一人でできない茶番劇――「愚かな天使は悪魔と踊る」11話レビュー&感想

©2023 アズマサワヨシ/KADOKAWA/かな天製作委員会

帰還の「愚かな天使は悪魔と踊る」。11話では阿久津の暴走が思わぬ事態を引き起こす。茶番は一人では取り戻せない。

 

 

愚かな天使は悪魔と踊る 第11話「Thanks」

kanaten-anime.com

 

1.悪化する危機

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リリーの兄ツヴァイの妹への仕打ちに激怒した阿久津は、突如異様な力を発揮してツヴァイの素体であるカルテット達を一蹴する。明らかに正気を失っている彼をリリーは止めようとするが……!?

 

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リリー(これが悪魔、これが、阿久津……!?)

 

暴走の「愚かな天使は悪魔と踊る」。リリーの兄ツヴァイが登場し、彼女が天界で酷い仕打ちを受けてきたことが前回は示唆されたが、今回は更に予想外の展開が続く。妹を辱めるツヴァイの行動に激怒した阿久津は謎の黒い羽根を発現、前回手も足も出なかったはずのツヴァイを逆に圧倒してみせたのだ。ヒロインのために底力を見せるヒーローの鑑……と言いたいところだが、事態はそう単純ではない。阿久津の攻撃は勝負がついているにも関わらず続く執拗なもので、その瞳は明らかに普段の彼とは違う「悪魔」的な輝きを放っていた。

 

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暴走した阿久津のもっとも恐るべき点。それはコミュニケーションが成立しないことだ。前回のツヴァイは振る舞いこそ非道であれ、会話可能な相手ではあった。だが今回の阿久津は薄ら笑いを浮かべて暴力を振るうのみで、ツヴァイどころかリリーの呼びかけにすら応答する素振りを見せない。リリーを傷つけられ滾らせていた怒りすら消えている相手にコミュニケーションなど――ましていつものバカバカしいやりとり、"茶番"が成立する余地など存在しない。本作の本領たる茶番は前回リリーと共に辱められたが、今回はその原因だったツヴァイを一蹴して回復するどころかますます危機的な状況に陥っていると言えるだろう。リリーはすなわち、兄ではなくこの茶番の危機にこそ立ち向かわねばならない。

 

2.一人でできない茶番劇

阿久津の暴走が示すように、茶番の危機は力では解決できない。では、その回復には一体何が必要か?……ヒントはリリーがツヴァイと阿久津の間に割って入った瞬間にある。

 

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リリー「やめるのじゃ阿久津!」

 

既に触れたように、暴走した阿久津は暴力の化身であった。ツヴァイの操る4人の素体(カルテット)をあっという間に戦闘不能にし、レベルの違う相手だったはずのツヴァイすら寄せ付けない。阿久津は一方的な殴打を続けた上ツヴァイにトドメを刺そうとするが、もし彼を殺害していれば本作はもはや茶番に戻ることは不可能になっていたことだろう。けれどリリーが間に割って入ったことでそこにはストップがかかった。リリーとの2人になったことで、回復の余地が残されたのだ。

 

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ツヴァイ「ぼうっとしてちゃ駄目だよ。これだからお前は、本当に手がかかるな……!」

 

暴走した阿久津の背中には謎の黒い羽根が生えていたが、これは天使の羽根に似たエネルギーの貯蔵庫でありそれを奪えば彼を正気に戻せるかもしれない。リリーとツヴァイはそう推測し、なんと阿久津を止めるべく共闘を開始する。先ほどまで加害者と被害者だった二人が、だ。ツヴァイはどうも本当は妹を心配していたらしいこと、またリリーの体を傷つけたことは一度もないことが今回の話では明かされているが、それでも前回の描写からこんな展開を想像した者はいなかっただろう。馬鹿げている――そう、”茶番”のように。阿久津とリリーの二人がいたことで、この馬鹿げた事態は実現した。

 

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リリー「さっさと正気に戻らぬか、この阿呆……!」

 

ツヴァイの援護を受けたリリーは、阿久津から生えた最後の羽根を捕えながら訴える。当初自分達は今と同じように争ったが、一緒に過ごす中で単に敵対する相手ではないと感じるようになったと。短い時間で理解できたわけではないが(事実、阿久津のこの暴走をリリーは初めて見ている)、お前はもっと優しい男のはずだと。早く正気に戻って欲しい、と。これは阿久津への思いの丈であると同時に、彼と過ごした時間への思いの丈だ。これまで散々繰り広げたくだらない、バカバカしい時間……すなわち茶番への愛惜の念だ。リリーにとって、茶番を取り戻すことと阿久津を取り戻すことは全くの同義であった。

 

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リーリヤ「あの時飛び出したことで、兄君様を打ち破ったことでリリー様の居場所はなくなった。なくなったのだ! だから、ありがとう……!」

 

全てが終わった後、リリーの素体であるリーリヤは正気に戻った阿久津に事の次第を語ってみせる。リリーは家族から辛く当たられながらも努力を重ねてきたが、それは今回阿久津が乱入したことで粉々になってしまった。どうにか手に入れた居場所を失ってしまった。そう叫んで矢も盾もたまらず阿久津を押し倒したリーリヤはしかし、彼に敵意をぶつけたりはしない。なぜか? それは誰よりもリーリヤ自身がリリーをそうしてやりたいと願っていたからだろう。解放してやりたいと願っていたからだろう。けれどそれはリーリヤには(そしておそらくツヴァイには)できなかった。だから彼女は阿久津に感謝の言葉を述べずにはいられない。忠誠を捧げる主の幸せを願わずにいられない。

リリーを一人でなくしてやれる者、彼女と二人・・でいられる者。それはリリーと茶番を繰り広げられる阿久津ただ一人。茶番は一人ではできず、故に茶番を演じるその時、人は一人から解き放たれているのである。

 

感想

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以上、かな天アニメ11話レビューでした。リズ部長が阿久津不在の部屋を寂しく感じるアバンからこんなレビューになった次第です。というか部長が準備していた何かは次回出番があるのか……? ツヴァイの事情ももうちょっと知りたいところですが、とにもかくにもアニメは次回で最終回。最後は二人でまたバカバカしいやりとりをしてくれたらいいな、と思います。

 

 

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