不在の幻影――「メタリックルージュ」4話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

幻の「メタリックルージュ」。4話では幻影のヴェルデとの暗闘が繰り広げられる。だが、「幻影のヴェルデ」などという者は本当に存在したのだろうか?

 

 

メタリックルージュ 第4話「自由と幻影と」

metallicrouge.jp

 

1.自由は幻に過ぎず

ユバルの死を嗅ぎつけた警察が居留地へ出動し、危機に陥るCFN。CFNに拘束されていたルジュはナオミから脱出を促されるが……

 

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ルジュ「この霧は……!」

 

終わりの見えない「メタリックルージュ」。4話はインモータルナインの一人「幻影のヴェルデ」が何者か判明する回だ。人造人間であるネアンの居留地に潜むその正体は医師のアフダル・バシャールであり、彼が体内で生成する神経性のガスにルジュは苦戦を強いられることとなる。だが、ヴェルデが誰か明かされるこの話に私が感じたのはむしろ、圧倒的な「不在」の方だった。それを説明するためにまず、主人公であるルジュの動向の方を追ってみたいと思う。

 

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この4話、序盤で描かれるのはルジュとその相棒ナオミの和解である。些細なことがきっかけで喧嘩していた二人は、ネアンを自由にしようと活動するCFNのリーダー・ユバルの殺害容疑でルジュが拘束され更にそれを口実に警察がネアン居留地に殺到する状況下で再び協力を誓うが、その際のナオミの台詞が印象に残った人は多いだろう。

 

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ナオミ「私が行きたいの。行ってあんたを手伝いたい。私に手伝わせろ!」
ルジュ「えぇ?」
ナオミ「これは私の自由意志。私もあんたも、真理部の道具でも備品でもないんだからね!」

 

喧嘩の際、ルジュはナオミは見ているだけだと、ナオミはルジュは真理部の道具や備品みたいなものだと売り言葉に買い言葉で痛いところを突き合ってしまったのを振り返れば、彼女のこの言葉はおよそ名調子と言っていいだろう。そして自由意志という言葉に象徴されるように、この時の二人から感じられるのは束縛から離れた行動だ。ルジュは敢えて逃亡しないことで幻影のヴェルデの正体を突き止めようと自分の頭で考えているし、ナオミもサポートだけならメッセージバードで十分だろうところ敢えてその身をルジュの近くに置こうとしている。命令や役割に縛られない、はつらつとしたやりとり……だが、それが本当に自由かどうかと言えば話は別だ。

 

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デュマ171「ユバルの見込み違いだったようだ。お前にネアンは救えない、お前も縛られているからだ」

 

ユバル殺害容疑での尋問の際、居留地に閉じ込められ死の自由すら与えられないネアン達を見て彼らを助けたいと思わなかったのかと問われたルジュは答えに窮する。尋問したネアンが答えを引き継ぐように、それは彼女の任務ではないからだ。そう、ルジュは確かに自分の頭で考えて逃亡ではなく迎撃を選んだが、それは幻影のヴェルデを抹殺する命令ありきの思考に過ぎない。他のネアンと異なりアジモフ・コードを心に組み込まれていない彼女をユバルは自由に生きたい自分達の希望だと語ったが、ルジュも人に必ずしも服従しない一点以外はけして自由ではなかった。

 

自由を得たように思えても、結局は束縛の中にいる。出口の見えないこの迷路は幻影に囚われるようなもので、物語は自然それをルジュの戦う相手に引き継がせていく。そう、「幻影のヴェルデ」に。

 

 

2.不在の幻影

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アフダル「……それはただの幻だ」
リオン「え?」

 

警察が乱入したため大混乱に陥った建物からアフダルの助手を務めるリオンに案内され脱出したルジュは、言動の矛盾からユバルの死に関与していると見抜き彼を追求する。リオンは尊敬するアフダルがユバルを殺す手伝いを頼まれたのを見かねて代わりに実行したことを明かし、姿を現した彼に自分もあなたのように自由に(人もネアンも変わりなく命を救おうとする存在に)なりたいと訴えるが――そんな少年を見るアフダルの眼は冷え切っていた。

 

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アフダル「私はお前が思っているような人間ではない」

 

アフダルは言う。自分は困っていなかったし頼んだわけでもなく、これはお前が勝手に思い勝手にやったことだと。そして自分が居留地でネアンを助けていたのも、「CFNを監視していたのも」与えられた役割を果たしていたに過ぎない、と。
自分の知る「先生」とは思えない言動に戸惑うリオンは、次の瞬間アフダルの正体である幻影のヴェルデの腕に腹部を貫かれて命を落とす。ルジュが怒気をはらんで「アフダル!」と叫ぶように、彼の行動はおよそ許されざるものだ。好意や善意に付け込んで人を利用する、幻影の名の通りの卑劣漢。だが一方で彼は、正体を現した瞬間人が変わるような類型的な悪役には当てはまらない。

 

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ヴェルデ「お前も自由を欲している。リオンや私と一緒だ」

 

人を騙して利用する悪役は多くの場合、自分の手のひらの上で踊る相手を嘲笑っているものだ。だが擬態能力を使いこなす同じくインモータルナインの一人ジャロンと異なり、ヴェルデには人を騙すことへの高揚感は無い。ネアン居留地の外にも、いやそもそも人間すらもが縛られており自由は幻に過ぎないと語る彼にあるのはむしろ諦観だ。この世の全てが、自分すらもが空っぽと考えるヴェルデは存在そのものが虚ろな幻影である。そして、幻影は物理的な力で破壊することができない。

 

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これまで既に3人のインモータルナインを葬ってきたルジュは強い。今回はジャロンの横槍のためナオミのサポートを受けられなかったにも関わらず、体内で神経性のガスを生成する能力や高い切断力を誇るブレードを持つヴェルデを一人で撃破している。だが、だからと言って彼女がヴェルデの幻影を打ち破れたわけではない。ルジュは自由も幻に過ぎないというヴェルデに何か言い返せたわけではないし、彼女に胸部を刺されたヴェルデはその行動を自分達が唯一自由になる方法だと肯定している。すなわち彼を殺害した瞬間ルジュは、死ぬ以外に自由になる方法はない=生ある限り私達は不自由なのだと呪いをかけられてしまった。いや、”幻影”に囚われてしまった。ヴェルデの幻影はその死と共に止まったのではなく、むしろ死によって完成してしまったと言えるだろう。軍配がルジュに上がったように見えても、ヴェルデとのこの戦いはそれ自体が幻影のようなものだった。

 

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アフダル「そうだ。私もお前も、自由になるには……」

 

今更言うまでもないが、幻影とは存在しないものが実在するかのように見える幻である。つまり不在でなければ、不存在でなければそれは幻影たり得ない。自分の正体すらもが幻影=存在しない幻に過ぎないと諦めてしまったネアン、それが幻影のヴェルデだったのである。

 

 

感想

というわけでメタリックルージュの4話レビューでした。自由になれない、というのは考えれば考えるほど感じるところで。党派性に囚われずとか中立の立場でと訴える人が自由なようには全然見えないし、論理や客観なるものが私達を自由にしているとも思えない。そう考える私自身も含め、むしろかえって自分を幻にしてしまっているのではないかという思いからここ最近は逃れられずにいます。じゃあ、それを4話で描いたこの作品はその後何を語るのか。続く話を楽しみに待ちたいと思います。

 

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ルジュの言葉を聞いた時のナオミの反応を本人でなくメッセージバードの表情で語る場面が好き。幻影見ちゃう。

 

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ジャロン「その通り。ですから代わりのもので我慢いたしましょ~お!」

 

それからジャロンがナオミにナイフを突きつける場面の台詞の緩急が移動速度とシンクロしてるのも良い。彼を見たくて本作を視聴してるまである。

 

 

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