踏み越える街――「メタリックルージュ」3話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

境に惑う「メタリックルージュ」、3話の副題は「境界の街」。舞台となるウェルズタウンはいったいどんな街なのだろうか?

 

 

メタリックルージュ 第3話「境界の街」

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1.探しているのは誰?

「幻影のヴェルデ」と呼ばれるインモータルナインを探してウェルズタウンへやってきたルジュとナオミだが、些細なことから言い合いになってしまう。一人ネアンの居留地に入ろうとしたルジュは、バスで出会った医者のアフダルと再会し……?

 

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ルジュ「インモータルナインは人間の姿をしてるんじゃないの?」
ナオミ「あえてネアンの姿でネアンの中に紛れてるのかもよ?」

 

迷い込む「メタリックルージュ」。3話ではインモータルナインの1人・幻影のヴェルデがルジュ達の次のターゲットとなっているが、1話と異なるのはその正体の目星がついていない点だ。ウェルズタウンのネアン居留地に手がかりがあるらしいことしか分かっておらず、立ち入りの制限された居留地への潜入方法すら丸投げされた今回の任務は自然ぼやけた内容にならざるを得ない。それはルジュの自意識についても同様だ。

 

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ルジュ「わたしもいつも自分の意志で戦ってる。ナオミはいつでも後ろで見てるだけじゃん!」
ナオミ「こっちがお膳立てしなきゃ何もできない癖に生意気言うんじゃないの。あんたなんかしょせん真理部の道具、備品みたいなもんなんだから」

 

前回ルジュは自分にも兄がいると語っていたが、この3話ではその兄ジーン・ユングハルトが登場する。だがネアンを統括する真理部の次長たる彼は組織的にはルジュの遥か上の上司でもあり、公私の別ゆえか電話連絡をするのもルジュではなく相棒のナオミに対してだ。また好物のチョコレートがきっかけで今回ルジュはナオミと口論になるが、売り言葉に買い言葉もあってかナオミからはその際「あんたなんかしょせん真理部の道具、備品みたいなもんなんだから」とまで言われてしまった。

 

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アフダル「で、お前さんはどこに行くんだ。確か探してるやつがいると言ってたが」

ルジュ「あ、えーと……私はどこに行ったらいいんでしょう」

 

慕っている兄からねぎらいの言葉ももらえず、物扱いまでされるとなれば自分が何者なのか分からなくなってしまうのが人間"の心理というもので、ナオミの言葉に腹を立てて飛び出すルジュは己の自己同一性を見失った状態にある。すなわち、幻影のヴェルデを探す3話の彼女はいつのまにか、自分自身をも探す必要に迫られているのだ。

 

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ユバル「我々が求めているもの、それはあなたの力ではない。その自由な意志なのです」

 

人を探しているようで自分を探しているルジュは、前回バスで知り合った医師アフダルの手引きで潜入したネアン居留地で「自分」を巡る更に驚きの経験をする。ここにはネアンが自由に生きる権利を認めさせようと活動するCFN(自由ネアン評議会)なる組織があり、そのリーダーであるユバルからあなたは自分達の希望だと言われたのだが、自分自身を探している人間がそんなことを言われれば驚くのは当然だろう。
ユバル達は「人間に危害を加えてはならない、人間の命令に服従しなければならない、自己を守らなければならない」アジモフ・コードのため活動に行き詰まりを迎えている。ならばそれに縛られぬ故に迷い、人間とも対等に接するルジュは確かに理想の存在であろう。つまり人探しで居留地へやってきたルジュが知ったのは、自分の方こそがネアンが探されていた逆転的な事実であった。

 

2.踏み越える街

ウェルズタウンでルジュが遭遇したのは逆転。それを念頭に置いた時、この3話では他にも様々な逆転があることが見えてくる。

 

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ナオミ「はあ……言い過ぎた。真理部の道具、備品て……私もまだまだ未熟よのう」

 

例えばルジュがネアン居留地へ入れたのはそこでネアンを診療するアフダルのお陰であったが、彼が門番に通行を黙認させるために渡したのは高値で売れるネクタル……賄賂であった。裕福なはずもないネアンを治療するアフダルは篤志家と言ってよいだろうが、そのためには逆に不正に手を染める必要があったのだ。また本来の任務=幻影のヴェルデ抹殺を考えれば直接潜入する必要があるのはルジュだけで十分(ナオミは冒頭で遠隔操作できるメッセージバードを再入手している)なのだから、結果だけ見れば彼女とナオミの喧嘩はこれまた逆に良い結果を生んだとも言える。
正反対の、逆の要素は裏表というよりもすぐ近くにこそあった。更に言えばナオミはルジュを侮辱するような発言をした自分を未熟だと反省しており、そこからは彼女がルジュへの感情をエージェントとして割り切ろうとしていること=行動を共にする中で、逆に割り切れない感情を抱き始めている心理が伺える。

 

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アフダル「初めは誰でもそういうもんだ。生きていたいだけ、自由がほしいだけ……その内それだけでは足りなくなる。欲深いのは人もネアンも変わらんさ」

 

劇中、平和的に活動しているはずのCFNを物騒と評していぶかしがられたアフダルは言う。初めは誰でもちっぽけで純粋な願いから始めるに過ぎないが、次第にそれだけでは満足できなくなっていく。それを招く欲深さは人もネアンも変わらない、と。私達は正反対の場所というのは反転によってたどり着くものと考えがち(熱心な信者が熱心なアンチになる等)だが、ずるずるとした心の動きによって自分でも知らぬまま境界線を超えてしまう場合の方がずっと多いのだろう。昨年末公開されたアニメ映画版「窓ぎわのトットちゃん」でも、描かれた変化は(戦時体制への移行に限らず)全て突然ではなく次第次第に置き換わっていく類のものであった。

 

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ルジュ「道具、備品、自由、希望……ナオミならなんて言うかな」

 

この3話はルジュとナオミが喧嘩したり仲直りしたり、ユバルが何者かに殺害されルジュがネアン達から疑われたりと様々な逆転が見られるがそれらは反転するような急直下では起きない。少しずつ少しずつの動きの先で気がつけば一線を踏み越えている場所であるが故にウェルズタウンは、この3話は「境界の街」なのである。

 

感想

というわけでメタリックルージュの3話レビューでした。1話を「人機逆転」と書いたのもあって今回もシンプルに正反対を描いた話として読もうとしたのですが、アフダルの台詞からむしろその境目がずるずると超えられていく話(そして作品)として受け取った方がいいのではと考え直しました。現実でも同様のケースはよく見られますが、テーマとして描くのが大変なのは言うまでもない話で。これは注目した方がよさそう(とこれだけ書くと、「そうだそうだ、最近の一部過激マイノリティは欲張りすぎ」となる人もいるのだろうなあ)。

 

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あと1話でネクタルを盗まれたネアン、スカーレットという名前なのかと思ってましたが「スカーヘッド」の聞き間違いっぽいですね。ネアンの顔に走る線が傷に例えられるのに由来する蔑称なのか。

 

 

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