最初の歯車――「メタリックルージュ」7話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

ズレ続ける「メタリックルージュ」。7話では急展開が続く。副題である「正しい歯車」の指す「正しさ」、そして「歯車」とは何なのだろう?

 

 

メタリックルージュ 第7話「正しい歯車」

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1.Appropriate Gear

拘束されることとなったルジュの処遇を巡り、多くの者達の思惑が交差する。真理部、守護局、アルタージーン、ナオミ、アッシュ……果たしてルジュはどうすべきなのか?

 

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ナオミが守護局のエージェントと前回判明し、主人公ルジュとの二人旅が終わりを告げた「メタリックルージュ」。7話の副題は「正しい歯車」である。”正しい”と言っても色々だが、アイキャッチでは「Appropriate Gear」と訳されており「状況に対する適切さ・ふさわしさ」と解釈するのが妥当なようだ。

 

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ナオミ「危険かどうかは神祇官である私が判断します。あなたではない」

 

「状況に対する適切さ・ふさわしさ」……確かに今回、その正しさは問われている。ナオミは真理部への潜伏中の上司であったジーンを次長ではなく元次長と呼び直しているし、守護局と真理部の話し合いに民間企業の人間であるヘルマンが同席しているのを疑問視しその理由が私怨(ヘルマンはパトロンになっていたサラ=煉獄のヴァイオラをルジュに殺されたことを恨んでいる)だと指摘することで引き下がらせている。警察の役割も担う組織としてはこうした正しさを重んじるのは自然なことだろう。だが、「適切な処分」は守護局の好きな言葉だとジーンが皮肉るようにそれは欺瞞である場合も少なくない。

 

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強力なプロトネアンの製造や使用を禁止する人造種運用規定に違反した存在だとして真理部本部に監禁されていたルジュは今回、2話で出会った女性ジルに救出される。ただのカメラマンの彼女がそんなことをするには”正しさ”が必要で、それはジルの正体がネアン解放のため戦う組織アルターの長・閃光のシルヴィアだと判明することで充当されるのだが――そこにはまだ別の”正しさ”が不足している。シルヴィアが疑問視するように、戦闘形態へ変身<ディフォルム>できるルジュなら脱出するチャンスはあったはずなのだ。なぜルジュは大人しく拘束されていたのか? シルヴィアの問いかけにルジュは答えないが、一つ推測することはできる。

 

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ルジュ「あれ? ジルに見える。幻覚かな」

 

ジル(シルヴィア)によって拘束装置から解放され意識を取り戻した際、ルジュは「あれ? ジルに見える。幻覚かな」と返していた。彼女はおそらく、眼前にジルがいる理由が分からなかった以上に自分を助けてくれるのが想像していた相手と違ったからこそこんな反応をしたのではないだろうか。誰に?と言えば、もちろんナオミ以外にはいまい。短い間だが一緒に旅をした相棒が、裏切ったふりをして自分を救い出してくれる……そういう”正しさ”を期待してルジュは抵抗することなく拘束を受け入れていたのだろう。

 

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ルジュ「ナオミ……なんでよ!」

 

ナオミは助けに来てはくれなかった。脱出した彼女を目ざとく見つけはしたものの、手を振るだけで一緒には来てくれない。そこに彼女の願った”正しさ”は無い。だからルジュは「なんでよ!」と叫ばずにはいられないのである。

 

2.最初の歯車

ルジュの期待した”正しさ”は得られなかった。それは同時に、副題のもう一つの要素である”歯車”がズレたまま物語が進むことも意味する。

 

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ジルは確かにルジュを助けに来てくれたが、それはアルターこそが彼女が身を置くに”正しい”組織であることを意味しない。脱出のため容赦なく人を殺害し、自分達にアジモフコードの呪縛を課した人類に罰を与えなければと叫ぶ「閃光のシルヴィア」の思想をルジュは受け入れられない。だから彼女はジルから逃げ出してしまう。

 

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アリス「私達にとってはルジュ、あんたは確実に悪者」

 

またルジュは乱入してきたもう一人のプロトネアン、「双頭のアルコス」……連絡船では双子かと思われていた多重人格者のアエス-アリス・マキアスになぜ自分達を殺すのか問われるが上手く答えられない。兄と慕うジーンは間違ったことを命じないと信じてきたが、これまで抹殺してきたサラやアフダルが悪者だとはルジュ自身思えない。ジーンも彼女に命じた極秘任務の咎で真理部次長を解任されており、このままかつてと同じことを続けるのが”正しい”とは思えない。

 

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ジーン「ルジュの秘密……」

 

回転運動の伝達装置である”歯車”には、そこから発展して二つの意味が与えられている。一つはルジュ達が悩んできたような、自分が組織の部品のように扱われるという意味での歯車。そしてもう一つは大きな流れの調子や噛み合い方を指す、本節の最初で触れたような意味での歯車。ジーンは劇中で歯車の調整が必要だと語っているが、これは両方の意味で言えるところだろう。コードイヴなるものを秘めるルジュは多くの組織が己の”歯車”として求める、目標達成のために必要な”歯車”なのだから。そして彼らの思惑とは別に、この閉塞した状況を打開するためにルジュは自らの歯車もまた調整しなければならない。

 

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アッシュ「俺らユング殺害事件捜査班はな、この映像を手がかりにお前のことを赤い容疑者として追ってたんだ」
ルジュ「これはわたしじゃない……!」

 

どこがズレたから今こんなことになっているのか? 一番初めに調整すべき歯車のズレはどこにあるのか? ルジュの助けとなったのは、ひょんなことから彼女を匿ってくれた守護局捜査官アッシュとその相棒ロイド262であった。彼らはルジュの生みの親であるロイ・ユングハルト博士殺害事件の容疑者として映像に残された赤いグラディエーター=ルジュを追い続けてきたが、もちろんこれは彼女ではない。歯車がズレている・・・・・・・・アルターの一人であるプロトネアン・黄泉のジャロンは自分こそ犯人だと前回明かしたが、彼がなぜそんなことをしたのかは結局不明のままなのだ。

 

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ジャロン「ぶはぁ! ……あぁ~、死ぬかと思った……」

 

この7話は最後、前回倒してしまったからもう話は聞けないと思っているルジュ達を嘲笑うようにジャロンの生存が判明する場面で幕を下ろす。考えてもみれば、生来の詐欺師であるこの男はすなわち人の歯車をずらす達人でもある。ルジュと物語が”正しさ”を取り戻すなら、まずは彼がもたらしたズレをこそ調整すべきなのだろう。

自らの生死すらずらしてしまうプロトネアン・黄泉のジャロンとは、巨大な秘密を秘めたルジュとはまた異なる「最初の歯車」なのだ。

 

感想

dwa.hatenablog.com

というわけでメタリックルージュの7話レビューでした。前回6話が一度レビューを書いた後に副題通りの話だったと気付かされた(追記しました)ので、今回もそちらを軸にまとめてみた次第です。またルジュとナオミが一緒に行動する姿を見られる日は来るんでしょうか。というか、その時のやりとりに期待したい。状況だけなら終盤のようでもまだまだたくさんの登場人物が役割を残しているので、残り半分の話でどんなことになるのが見ていきたいと思います。

 

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