルジュやジーンの父ロイ・ユングハルト博士と判明したところで幕を下ろす。仮面の下がこの男であるのは無論特別・・なことであり、つまり彼はのっぺらぼう達の不倶戴天の敵だと言える。いよいよ次回迎える最終回、ルジュ達はいかにしてこの特別さに立ち向かうのだろうか?

 

感想

以上、メタリックルージュの12話レビューでした。副題やグラウフォンとエデンのやりとりから「仮面の下は皆同じ」みたいな話なのかなとは考えましたが、それがナオミとジャロンにも言えるのではないかと思いつくまで何度も視聴を繰り返すことになりました。ジャロン、間違いなく外道なのにここで感動まで持ってくるのが正に詐欺師じみていてズルい。しぶとく生き残っていて更に詐欺を重ねてくれ!などと思ってしまいます。その流れからナオミのイド貸出がぐっと胸に迫って感じられるようにもなりました。さてさて、ロイ・ユングハルト博士の再登場は物語に最後何をもたらすんでしょうね。最終回が楽しみです。

 

 

 

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