魔物殺しの魔物――「ダンジョン飯」3話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

食らい尽くす「ダンジョン飯」。3話では新種の魔物が発見される。おなじみ「動く鎧」の正体――だが、それは本当に魔物なのだろうか?

 

 

ダンジョン飯 第3話「動く鎧」

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1.動く鎧の正体

抜け道を使ってダンジョンをショートカットしようとするライオス達だったが、途中で立ちはだかる「動く鎧」のいつもと違う動きに道を阻まれてしまう。奥に鎧を操る者がいるのではと考えた一行は囮作戦を敢行、ライオスはその正体に迫るのだが……?

 

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センシ「鎧が食えるわけないだろう」
マルシル「動く鎧は魔法で操られてるだけで、生き物じゃないよ」
(中略)
チルチャック「そんなに鎧が食いたきゃ、自分のを煮て食えよ」

 

全てを食らう「ダンジョン飯」。多様な魔物を食べてきたこれまでに反し、3話で対象となるのは1種類のみだが、インパクトは勝るとも劣らない。なぜなら今回食べるのはなんと「動く鎧」だからだ。

 

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「動く鎧」……「ドラゴンクエスト」シリーズの「さまよう鎧」でも知られるこの魔物はどんな味がするのだろうという主人公ライオスの疑問を、パーティの仲間は取り合わない。それはそうだろう。人間が使う鎧が魔法で動いているこの魔物には歩き茸やキメラのような肉もなければ骨も無い。というより生き物ですらないし、それでも食べたいならライオスの鎧を煮て食えばいい話になる。スライムを干物にする食の探求者センシですら食べようなどという発想がそもそも出てこない、食材からもっとも縁遠い魔物が動く鎧なのだ。

 

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だが、結果から言えばライオス達は動く鎧を今回の食事にする。別に留め具の皮を口にするほど飢えたわけでも、鋼鉄を消化できるよう胃腸が変化したわけでもない。通説に疑問を抱いたライオスが観察した結果、動く鎧は魔法で操られているのではなく小さな軟体生物の群れが鎧の隙間に潜んで筋肉のように動いていると判明したためだ。ライオスに乞われ軟体生物をセンシが調理した結果できあがったのは炒め物にスープ、蒸し焼き等……特に鎧の端ごと火にかけたものはビジュアル的には「殻付き焼き牡蠣」そのもので、味も兜の臭いを閉じ込めてしまった蒸し焼き以外は不味くはないという結論に一行は至ったのだった。

 

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かくて動く鎧のいる抜け道を通る時間短縮、そして栄養補給に成功したライオス達はダンジョンの更に深部へ進む。折れた剣の代わりに動く鎧から拝借した、これまた軟体生物の潜む剣をナレーションは「仲間が1匹増えた」と語って3話は幕を下ろすのだが――この増えた仲間というのは剣のことだけを指すのだろうか?

 

 

2.魔物殺しの魔物

増えた仲間とは剣のことだけなのか。それを考えようと振り返るなら、自然私達は今回の功労者に触れないわけにはいかない。言うまでもない、動く鎧の正体を暴いたライオスである。

 

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ライオス(間違いない、こいつは生き物だ! 誰に命じられてるわけでもない、本能に基づいて行動し卵を守ろうとしてる……だったらいくらでも倒し方がある。そして食える!)

 

パーティのリーダーを務めていることからも分かるように、ライオスは優秀な戦士である。部屋の奥への侵入を阻む動く鎧に対し、他の仲間を囮に1人が奥にいる何者かを確かめる作戦を考えついたのは彼だし、奥の部屋で特別強力な動く鎧と遭遇しても冷静さを失わなかった。動く鎧が生物であることやそれがどんな生き物かを推理していく観察眼も素晴らしく、仲間として頼りになる人間なのは間違いないだろう。

 

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ライオス「センシ、鎧は食べられないがこの中身ならどうだ? なかなか栄養価も高そうじゃないか?」

 

しかし一方でライオスはどこかズレたところのある男でもあり、この3話はそれを露わにしていく。動く鎧に刺されて初めて死んだ時に手にした剣を思い入れがあるわけでもないが使い続けていたり、その思い出話からダイレクトに味の話に移行したり……あまつさえ、生き物と分かったからと言って軟体生物である動く鎧を食べてみようとする彼に仲間達はさすがに距離を感じずにはいられない。様々な魔物を食べてきたセンシも、調理を引き受けこそしたものの一口目はさすがにライオスに任せずにはいられなかった。

 

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ライオス「なんでみんなそんな目で見るんだ?」

 

焼き動く鎧を食べるライオスを「死んだらあいつここに捨てていこう」と言いながら見るチルチャック達仲間がライオスに向ける目は、得体の知れないものを見る目である。例えるなら生態の分からぬ「魔物」を見るような――そう、動く鎧の正体が軟体生物と知った彼らにとっては、ライオスの方がよほど理解し難い存在として映っているのだ。

 

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センシ「しかしながらく迷宮にいるが、まさかこいつが食えるとは思わなかったな」

 

ライオスが提案したダンジョン飯、魔物食がもたらすのはけして時間や食料の節約に留まらない。どのような生態や構造をしておりどこが食べられるか調べられた存在はもはや、魔物というより単なる生物と化すためだ。倒されるだけでなく食われることで魔物は二度死に、それきり不思議な存在として蘇ることができなくなってしまう。今回のライオスの発見にしても、動く鎧が生物と分かったことで「ダンジョンの奥で誰か凄腕の魔法使いが鎧を操っている」などという一種の伝説は破綻した。それは科学が宗教から神秘を失わせる神殺しを果たしたのと同じだ。そして現代では科学が宗教にとって代わっているように、魔物を概念的に殺したライオスとはダンジョンに新たに現れた魔物と言えるのではあるまいか。

 

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ライオス(一時期あれほど恐ろしかった対象が、こんなに美味く脆い魔物だったとは)

 

この3話で新たに発見された魔物とは、鎧を動かす軟体生物などではない。今回の体験を通して鍔の装飾が剥がれるように正体を現した、ライオスという「魔物殺しの魔物」こそ一行に加わった新たな一匹なのである。

 

感想

というわけでダンジョン飯のアニメ3話レビューでした。貝みたいなものと言われればそう見えなくもないですが、さすがにこれを食べる発想にはならない……一方で善良なのは間違いないし優秀かつ節度もある人間(動く鎧の正体に興奮しても、仲間が囮になってくれているのを思い出せばそちらを優先する)なので仲間もライオスを嫌いにまではなれない。人の複雑さや塩梅の難しい距離感がよく分かる回だったと思います。さてさて、次回はどんな魔物が餌食になるんでしょうか。

 

 

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