自由は迷路の中――「メタリックルージュ」2話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

放浪の「メタリックルージュ」。2話では傭兵やウォーマシン相手の大乱闘が繰り広げられる。本筋から外れた迷路のような話にむしろ、ルジュの選べる自由が見え隠れする。

 

 

メタリックルージュ 第2話「逃走迷路」

metallicrouge.jp

1.効率化と冗長性

次なる目的地へバスで向かうルジュとナオミは、ヘルマンの雇った傭兵達の襲撃を受ける。この事態に対処するのは二人だけではなく……?

 

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荒野を行く「メタリックルージュ」。2話は一言で言えば寄り道の回だ。主人公のルジュと相棒のナオミは「インモータルナイン」と呼ばれるネアン(人造人間)の抹殺が命じられているが、今回の話では相手の手がかりどころか名前すら出てこない。火星の過去が語られ医師のアフダルや謎の男エデンなど意味ありげな人物が複数登場するなど伏線は抜け目なく張られているだろうが、今回の出来事そのものが本筋に与える影響は大きくないと思われる。寄り道、おまけ、話数を圧縮するならおそらく切り捨てられる回……つまり寄り道。二人の乗るバスが前回戦ったサラのパトロン・ヘルマンの雇った傭兵に襲われたため森へ逃げたり、故障するなどして予定に大幅な遅延が生じる状況も「寄り道」として分かりやすい。

 

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運転手「自分で運転は久々なんすよ!(中略) ええと、マニュアルマニュアル……」

 

寄り道は時間の無駄、非効率的なものだ。在庫を抱え込むリスクを避けるジャストインタイム方式は製造業等の理想形だし、本編でもルジュは傭兵達を退ける時間が予定を30秒超過したのをナオミに咎められている。また襲撃を受けた際にバスの運転手はハンドルを握らず雑談に夢中になっていたが、彼がそんな風に過ごせるのはまさに効率化のおかげと言っていいだろう。ただ、この運転手はそれに慣れきってしまってもいたため、その後緊急発進を求められてもまごついたり故障したパーツの代替品を探すのも人任せになってしまったりした。当然だろう、こんな経験はおそらく二度と無いからそんなことに備える方が非効率的なのだ。効率化の先に生まれていたのは冗長性の無さ、すなわち迷路にも等しい抜け出せない矛盾であった。

 

 

2.自由は迷路の中

相反する効率化と冗長性にどう向き合うか? 恐らくこれは<人間>にとって永遠の課題であり、ルジュは今回それを考える一つのヒントを与えてくれる人物に出会っている。同じバスに乗り合わせたジルという女性だ。

 

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ルジュ「なんすか、それ?」
ジル「相棒」
ナオミ「光学式カメラですよね?」

 

ジルはフリーのジャーナリストであり、火星ではネアンの受けている差別的な扱いなどについて調査を行っている。そして彼女の使用するカメラは光学式、今となっては珍しがられる代物であった*1
ジルは言う。このカメラはかさばるしすぐ機嫌を損ねて最高に面倒だが、一方で何度も助けられた最高の相棒だと*2。相棒という擬人的な表現からも伺えるが、彼女はこの非効率的なカメラをこそ愛おしく思っている。手のかかる寄り道が、機械への愛着というこれまた非効率的なものを生んでいるのだ。そして、これはルジュにしても無縁の話ではない。

 

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ルジュ「片付けてくる」
ナオミ「なるべくバレない感じで移動したいんですけど」
ルジュ「善処します」
ナオミ「はー、しゃーない……」

 

ジルに旅の理由を尋ねられた際、まさか本当のことを言うわけにもいかずルジュは「悪い奴らを追って?」と答えたが、傭兵達を一度は退けた後でジルはそれがあながち間違いではないと指摘している。そもそもで言えば襲撃があったのはルジュ達がいたからだが、他の乗客を見捨てる選択肢もあったところそうしなかった点からすれば確かに全くの誤りとも言えないだろう。それは後半の激闘からも見えてくる。

 

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今回の話では、本作では過去に宇宙人との大戦争があったことが語られている。そして友好的な「来訪者」の後に訪れた「簒奪者」と呼ばれる宇宙人との激しい戦いの痕跡はまだ火星に残っており、こっそりバスを抜け出した乗客の子供エミリーが簒奪者のウォーマシン・通称シリンダーヘッドを目覚めさせてしまったためにバスは再度大逃走を余儀なくされてしまう。同行していたルジュはメタルルージュに変身(ディフォルム)してこれを撃破するが、インモータルナインを倒す目的からすればこれは間違いなく寄り道だ。非効率的な戦いだ。だが、一方でこれはかつての簒奪者との戦いの再現ともなっている。ネアンが生み出されたきっかけはこうした簒奪者との戦いにこそあり、人間とネアンが協力して逃げたり戦ったりする状況はいわばネアンにとって本道・・とも呼べるものであった。

 

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ナオミ「大人になりましたなあ」
ルジュ「かわいい子は旅をして、無事大人の階段登りました」
ナオミ「とさ!」

 

寄り道は、一本道ではなくたくさんの道があるところに生まれる。迷路にも等しいそれは非効率だが、見ようによっては自由だ*3。そしてその寄り道は時に本道と交わり、むしろまっすぐ進むよりも私達の心に何かを残してくれる場合がある。今回にしてもエミリー同様に兄がいるというルジュが彼女の行動に感じたのは是非よりもむしろ共感であり、それは彼女に以前はエミリーにあげようとしなかった好物のチョコレートを分けてあげるという成長をももたらしていた。

 

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任務や物語の本筋から見た時、今回の話は寄り道である。しかしルジュの成長にとってはむしろこちらこそが本道であり、それは彼女が今のところ何の感慨を抱くのでもない、任務という寄り道によってこそ歩めるものなのかもしれない。
寄り道と本道が絡み合っているからこそ、自由は迷路の中にあるものなのだ。

 

感想

というわけでメタリックルージュの2話レビューでした。車に巨大な機械との戦いにとにかくアクション満載な回で、劇伴の壮大さもあって何よりまず見入ってしまいました。これも物語からすれば「寄り道」。アトラクションのような楽しさで語ってくる回だったと思います。

 

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アバンではアッシュとノイド262という二人が出てきましたが、「いかにも人間的な人間といかにも機械的なネアン」の組み合わせはルジュとナオミをひっくり返したような印象もある。公式サイトの紹介を見て考えていたより重要人物になりそう……? さてさて、次回はどんなお話なんでしょう。

 

 

*1:一方で画面にバッテリーが表示されていることから、さすがに最早フィルム式カメラではないようだ

*2:ベルトか何かでカメラを傭兵にぶつける場面があるが、これをやるの初めてではないのでは?

*3:ジル「自由は自分で選べるの、そうでしょ?」