茶番は終わらない――「愚かな天使は悪魔と踊る」最終回12話レビュー&感想

©2023 アズマサワヨシ/KADOKAWA/かな天製作委員会

日々は続く「愚かな天使は悪魔と踊る」。最終回12話では事件の後始末が描かれる。物語の終わりは茶番の終わり、ではない。

 

 

愚かな天使は悪魔と踊る 第12話(最終回)「to you.」

kanaten-anime.com

 

1.離れられない茶番

阿久津も正気に戻り、ツヴァイ登場による事件はひとまず解決となった。気を失ったリリーを阿久津はさしあたり自室に運んだが、彼女はなんとこのまま部屋に泊まると言い出し……!?

 

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リーリヤ「ファイナルフラーッシュ!」
阿久津(ん……?)

 

天使と悪魔が近づく「愚かな天使は悪魔と踊る」。アニメを締めくくるこの12話では、前回のような事件らしい事件は怒らない。あらすじとして見ればとても穏やか……なのだが、静かかと言えばそれは誤りだ。前回主であるリリーを解放してくれた阿久津を押し倒して感謝したリーリヤは直後に彼を脅すネタを作ろうとするし、阿久津を正気に戻した後気を失っていたリリーは阿久津の部屋で目覚めた自分の服が変わっていることから純潔を奪われたと勘違いして彼を斬り殺そうとする。前回のシリアスさやリリーのいじらしさが嘘のようだが、本作はどんな展開になっても最後には茶番に戻るものなのだろう。ただ、それは必ずしも悪いことではない。

 

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阿久津「て、てめえ! 今までの全部嘘か!?」
リーリヤ「本気だったが、さっきこれを思いついてな。せっかくなので」

 

リーリヤが阿久津を押し倒して感謝を述べた前回の終わりは、美しいが彼女がリリーのお株を奪ってしまっているような部分もあって落とし所に少し困るものだった。またリリーはリリーで前回の阿久津への思いにあふれた状態が続くと話が終わってしまう。リリーが阿久津の部屋に泊まると言い出しコミカルに押し切ってしまう場面などもそうだが、茶番によってこそ物語が続いているのがこの12話――いや本作なのである。そして、茶番の効用はそれに留まらない。

 

2.茶番は終わらない

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お互いが気になっている男女が一つ屋根の下で寝る。リリーの宿泊はそういう出来事であるが、二人の距離が急接近とはならない。阿久津はリリーを気遣った後普段通りに就寝し、一緒に映画を見るだとかゲームに興じるだとかいった「いかにも」なことは起きない。それは5話でリリーの部屋で既にやったことだ。代わりに起きたのは、阿久津が寝静まったところで起きてきたリリーによる感謝の独白。そして口づけであった。

 

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リリー「こんな形でしか礼も言えぬ卑怯者で、すまぬ」

 

阿久津にとって、この一夜は何が起きることもなかった一夜である。リリーがどれだけ心からの感謝を口にしても、大胆な行為に出ても、眠っていた以上それを彼が知ることはない。言ってみればただの茶番に過ぎない。けれどリリーにとって、意識のある阿久津に正直に感謝や好意を見せるのはまだまだできることではない。幼いというより、阿久津を好きになり過ぎて簡単には表に出せないようになってしまっているのだ。そんな彼女が正直になるためには、釣り合いが取れるだけの大きな嘘がいる。自分でも卑怯と感じてしまうくらいの嘘――すなわち茶番が。

 

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リリー(しかし本当に、本当に……感謝しておるぞ)

 

人間(リリーは天使だが)とは不思議なもので、嘘偽りない言動をすれば正直になれるわけではない。むしろ自分の心に素直になるためには相応の嘘が必要ですらあって、それはリリーを心配しつつも彼女に辛く当たらざるを得ない立場だったらしい兄のツヴァイが今回あえて彼女について「嘘」の報告をすることでやっと素直になれている姿などからも明らかだ。それに倣って考えるなら、今回序盤のリーリヤの脅迫ネタ作りなども実際は照れ隠しの方が強いのかもしれない。なにせ彼女の主はリリー、阿久津とラブコメという茶番を介して触れ合う本作のヒロインなのだから。

 

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リズ「阿久津、大丈夫でしたか……!?」

 

阿久津とリリーが過ごす日々は茶番である。彼らの正体は悪魔と天使であり、高校生というのは偽りの姿に過ぎない。けれどその茶番あればこそ二人は敵味方の垣根を越えて惹かれ合うようになり、そして茶番の日々は終わらずにいる。2016年から連載の続く本作にとって、本来この12話は終わりなどではない。これが最終回だなどというのはそれこそ茶番に過ぎない。だから本作はリリーのモノローグや特殊EDまで用意してきれいに締めた物語を、魔界における阿久津の上司リズ部長の来訪をリリーに恋敵と勘違いさせるようなコミカルな形で尺を終えてみせる。それは続編への色気から今後の登場人物を最終回に顔見せする類の終わりとは似て非なるものだ。茶番を描いてきたのが「愚かな天使は悪魔と踊る」なのだから、その終わりもまた茶番なしでは務まらない。終わりそのものを茶番・・・・・・・・・・にしてこそ本作は最終回たり得ると言うべきだろう。

 

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阿久津「俺達の物語は」
リリー「まだまだ波乱が続くのじゃった!」

 

このアニメは12話で最終回でだが、アニメが終わっても茶番が終わることはない。いや、茶番ブコメが終わらないからこそ阿久津とリリーの物語はまだまだ続いていくのである。

 

 

感想

以上、かな天のアニメ最終回レビューでした。「茶番だから素直になれる」で書けるかなと思ったのですが、締めなんかも考えるとこちらの方が30分全体の話と言えるかなと。

 

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久しぶりにラブコメが見たいなということで選んでみた本作ですが、天使と悪魔が正体という設定は程よく現実と離れている=茶番らしさがあって個人的には見やすいものでした。しょうもないことやってるな、という感覚が気付けばリリーのかわいさに塗り替わっていて、佐倉綾音さんの演技の幅や魅力がこれでもかと味わえる内容でもあったと思います。眼鏡サービスが意外に多いのも嬉しく、PVの眼鏡リリーを理由に視聴を決めて正解でした。原作ではこの後新たに眼鏡っ娘が登場している模様……


視聴本数が少なめの現状だとどうしてもセレクトに偏りが出る中、いつもとちょっと違った感覚の味わえた視聴時間でした。スタッフの皆様、お疲れ様でした。

 

 

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