茶番の姉達――「愚かな天使は悪魔と踊る」9話レビュー&感想

©2023 アズマサワヨシ/KADOKAWA/かな天製作委員会

導かれる「愚かな天使は悪魔と踊る」。9話ではリリーの素体・リーリヤが彼女の姉としてやってくる。姉というのはもちろんデタラメだが、全くの誤りでもない。

 

 

愚かな天使は悪魔と踊る 第9話「No absolutes」

kanaten-anime.com

1.リーリヤとは何者か

阿久津が自分との交際は「絶対にない」と言うのを聞いてショックから熱を出してしまったリリー。翌日、学校には風邪で休んでいる彼女の姉と名乗ってその素体であるリーリヤが現れ……!?

 

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リーリヤ「私は天音リーリヤというものだ。いつも妹、リリーがお世話になっている」

 

一歩一歩進んでいく「愚かな天使は悪魔と踊る」。今回は6話でリリーと阿久津に襲いかかった対悪魔用の兵器・素体の再登場回だ。といっても以前のそれは何者かに操られたためであり、本来リリーに付き従うその素体「リーリヤ」はかつてとはまるで違った振る舞いを見せる。なにせ風邪で学校を休んでいるリリーの姉を名乗り、彼女の代わりに授業を受けに来たと言い張ってそれを通してしまうのだから滅茶苦茶だ。シャーペンの芯を飛ばしたり体育の授業でバレーボールを阿久津に当てたりもするがギャグの範囲に収まっており、シリアスに登場した彼女も見事茶番の仲間入り……ただ、これまでがそうであるように茶番には一抹の真実が潜んでもいる。今回注目したいのは、リーリヤが学校ではリリーの姉を名乗っている点だ。

 

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リーリヤ「貴様は悪魔のくせに不思議な奴だ」
阿久津「お前も結構変わってるよ、普通主の敵に謝ったりしねえだろ」
リーリヤ「そうか?」
阿久津「そうそう。変なところ天音に似てるよな」

 

最初に説明したようにリーリヤの正体はリリーの素体であり、二人の関係は実際は姉妹どころか主従の間柄だ。しかし劇中では素体の容姿や性格は主に左右されるとも語られており、実際阿久津はリーリヤの振る舞いがリリーに似ていると指摘している。リーリヤがリリーの代理で授業を受けるのに当初難色を示した担任の城村先生も彼女がリリーの姉だという話自体はすんなり信じたように、因果や実際はさておき二人が姉妹じみている・・・・・・・のは確かなのだ。これは人気のない場所へ阿久津を呼び出した際のリーリヤの話からも言える。

 

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リーリヤ「まるで正反対のリリー様にしてくれたこの場所を見たかった。それが、私がここに来た理由だ」

 

阿久津を呼び出したリーリヤは先日の攻撃の謝罪と共にここに来てみたかったことなどを語るが、同時に明かされるのは普段リリーの中にいる彼女は主の心理状態をよく把握していることだ。天界にいる時のリリーは見ているだけでも辛くなるような日々を過ごしていたこと、学校に来てからはそれが変わったこと、熱を出して寝込んだのは阿久津が友人の夕香と仲良くしているのを見たのが原因であること(なのでシャー芯や殺人スパイクで抗議した)……あくまで忠誠心の発露として語られるこれらは、一方でどこか慈しみにも似ている。そう、リーリヤの振る舞いは「妹が明るくなったのが嬉しい姉」「妹が好きな人にないがしろにされているのが腹立たしい姉」のそれと読み替えられても齟齬を生じない。リーリヤが「リリーの姉」だというのはあくまで設定=茶番でありながら、一面の真実を突いてもいるのである。

 

2.茶番の姉達

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夕香「そうだ阿久津くん。わたし、『絶対』ってないと思うよ」

 

リーリヤは単に設定としてではなく、ある面では確かにリリーの姉として振る舞っている。これは彼女や阿久津の見舞いを受けた際、リリーが幼さを感じさせるツインテールの髪型で出てくる点からも強調されている。ただ、彼女は自分のことを喋りすぎるのを危惧したリリーによって買い物に行かされ一時退場するため、この9話後編ではそこまで存在感は大きくない。代役を務めるのはもう一人の同行者、リリー達の友人の夕香である。

 

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夕香「阿久津くんが運んでくれたんだよ」
リリー「そっか……」

 

初対面の際はほとんど喧嘩になったものの、いまやリリーの第一の友人となった夕香はとても世話焼きだ。リリーが寝込むきっかけとなった阿久津との「デート」は彼女を素直にさせようとしてのものだったし、その際も阿久津にリリーをどう思っているのか尋ねるなど二人の仲を応援するのに余念がない。好意を自覚できなかったり素直になれない阿久津とリリーをひとつ上の位置から見ているといってもいいだろう。すなわちその目線は「姉」的だ。

 

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阿久津「あー……リーリヤだけどさ。あいつ、学校に何しに来たと思う?」
リリー「さあ……」
阿久津「あいつ俺に謝りに来たんだ。操られた時のこと。なんかさ、やっぱお前に似てるんだよな。そういうきっちりしてるとこ」

 

見舞いに行くのも彼女の発案であったように、夕香は今回も阿久津とリリーの背中を押していく。お茶の用意に行ったリリーの熱がぶり返さないか見に行くよう阿久津に促したり、嫉妬をあらわにしてしまったリリーが熱で倒れれば二人の間の緩衝材になったり……その後に彼らはようやく関係を修復し更に発展させもするが、夕香がいなければもっと時間がかかるか最悪気まずいままで終わってしまっていたことだろう。また阿久津は敵対する天使であるリリーとの交際は絶対にないと言ってしまったのを「天使がリリーみたいな奴ばかりなら争わなくて済む」と冗談めかした言い方で訂正したが、その際に話の枕になったのはリーリヤがリリーに似ている=リリーみたいな奴だという事実であった。ここでもリーリヤは姉のように作用しており、阿久津とリリーの仲直りは彼女と夕香という二人の姉の存在によって果たされたと言える。

 

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「オトしあいバトル」などと言ってはいるものの、阿久津とリリーの恋愛は実際は非常に初心で子供っぽいものだ。だからこそ敵対している天使と悪魔の間で恋愛が成立もするのだろうが、コメディ多めのラブコメというスタイルで接近していくには二人だけでは方向性が定まらない。リーリヤや夕香といった茶番の姉がいるからこそ、阿久津とリリーは険しい恋路を進んでゆけるのである。

 

感想

以上、かな天アニメ9話レビューでした。阿久津とリリーばかりに目が行きがちな本作ですが、リーリヤの存在はどういう意味があるんだろうと目を向けるとこんな形に。リーリヤ役の石原夏織さんはスマホ版の刀使ノ巫女瀬戸内智恵というお姉さんキャラもやっていますが、そのあたりの印象がフィードバックされて書けた部分もあるのかもしれません。リリーがいつもの表情に戻っていく過程にホッとしている自分がいました。


さてさて、再登場を引っ張ったツヴァイがいよいよ姿を現し、ここからはアニメにおけるラストエピソードといった感じになるのかな。事情で次回の更新は水曜になってしまうかと思われますが、彼との再会でまたちょっと違った展開になりそうで楽しみです。

 

 

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