一つと二つの円環――「メタリックルージュ」6話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

擬態する「メタリックルージュ」。6話では地球に戻る船で事件が起きる。ミステリーとも言い難い今回の話は、船の行き先がそうであるように「帰還」の話だ。

 

<2/20追記>

7話前に見返してようやくこの回の形が見えたので追記しました。副題が全てだった。

 

メタリックルージュ 第6話「名前がない客」

metallicrouge.jp

 

1.今回の課題

幻影のヴェルデのイドを回収したルジュとナオミは地球へ戻るべく連絡船へ乗っていた。客船で短いバカンスと洒落込むはずが、なんと殺人事件が発生し……?

 

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アッシュ「ナオミ・オルトマン、殺人容疑で身柄を拘束する」

 

帰り道もただでは済まない「メタリックルージュ」。6話はこれまでとは少し雰囲気の異なった回だ。宇宙船で連続殺人事件が発生、主人公ルジュの相棒ナオミが容疑者として拘束される……といったシチュエーションはミステリーじみたところがある。ただ、本作はテック・ノワールSFを謳っておりミステリーではない。もちろん1話だけミステリー仕立てにする作品も無いでは無いが、今回の場合犯人はインモータルナインの一人「黄泉のジャロン」だと最初から分かっているから推理もへったくれもない。テック・ノワールSFとミステリーの二つに本作のジャンルが増えたように見せかけて、後者は擬態した偽物に過ぎないのがこの6話なのである。そしてジャロンの特殊能力でもある擬態とは、今回多々見られる「一つしかないものを二つに見せかける」仕掛けに他ならない。

 

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エス「事件でしばらく部屋から出られなくなるかもしれないから、アリスが食べ物もってこいって。人使いが荒いんだ」

 

例えばルジュとナオミは連絡船でアエスとアリスという双子の姉弟と知り合うが、二人が同時にいる場面は描写されずそこには一人二役=擬態の疑念が付きまとう。またジャロンは別人に擬態して次々に人を殺していくが、アリバイが無い時間を狙うどころか被害者と同じ姿に化けて対象を殺害しており同一人物が同一時刻に別の場所にいる矛盾を隠そうともしない。すなわちこの6話の課題は事件の真相にはなく、「二つあるように見えるものをいかに一つにするか」が重要なのだ。

 

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ルジュ「早く撃って!」
ナオミ「……って言われても、どっち!?」
ルジュ「分かるでしょ!?」

 

ルジュ達は犯人に限らず、様々な「二つあるように見えるもの」を一つにしていく。真理部エージェントとしての任務遂行よりも自分が相棒の容疑や犠牲者の発生を見過ごす矛盾の解決を優先したり、ルジュに擬態したジャロンとどちらを撃つか迫られたり、見た目と違って擬態できない体重から絞り込んだジャロン候補の最後の割り出しをルジュの拳に頼ることでミステリー要素をゼロにしてしまったり……だが、ここまで書いてなんだが彼女達は本当に「二つあるように見えるものを一つ」にできているのだろうか? なにせ本作は人間と決定的に違うにも関わらずむしろ人間的なネアンが存在する、「一つしかないものを二つに見せかける」作品なのだ。課題に直面しているからと言って、それを解決できるとは限らない。

 

 

2.一つと二つの円環

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ジャロン「やっぱりあなたは面白い」

ルジュ「あんたのがオモロいわ!」

 

二つあるように見えるものを一つにしているようで、実態はむしろ逆。それは例えば先述のジャロンの最後の割り出しから見ることができる。乗船時の体重から絞られた10人程度の候補の誰にジャロンが擬態しているのか?を推理ではなくルジュが拳で確かめていくやりとりは確かにミステリーからかけ離れているが、そこには代わりにギャグアニメのような滑稽さが新たに生まれて=ジャンルが二つに増えている。もちろんこれまでも本作に笑いがなかったわけではないが、候補の中でジャロンがなんと人ではなく犬に化けており、二足歩行になった犬のジャロンとルジュが「やっぱりあなたは面白い」「あんたのがオモロいわ!」などと言い合う姿は明らかにこれまでの一線を越えている。またルジュは候補の一人を殴った際に「そんなんじゃ嫁の貰い手が」などと言われて容赦なく二撃目を見舞っているが、これなどは殴打の目的が捜査と私怨の「二つ」に増えてしまっている分かりやすい例に挙げられるだろう。

 

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見せかけの二つを一つに戻しているのか、一つしか無いものを二つに増やしているのか? 境は曖昧である。正体を現したジャロンは「自分を同じ強さを持つ者、殺されるかもしれないというスリルを味わいながら」ルジュを殺したかったと打ち明けるが、そこにはルジュを自分と同じ「二つ」に見立てつつ自分こそが「一人」であろうともする言葉通りスリリングな欲求が見え隠れする。勝敗だけ見れば彼はルジュに敗北するわけだが、それが己の放った光輪を逆利用される自滅に近い形なのは「二つ」と「一つ」の綱渡りの失敗の視覚化でもあるのだ。そして、こうした綱渡りをしているのはジャロンだけではないことをルジュは今回のラストで知ることとなる。

 

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ナオミ「ルジュ・レッドスター。あなたを人造種運用規定第五条九項違反で拘束します」

 

ジャロンを地球に蹴り飛ばし連絡船に帰還したルジュは苦労の末ナオミを見つけ出すが、見慣れない赤茶色の服を着た人間達と共に立つ彼女はルジュの知るナオミではなかった。真理部のエージェントにして相棒だったはずの彼女の正体はなんと、真理部と敵対する守護局が送り込んだ「もぐら」……スパイだったのだ。
ナオミ・オルトマンという人間はもちろん一人しかいない。けれどその外見を他人が擬態できるものに過ぎず、その肉体はルジュとの連絡に使ったメッセージバードで代用でき、彼女がルジュに今まで見せていたのは仮の姿に過ぎない。もちろん、だからと言ってルジュとのこれまでの時間が全くの嘘だったわけでもないだろう。「二つ」と「一つ」の定義は無数にあり、故に境界線もはっきりしない。ナオミが二つの顔を明かしたとも、バディ関係が解消されて二人が一人に戻ってしまったとも、どちらにだってどうとだって言えてしまう。「理屈と膏薬はどこへでもつく」とはよく言ったものだ。
一つと二つは正反対のようで本当は繋がっている。人とネアンの違いも、自由も束縛も、自分も自分に非ざるものも、全ては元いた場所に帰還する円環の中にあるのだ。

 

<2/20追記>

7話に備えメタリックルージュ 6話を見返したがやっと分かった。これ、副題通り皆が「名前のないGuestユーザー(客)」になっていく話なんだ。

 

一人二役にしか見えない双子、その正体は誰なの? 姿形は同じなのに同時刻に別の場所にいる奴、誰なの? みんな登録情報の無いGuestと同じ。

 

ルジュ達は後者がジャロンと知っているが、自分に化けられ己も正体を怪しくしていく。憎き仇との対決もあっさりかたを付けられ「これ何?」となる。

 

戦い終わってみればナオミは守護局のエージェントだったと明かされるが、じゃあナオミ・オルトマンて「誰?」 イドを回収できず一応父の仇を討ち終わった時点でルジュの役割は終わっていて、じゃあ守護局に拘束されるルジュは「誰?」 みんなみんな「名前がない客」。

 

客=Guestユーザーにさえ気付けばすごくシンプル。まさに「お前は自分か? ルジュ・レッドスター」のための話だ。

 

感想

というわけでメタリックルージュの6話レビューでした。何か言えた気になってしまってはいけない作品なのを改めて感じるというか。それでもどこまで踏み込めるのか、本当に本作は難しい。イドの回収を考えるとジャロンはまだ生きてるんじゃないのという気もしますが(というかもっと彼の暴れっぷりを見たい)、いったいどうなんでしょうね。

 

 

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