幻術の中は口の中――「ダンジョン飯」18話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

問いを問う「ダンジョン飯」。18話では幻術でパーティが分裂の危機に陥る。偽者が誰なのかは、今回の一番の問題ではない。

 

 

ダンジョン飯 第18話「シェイプシフター」

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1.幻術の中は口の中

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マルシル「さ、寒い……!」
ライオス「6階層はもっと蒸し暑いはずなんだけど……」

 

狂乱の魔術師を倒しファリンを救うべく、第6階層へ足を踏み入れたライオス達。しかし蒸し暑かったはずの第6階層は雪の降る寒々とした場所へ変貌していた。互いの姿も見えない吹雪をくぐり抜けてみれば、4人はなぜか4人×4人に増えていて……!?

 

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ライオス「しかしどうなることかと……え!?」

 

まるかじりの「ダンジョン飯」。様々な魔物と戦ってきた本作だが、今回はその中でも異彩を放つ相手が登場する。その名は「シェイプシフター」……集団の構成員そっくりに化け、やがては本物を捕食してしまう驚くべきモンスターだ。主人公ライオス達は迷宮第6階層の吹雪で視界が失われた隙にシェイプシフターに潜り込まれてしまい、横穴に入って雪を逃れた彼は自分とマルシル、チルチャック、センシがそれぞれ4人いる異常な光景を目にすることとなった。

 

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偽ライオス「食わねば」
偽ライオス「困ったなあ……」

 

今回のシェイプシフターが見せる偽者は各人の思考を読み取り、その人間の抱く他者への印象をベースに生み出されたもの。このため再現度は必ずしも高くなく、シェイプシフターがどういう魔物か解説したライオスは早々に本者が割り出されたほどだ。私を含め、残りの誰が偽者か……いや、それ以上に偽者が誰の思考から生み出されたかの推理に夢中になった視聴者は多いだろう。偽者で増殖する前、カメラワークや吹雪によりチルチャックやマルシルの髪型が確認し難くなっているのも推理意欲をかき立てるのに一役買っている。だが、「本者がどれか」見分けるのは実のところ重要ではない。

 

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ライオス(誰を選んでも結局こうなる)

 

ライオスは2人×3組まで絞られた候補を更に観察し見事真偽を言い当てたが、その結果待っていたのは一件落着どころか不服と内輪揉めの乱闘であった。彼が根拠をその場では言わなかったのも一因だが、おそらく解説しても偽者は異議を唱えて場を混乱させ続けたことだろう。「誰を選んでも結局こうなる」とライオスが心中でひとりごちるように、この状況こそは既定路線――シェイプシフターの術中だ。

 

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マルシル(狂乱の魔術師に出くわしたことも、シュローの気持ちにも)
チルチャック(カブルーってやつに以前どこで会ったかも気付けない)
センシ(ライオスの観察眼に頼る?)
一同(不安……!!!)

 

シェイプシフターの真の狙い、それは本者へのなりかわりではなく内輪揉めである。本者探しの過程ではライオス達が把握している互いの姿がいかにいい加減かがコミカルに描かれているが、自分への誤ったイメージを見せられたり、あるいは自分なら絶対にしないことに気付いてもらえない状況は本者を含めた・・・・・・他者への不信を生むものだ。実際、乱闘への最後の一押しは真偽そのものよりも(明確に本者と分かっている)ライオスの判断力への疑義の方であった。シェイプシフターが思考まで読み取りながら当人ではなく他人へのイメージを再現するのは、露骨な間違いを敢えて含めて仲間割れを誘発する狙いあっての行動なのだろう。すなわち、「本者はどれか? どれが誰のイメージから生まれたのか?」と推理に熱中する者は、いくら鋭く知性を働かせようとシェイプシフターの掌の上を飛ぶ孫悟空に過ぎない。

 

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吹雪から逃れてライオス達が入り込んだ横穴は、例えるならシェイプシフターの両顎である。ダンジョン飯は食うか食われるかの物語だが、今の彼らは一方的に食われかねない危機に陥っていると言えるだろう。

 

2.強敵と戦うために

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

チルチャック「つまり狂乱の魔術師は、とっくに消失した国王を探してレッドドラゴンをこき使ったり迷宮を改装したりしてんのか!?」

 

どれだけ推理が正しかろうと、真偽にかかずらっている間はシェイプシフターの術中。この状況を脱するにはどうすればいいのか? ヒントは序盤のライオスとチルチャックのやりとりにある。

 

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ライオス「狂乱の魔術師は過去に先王を目の前で殺されて以来、息子のデルガルが同じ目に遭うのを恐れてる。それで俺達を暗殺者ではないかと疑い攻撃してきた」

 

ライオスは前回、迷宮の主にして妹ファリンをさらった狂乱の魔術師を倒すと宣言した。黒魔術を使ったマルシルをエルフに引き渡さずファリンを助ける方法として言い出したものだが、強大なレッドドラゴンすら操る相手への勝算まで語ったわけではない。だが、その点をチルチャックに尋ねられたライオスの答えは意外なものであった。なんと彼は狂乱の魔術師と対話を試みるというのだ。よりにもよって、言語は通じてもこちらの呼びかけを解する様子を全く見せなかったあの狂乱の魔術師に、である。

 

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ライオス「ともかく。王の敵だと思って俺達に襲いかかってきたんなら、対話で誤解を解けるかもしれない」

 

ライオスは言う。狂乱の魔術師は迷宮の元となった黄金の国の王・デルガルを探しているようだが、デルガルは地上の人間に迷宮の存在を告げた後塵になって消滅している。探し人が既にいないことさえ伝えられれば説得の余地はあるのではないか……と。
戦うしか無いと思われた相手に、打ち勝つ方法ではなく意思疎通の可能な部分を探す。ライオスの発想はいわば枠組みやルールの破壊である。そもそもがこの迷宮は狂乱の魔術師によって構造から何から自在に変化させられる(第5階層は街が作り変えられライオス達は迷子になったし、今回は吹雪いている第6層は以前は蒸し暑いくらいの場所であった)代物であり、それに従って戦うのは「悪法もまた法なり」の理念を盲信して過ちを犯すに等しい。「枠組みの中でしか正しさを競えない時点で負け」という場合が世の中には存在する。

 

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センシ「い、犬!」
チルチャック「うま……!」
センシ「いや、あれは猟犬!」

 

必要なのは、少なくない数の社会運動がそうであったように枠組みそのものを破壊することだ。一方的にルールを決める強者ではなく、食うか食われるかの対等の立場に相手を引きずり下ろすことだ。だからライオスは、この状況への対抗策としてかつて家で飼っていた猟犬にシェイプシフト・・・・・・・する。吠え声を模倣することで場をシェイプシフターとの物真似対決に、そして狩るか狩られるか=食うか食われるかの場に変えてしまう。安全圏から獲物が罠にかかるのを見ていたつもりのシェイプシフターにとって、これは全くの予想外の出来事だったに違いない。

 

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ライオスには変装の技能も、もちろん幻覚を操る魔術的な能力もない。しかしその演技力は一同が思わず聞き入ってしまうほど堂に入ったもので、何より、驚いたシェイプシフターが姿を現したにも関わらず剣を抜かず飛びかかるほどの役への入れ込みぶりはおよそ仲間割れ目当てのエセ模倣の及ぶところではなかった。この瞬間、ライオスはシェイプシフターとの物真似対決に勝利したのだ。
物真似に負け姿を現した以上、シェイプシフターはもはや他と変わらぬモンスターである。実際にトドメを刺したのはマルシルの魔術だが、ライオスに負けた瞬間この魔物の命運は尽きていたと言えるだろう。

 

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ライオス(物心ついた時からいつも犬達が側にいて、色んなことを教わった! 狩りのやり方、自分達より強大なものへの挑み方! 俺が教えてやる、お前は狩る側ではなく狩られる側なのだと!)

 

今回の戦いで問題となったのは、誰が偽者かではなくどうすれば敵の術中から――食われるのを待つばかりの口中から逃れられるかであった。もちろん純粋な強さこそ違うが、その点に限って言えばこの戦いは狂乱の魔術師に立ち向かうための一つのヒントになる。見ようによっては、シェイプシフターが本当に化けたのは狂乱の魔術師そのものだったのかもしれない。
幻術の中は口の中である。強敵との戦いは、まずその口の中から逃れるところから始まるものなのだ。

 

感想

以上、ダンジョン飯のアニメ18話レビューでした。本文中でも触れましたが「どれが誰の印象から作られた偽者なのか?」から思考を逃がすのが大変で。ライオスがすっかり犬になりきってしまう理由がなかなか見えてこなかったのですが、口中と術中をテーマに書き勧めていくいく内にライオスとシェイプシフターが物真似対決をしたことに気付きました。

 

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笑えて、同時にとても示唆的な話だったと思います。これだからダンジョン飯はすごい。さてさて、マルシルを人質に取るような真似をしながら平和的=対等の話し合いをというラストの抜け忍キャラは次回どんな波乱を巻き起こすのでしょうか。

 

 

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