見えない悪魔――「愚かな天使は悪魔と踊る」3話レビュー&感想

©2023 アズマサワヨシ/KADOKAWA/かな天製作委員会

敵は何処に「愚かな天使は悪魔と踊る」。3話ではリリーが友人を得る。彼女が狩るつもりだった悪魔はラストまで出て来ないが、それでも狩られた悪魔は存在する。

 

 

愚かな天使は悪魔と踊る 第3話「Preparation」

kanaten-anime.com

 

1.等身大の天音リリー

休日、阿久津を連れて悪魔狩りのための探索を行っていたリリーは同級生の広田の幼なじみ・棚橋夕香と出会う。広田の彼女を自称する夕香はリリーに対抗意識を燃やしてきて……?

 

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阿久津「どうする、広田くん泣いてるけど……とりあえず、中に呼ぶ?」

 

素直になりたい「愚かな天使は悪魔と踊る」。3話では阿久津を連れてリリーが悪魔狩りを行おうとするが、対象となる犬型の悪魔はラストまで出て来ない。同じく悪魔である阿久津には同族を探知するレーダーのような感覚があるが不確実な部分があるし、彼が危険な感覚を覚えてもそれは二人がデートしていると勘違いした級友の広田の嫉妬の目線と区別がついていなかったりする。ストーリーとしてはむしろ、広田の幼なじみにして彼女を自称する少女・棚橋夕香の登場と彼女がリリーと友情を育むところに重点の置かれた回と言えるだろう。そして、注目したいのはこの夕香というキャラクターが引き出す自身とリリーの二面性だ。

 

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リリーと夕香の出会いは最悪だった。なにせ夕香がリリーに最初に放った一言は「なにこのチビっ子」……いきなりコンプレックスを刺激するような相手に好感を抱けるわけもなく、リリーはリリーで広田が自分に5回も告白してきたことを明かして彼女を自称する夕香を激怒させたりする。翌日学校で会ったり夕香の誘いで一緒に遊ぶ際も二人は表向きこそニコニコしながらも水面下で激しく対抗意識をぶつけあっており、その様は前回の阿久津とリリーの「オトしあい」バトルを彷彿とさせるものだ。阿久津は2日目の悪魔狩りを「腹が痛い」と仮病を使ってサボっているが、今回の夕香は事実上阿久津の代役を務めているのである。そして、阿久津と夕香の一時的な交代はリリーの人間像のこれまで見えなかった部分にスポットを当てて見せてもいる。

 

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リリー「どこに貼ろうかな。あ、でも貼ったらもったいないかな。どうしよう!」
夕香「大げさ。手帳にでも貼ればいいんじゃない?」
夕香(やっばどうしよ、めっちゃかわいいんですけど……!! なにこの小動物)

 

これまで主に阿久津の視点を通して描かれてきたリリー像は、「悪魔のような天使」とでも呼ぶべきものだった。学校では天使のように振る舞っているが、悪魔に辱めを与えて浄化したり阿久津に首輪をつけて下僕にする油断ならない相手。前回のオトしあいバトルで彼女のポンコツさ(愚かさ)は描かれたものの、それは悪魔と天使の対立の中の話に過ぎない。

 

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悪魔である阿久津とだけいるのでは、リリーは種族としての「天使」で見られる構図から逃れられない。けれど人間である夕香と競う3話のリリーはただの少女だ。コンプレックスや不得手も抱えた極めて”人間”的な存在……そこにはこれまで見られなかった彼女の魅力が描かれている。リリーは勝負を通して夕香が鼻持ちならないどころかむしろ気の合う相手だと気がついたが、夕香にしても今回のやりとりを通して感じたのはリリーの、ほんとうの意味で「天使のような」かわいさであった。

 

 

2.見えない悪魔狩り

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組む相手を通して視点を変えることで、人には思わぬ姿が見えてくる。これは今回出番が少なめの阿久津の方も同様だ。彼は前回リリーとオトしあいバトルを展開したが、それはあくまで下僕にされた状況をひっくり返すための手段であった。傍目には茶番劇だが天使と悪魔の対立は当人達にとって重大な問題だし、同族狩りなどさせられようとしているのだから敵視するのは当然だろう。懸念はとうとう夢に彼女を見て飛び起きるまでに至った。

 

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広田「けど意外、てっきりリリーちゃんかと思ったぜ」

 

けれど心配してくれた級友の広田や谷川に話してみれば、返ってきたのはそれは中学生じみた恋わずらいではないかという笑い混じりの(そして、彼が恋しているのはリリーだとばかり思っていたという)指摘であった。自分やリリーの正体はおろか対象がリリーであることすら隠した故でもあるが、確かに夢にまで見るのが恋である可能性は否定できない。阿久津は悪魔である自分が天使リリーに恋するなどありえないと考えていたが、夕香との件で描かれているように彼女も等身大の存在に過ぎないのだ。阿久津が事情を隠して話したことは結果的に、自分の中の偏見や思い込みを取り払う結果になったと言えるだろう*1

 

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阿久津(天使のくせに、天使のくせによ! 心配とかしてくんじゃねーよ)

 

偏見や思い込みとは私達が物事を見る際にかかる一種のフィルターである。人間が人間である以上フィルターを全て外すこともできないが*2、時に私達はそのフィルターに気付き、悪魔・・のように見えていた相手が自分と同じ等身大の存在だと知ることができる。今回の阿久津にしても、仮病を使った結果知ったのは「悪魔のような天使」のはずのリリーが自分を本気で心配してもくれる事実であった。それは実際のところ、かわいさをなぞったオトしあいバトルよりも深い部分で相手に心惹かれる理由になり得るものではないだろうか。

 

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夕香「今日1日だけど色々話したりしてさ、思っちゃったんだよね。意外と気が合うのかなって」

 

今回の話では種族としての悪魔狩りは行われない。けれど偏見のフィルターを1枚外したこの3話は、人や物事を見る目を曇らせる「見えない悪魔」を確かに狩った30分でもあるのだ。

 

感想

というわけで、かな天 アニメ3話レビューでした。正直数回見ても夕香が阿久津の代役を務めていることくらいしか分からなかったのですが、書いている内に彼女がリリーを「人間」にしているのではと思いつきまして。以後はそれこそフィルターが外れるようにして書くことが湧いてきました。

東山奈央さん演じる夕香が登場とともにポジションを確立する回であり、本作は1話で見えたリリー像のフィルターがどんどん外れていく展開が続いているとも言えるのかもしれませんね。さてさて、この分だと最後に登場した犬型の悪魔にもフィルターがかかっていそう。次回も楽しみです。

 

 

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*1:阿久津がリリーに恋する可能性について広田は「別に誰が誰を好きになってもいいじゃんね」と語っているが、文字だけならこれは「悪魔が天使を好きになってもいい」と読み替えることもできる

*2:自分は論理的・客観的に判断している=フィルターがかかってない、などというのはとんだうぬぼれである