茶番は安全装置――「愚かな天使は悪魔と踊る」4話レビュー&感想

©2023 アズマサワヨシ/KADOKAWA/かな天製作委員会

軽やかなる「愚かな天使は悪魔と踊る」。4話では笑いが阿久津とリリーの距離を縮めていく。真面目にやるのが最善とは限らない。

 

 

愚かな天使は悪魔と踊る 第4話「Heat limit」 kanaten-anime.com

 

 

1.茶番は安全装置

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街に出没する獣型悪魔とリリーの戦いが始まった。阿久津は同族がリリーに辱めを受け浄化されるのに耐えかね乱入するが……?

 

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不思議な距離感の「愚かな天使は悪魔と踊る」。コメディの比率の高いラブコメな本作だが、4話もそれはしょうもないほど健在だ。天使リリーと女性を襲う犬の悪魔の戦いで今回の話は始まるが、真面目なバトルの様相は長続きしない。なにせ悪魔が本当の姿を見せるとして獣人型に変身したところパワーも知能も倍増もとい半減、しかもT.M.Revolutionの「HOT LIMIT」を彷彿とさせる衣装(ご丁寧に劇伴も寄せてある)になるのだから真面目に見ろと言う方が無理な話だろう。二人の戦いを止めようと阿久津までHOT LIMITな服になり、リリーと短歌っぽい韻を踏んだ言い合いを始めるのを見るに至って私は「何を見せられてるんだ???」と当惑せずにはおられなかった。

 

 

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リリー「聞こえぬぞ 意見があるなら はっきりと ああほらたまった 新たなストレス」

 

真面目な戦いになるかと思いきやくだらない展開に早変わり。要するにこれは本作おなじみの「茶番」……ただ、注目したいのはこれが経緯自体も茶番ながら獣型悪魔の改心に繋がっている点だ。
凶悪そうに見えたこの悪魔は昔から仲間はずれにされて寂しい思いをしており、自分を助けようとする阿久津の振る舞いに感激。女性を襲っていたのは自分が愛するスパッツを履いていると思っていたらレギンスだったからという動機を告白し、戦いは獣型悪魔が抵抗をやめリリーによる浄化を受け入れる大変平和な結末に終わることとなった。本当にもう茶番としか言いようがないのだが、冒頭のシリアスなバトルではこれはけしてたどり着けなかった結果であろう。そして、茶番が関わっているのは阿久津と獣型悪魔だけでなくリリーも同様だ。

 

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リリー「かわいいじゃろ?カーディガンのお返しに、柄として描いてやった。お陰ですぐ飼い主が決まったそうじゃぞ」

 

1話で天使だと明かされた時、阿久津の目に映ったリリーは傲慢で残酷な存在だった。制服を傷つけられた腹いせに悪魔に辱めを与え、じわじわ浄化してやったという彼女の口ぶりはおよそ相手への敬意に欠けたものに見えたからだ。しかし今回リリーの悪魔狩りの現場に立ち会ってみれば、彼女の言う浄化とは邪心と力を封印するに過ぎず対象は殺傷されるどころか愛らしい動物に変化するのみ。辱めも柄としてかわいらしい眉毛を描いてやったというもので、その結果狩られた元悪魔の犬はリリーが連絡した動物愛護団体で早々に飼い主が見つかるオチがついていた。そもそもで言えばバトルで破壊されたコンクリートも実際はそう見せかけただけだったり、彼女が振るう巨大な鎌も強度を調整されていて怪我の心配が無かったりと全てが茶番でしかなかったのだ。

 

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リリー(「優しい」か。いつもの時はよく言われる言葉じゃな。本性を見せた時に言われたのは初めてじゃ……それにしてもこやつは本当にアホじゃ。あまりにもくだらないことを言うものじゃから、今は顔も見たくないわ)

 

話に聞き思い描いていた天使と違っていて、優しいのが意外……阿久津にそう言われたリリーは「今頃気付いたのか」と茶化し彼に背を向けるけれど、これも本当は「茶番」に過ぎない。猫をかぶっている普段の自分ではなく、本性を見せている時に初めて「優しい」と言われた彼女は実のところ、阿久津にはとても見せられないほど照れて顔が真っ赤になっていたためだ。

「あまりにもくだらないことを言うものだから、今は顔も見たくないわ」と内心すらごまかさなければ、今のリリーは胸の高鳴りを抑えられない。そんな様子を描いて終わるAパートでは、茶番が一種の安全装置として機能していると言えるだろう。

 

 

2.茶番と真剣さ

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茶番は一種の安全装置である。そんなAパートを踏まえてみると、続くBパートでも茶番は大きな効果を発揮しているのが見えてくる。

 

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リズ「私にはこれがありますから」
阿久津「……はい」

 

Bパートではリリーの出番はほとんどなく阿久津が接するのは魔界の上司リズや同級生の夕香が中心であるが、リズの存在自体が茶番なのは2話で示された通り。見た目だけならできる女上司だが演じるのはゼロ年代に多くの視聴者を魅了した時の声色そのままの釘宮理恵、行動も本人は至って真面目だがどこかズレているポンコツ。今回も突如現れたかと思いきや予算が少ないからと阿久津の部屋に泊まったりと彼をドギマギさせてしまうが、寝袋を持参してきていたり寝言も食べ物についてだったりするリズに本作を三角関係にさせるようなややこしさはない。シチュエーションだけならドロドロした展開になってもおかしくないところだが、茶番故に阿久津は救われていると言えるだろう。

 

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夕香「でもリリーちゃんのこと、結構かわいいと思ってるでしょ」
阿久津「そんなことは!……ないです」
夕香「正直だなあ。まあ何かあったら協力してあげるよ」

 

また翌朝リズは阿久津本来の任務である人材スカウトの技術を磨かせる訓練としてナンパをさせるが、お茶に誘うよう言われて阿久津が声をかけた相手は偶然にも夕香であった。「阿久津くんこういうことするんだねえ」とニヤつかれて阿久津は大慌てになるが、実際のところこれも阿久津にとっては救いだろう。夕香が幼なじみにして阿久津のクラスメートでもある広田にアタックしているのは周知の事実であり、彼女相手ならリズからは真面目に訓練に勤しんでいるように見えても茶番にしかならないからだ。夕香はこの疑似デートに付き合ってくれたが、そこで指摘したのも異性としての阿久津への興味ではなく彼がリリーに惹かれ始めている事実の方でその内容は互いの恋愛相談に近いものとなっていた。

 

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夕香「今日のことは、みんなに内緒にしておくね」

 

Bパートはリズと夕香、二人との茶番によって構成されている。ただ茶番には一定量の真剣さが必要なのも事実で、それ故に茶番と真剣さは時に交わりもするものだ。夕香との疑似デートにしても、真面目に訓練しているつもりのリズに強いられ阿久津が夕香の腕を掴んで呼び止めた際は本当の恋愛関係に陥りかねない危うさがあった。時間がスキップし、夜の公園で恥ずかしげな夕香と阿久津が一緒に歩く姿によもや三角関係成立か!?とドキリとした視聴者は多いだろう。直後に種明かしがされ、リリーが阿久津につけた首輪を偶然発動させたために彼がバーテンダーの男性に迫る奇行に走っていた=茶番に救われていたと判明するが、茶番は常に茶番にしか繋がらないわけではないのだ。

 

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阿久津(今日1日、部長に振り回されっぱなしだった……でもお陰で、少し自信がついたぜ)

 

夕香は帰宅しリズも去り、かくてポンコツ上司に振り回される茶番の1日は終わる。だが、阿久津は疲労感と共に手応えを覚えてもいた。何に対して? それは悪魔狩りでの一件以来、ほとんど願望としか言えない内容の夢を見るまでになってしまっていたリリーに対し、自分が再び平静に向き合える自信である。
阿久津がリリーに恋愛感情を抱き始めているのは夕香が指摘するように明瞭だが、彼としては今はまだそれを認めるわけにはいかない。「彼女は悪魔と敵対する天使だし、自分にはカリスマ的人材を発掘する任務があるし、そのためにはリリーにつけられた首輪をどうにかしなければならない」……そうやって自分の心に嘘をつかなければ、茶番にしなければ、悪魔が抱いた天使への恋愛感情などというのは到底存在を許されないからだ。

茶番で塗り固めなければそれそのものが茶番になってしまう、矛盾した思いが阿久津(そしてリリー)の胸中で芽生えようとしている。その恋心はきっと、ラブコメという茶番の中でしか育ち得ない類のものなのだろう。

 

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阿久津(そういえばあの時、心拍数が上がったような……)

 

茶番は安全装置である。真剣さと対極に位置し、だからこそ真剣さを守れるのが本作における茶番の力なのだ。

 

 

感想

というわけでアニメかな天4話のレビューでした。獣型悪魔との戦いが前回想像した以上に茶番で混乱しましたが、繰り返し視聴していくとこんな感じに。私のようなチョロい視聴者をリズルートや夕香ルートに引きずり落としそうにしてからの茶番キャンセル回と言えるでしょうか。「リリーさんとは誰ですか?」「今出てくんなよ部長!」のやりとりに一番笑いました。さてさて、次回阿久津は何を仕掛けるのでしょうね。

 

 

 

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