ポンコツだらけの世界――「愚かな天使は悪魔と踊る」2話レビュー&感想

©2023 アズマサワヨシ/KADOKAWA/かな天製作委員会

天使と悪魔が張り合う「愚かな天使は悪魔と踊る」。2話では阿久津とリリーが激しい戦いを繰り広げる。見えてくるのは二人の、いや世界のポンコツぶりだ。

 

 

愚かな天使は悪魔と踊る 第2話「Lalapalooza」

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1.なぜくぎゅなのか

天使だったリリーに下僕の首輪をはめられてしまった悪魔・阿久津。服従を拒絶するもその体はリリーに操られ……?

 

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ゴングが鳴る「愚かな天使は悪魔と踊る」。阿久津とリリーが互いを魅了しようと「オトしあい」が始まるこの2話では3人の新キャラクター(?)が登場する。魔界での阿久津の上司リズ、そして彼とリリーのオトしあいバトル時の脳内アバターであるジョーとチャムだ。野沢雅子田中真弓のビッグネームが演じている点から後者に目が行きがちだが、本レビューではリズの方にまず注目してみたい。

 

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リズ「あなたは我々の、魔界の希望なのです!」

 

既に触れたようにリズは魔界における阿久津の上司である。天使との勢力争いで劣勢にも関わらず怠惰な悪魔達の現状を憂い、カリスマ性のある人間をスカウトしてくるよう阿久津に命じた張本人……スーツと眼鏡に身を包んだその姿は「仕事のデキる女」のイメージそのものと言ってよい。だが、その声を聞いた人の多くが感じたのは疑問だったのではないだろうか。「なぜ演じているのが釘宮理恵なのか?」と。

 

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今更説明するまでもないが釘宮理恵はいわゆるツンデレや少女役で一時代を築いた声優であり、本作のリズも少し舌っ足らずさがあって外見からは不釣り合いな印象を受ける。だが彼女はもちろんそういった役だけを演じてきたわけではなく、今シーズンでも「月刊モー想科学」で編集長のキャサリン・スーというキャラを担当している。そちらを未視聴で申し訳ないが、PVの声だけでもリズとはだいぶ違った印象を受けるはずだ。つまりこれは配役のミスではない。そしておそらくディレクションの誤りでもない。

 

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リズ「まったく、嘆かわしい!」
阿久津「はあ……」

 

天使と悪魔の対立は設定だけならシリアスにも見えるが、実際に描かれる様子は深刻さからは程遠いものだ。怠惰な悪魔は3頭身で無邪気にボール遊びに興じているだけだし、天使から虐げられる悪魔の姿もパシリに使われる程度のものだったりする*1。要するにこの戦いはある種の茶番に過ぎず、語り手もまた冷酷さを感じさせる存在であってはならない。それを考えた時、リズを釘宮理恵が舌っ足らずさのある声色で演じる以上の正解があるだろうか? 否。

 

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リリー(ここで潤んだ瞳で見上げ、甘い声でささやけば!)
リリー「ご、ごめんね……」

 

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チャム「うおりゃああ!」

 

茶番であることは本作で重要な意味を持つ。阿久津とリリーが「いかにも」な仕草を互いにぶつけて相手を魅了しようとする姿はあくまでコメディであり、その度に犬頭のジョーと猫頭のチャムがボクシングを繰り広げる様子が挿入されるバカバカしさはまさに茶番以外の何者でもない。ラブとコメディの塩梅はラブコメのノリを大きく左右するが、今回の新キャラクター3人は本作が多分に茶番=コメディの割合の大きい作品なのをよく示していると言えるだろう。

 

2.ポンコツだらけの世界

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本作は多分にコメディの割合の大きいラブコメである。2話でも阿久津とリリーは互いの仕草にキュンとさせられているがこれはあくまで勝負に過ぎず、キュンとするのはダメージを受けて「やるな、きさま!」と返している程度の話に過ぎない。ただもちろんラブがゼロではラブコメにならないわけで、今回の話のどこに見出だせるかと言えばおそらくそれは阿久津とリリーの力関係の変化だろう。

 

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阿久津「か、体が勝手に……!」

 

阿久津視点で話の進む前回、リリーは基本的に彼に優越する存在であった。阿久津は彼女の美しさ愛らしさに心奪われ実は天使だなどとは考えもしなかったし、正体を知った後も圧倒され無理やり下僕の首輪をはめられてしまっている。被虐趣味を目覚めさせられていくタイプの話になってもおかしくないのが1話ラストだったわけだが――蓋を開けてみればそんなことにはならなかった。首輪は確かに悪魔の力を抑え意志を無視して体を操り罰を与えるほどの力を持っていたが、どんな罰になるかはリリーにも分からない欠陥を抱えていたのだ。

 

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阿久津「こちらがご所望のお飲み物でございます。人肌で温めておきました!」
阿久津(意味分からねーーーー!)

 

自分の意志や思考と関係なしに体が動かされる。これはシチュエーションとしては屈辱そのもので、作品が作品なら仲間を騙して殺害するだとか天使の尖兵にさせられてしまうだとかいくらでもシリアスになり得るものだ。しかしそこは「茶番」な本作、どんな罰になるか分からない欠陥はそんな展開を許さない。「命令にいちいち変なポーズを決める」「ジュースを買ってこいと言ったらコーラやソーダを人肌で温めてくる」などといった阿久津の行動はおよそリリーの想像を超えたものであった。

 

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リリー(よ、よいのか? 本当に踏んでよいのか? われは何か後戻りのできない大きな過ちを犯そうとしているのではないか? しかしこれは褒美、こいつの望み、ちょっとだけ、ちょっとだけなら……いや待て、はたしてちょっとだけで終わるのか? そうじゃ靴の先っちょ、先っちょだけじゃから! それ以外は我慢するから……!)

 

キメ顔と爽やかな声で「尻を踏みしだいてほしい」と阿久津に乞われ、今までにない感覚を覚えたリリーは赤面する。本当に踏んでいいのか、踏めば後戻りできなくなってしまうのではないか、しかしこれは阿久津の望みだし、(靴の)先っちょだけなら……困惑しながら実行に移そうとしてしまう彼女は、言ってみれば悪魔の誘惑・・・・・にかけられているも同然である。束縛し優位に立っているはずの彼女が、だ。首輪は阿久津の首にかけられたままだが、この時点で阿久津とリリーの関係は対等に戻ったと言っていいだろう。だから帰宅後に見たテレビの影響という強引な、もとい茶番な経緯で翌日からの二人は互いにハンデなしでオトしあい勝負に臨むことになるのだ。

 

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城村先生「何授業中にいちゃついてんだ、ああん?」

 

阿久津とリリーは相手を魅了することで自分に従わせようとしている。束縛しようとしている。だが相手をオトすことに拘泥する今の二人は、既に自分自身が相手に束縛されているようなもの。そのバカバカしさ、茶番具合は勝負に盛り上がっている二人が最後には担任の城村先生に叱られ共に廊下に立たされるてん末からも明らかだ*2。こうした茶番具合は、二人のポンコツぶりは確かにラブコメそのものではないか。

 

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リリー(今日のところは)
阿久津(このくらいで)
リリー&阿久津「勘弁してやるか!」

 

ブコメには、コメディの割合の大きいラブコメにはポンコツが必須である。そして「愚かな天使は悪魔と踊る」は、天使と悪魔によってポンコツだらけの世界を成立させたラブコメなのだ。

 

 

感想

というわけで、かな天アニメ2話レビューでした。1話のレビューは正直生煮えになってしまった後悔があったのですが、この2話で作品の温度が分かってきた気がします。前回はたぶん「真剣なラブストーリーを期待してたらコメディにこてんぱんにされる」のが正しかったのだな。なるほどこれは佐倉綾音さんでないとリリーを演じるのは難しそう。

 

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阿久津のことで頭いっぱいなのに全問正解してるおかしさ。さてさて、次回は更に二人の関係の変化がありそうな引きでこれも楽しみです。

 

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*1:いや、現実に起きていればやっぱり嫌な出来事ではあるが

*2:城村先生役の山路和弘が直前まではジョーとチャムの試合の実況アナウンサー役も務めているのがいっそうバカバカしい