灯台下の迷宮――「ダンジョン飯」22話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

さまよう「ダンジョン飯」。22話でライオス達は再び迷宮に舞い戻る。だが、彼らがいる迷宮は1つとは限らない。

 

 

ダンジョン飯 第22話「グリフィン/使い魔」

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1.誰の迷宮

狂乱の魔術師の追跡から逃れるべく、黄金郷を去るライオス立ち向かう。迷宮へ戻った一行はドワーフの貯水庫に迷い込むが、センシはグリフィンに異様な恐怖を示して逃げ出してしまい……!?

 

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ライオス「ここは……古代ドワーフ製の貯水庫だ」

 

潜入の「ダンジョン飯」。前回黄金郷へ招かれたライオス達だが、22話では再び迷宮が舞台となる。ただ、彼らが戻った場所はこれまでと比べると少し特殊だ。なにせライオスが言及するようにそこは黄金城の中である以前に古代ドワーフ製の貯水庫であり、迷宮の主たる狂乱の魔術師よりも仲間の1人にしてドワーフであるセンシとの関連性の方が強い場所なのだから。

 

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ヤアド「センシさんは、とても料理がお上手ですね」
ライオス「そうなんだよ、センシはすごいんだ!」

 

センシ……1話から登場しているこの人物を、私達視聴者やライオスはよく知っている。魔物食の研究者であり、栄養や生態系にも配慮した深い洞察を覗かせる哲人。一方で魔術については子どものような駄々をこねるほどの拒絶を示す頑固者。貴重な金属であるアダマンタイトを鍋にするこの変わり者がしかし、尊敬に値する人物であることを知っている。

 

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チルチャック「気にならないと言えば嘘になる。センシの言動にはひっかかる点が多い……」

 

けれど一方で私達は、ライオス達はセンシのことを何も知らない。なぜあそこまで深く食に傾倒しているのか。この迷宮が発見されたのは6年前なのに、10年以上ここで魔物食を研究しているとはどういうことなのか。なぜ貴重な金属を所持しているのか……同行するだけならそこまで困らなかったこともあって触れられなかったセンシへの違和感は、この22話で一気に膨れ上がっている。広大な貯水庫の現在位置を示す暗号を解読した他、上半身が鳥で下半身が獅子の魔物グリフィンに異様な恐怖を示し逃げ出してしまうといったセンシの姿は、ライオス達が初めて目にするものであった。

 

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背中を見せたセンシをグリフィンは素早く連れ去り、ライオス達は一瞬にしてセンシを見失ってしまう。この「見失った」というのが物理と心理の両面であるのは言うまでもないだろう。ライオス達はセンシとすっかり気心の知れた仲間になったつもりでいたけれど、まだまだ彼のことを何も知らない事実を突きつけられてしまった。古代ドワーフ製の貯水庫で彼らは、まさしくセンシという迷宮に迷い込んでしまったのである。

 

2.灯台下の迷宮

ライオス達が戻った「迷宮」とは、狂乱の魔術師の迷宮だけではない。彼らはセンシの心にも迷い込んでおり、更に言えばそれ以外にも迷宮は存在する。……それは「純粋さ」、あるいはイヅツミやファリンに象徴される「混ざり物」を巡る迷宮である。

 

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既に触れたように、今回ライオス達が戦うモンスターはグリフィン、鳥と獅子の「混ざり物」である。だが2頭が弱点でもあるバジリスクと異なりこちらは2つの動物の要素は衝突を起こす余地がなく、素早い飛行能力と獅子の下半身は極めて機能的な強さをグリフィンに与えている。

 

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イヅツミ「だからなんなんだよアイツは!?」
ライオス「一生懸命なんだよ彼女は」

 

グリフィンの強さとはすなわち、混ざりものという不純がもたらす純粋な強さである。それに対抗するにはどうすればいいか?と言うと、今回ライオス達が取った手段は複雑だ。彼らは食材を材料に仲間の一人マルシルが作り出す使い魔でグリフィンを出し抜こうとするもなかなか上手くいかず、手を変え品を変え再挑戦を重ねている。純粋に飛べればいいとだけ考えて作った形ではセンシの居場所探しが関の山、狂乱の魔術師のワイバーンを参考にした=混ざりものにした形は一定の成果こそあげたものの所詮は素人の真似事に過ぎない。ならばとマルシルは「飛べればいい」ではなく「センシを助けるための素早さだけを追求した」純粋な姿としてスカイフィッシュ型の使い魔を誕生させ……まさに試行錯誤だが、見方を変えるならこれは迷宮・・の中を進んでいるに等しい。そう、今回のセンシ救出は右と左のように純と不純を行ったり来たりする迷宮探索なのだ。そして純不純が左右と同じものならば、どちらか片方だけで足りるわけではないのもまた自明のことだろう。

 

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鍋で行われる使い魔作りが料理のようであったり、センシ救出に一生懸命なマルシルが使い魔の操作に熱心なあまり本体の方まで変な動きをするようになったり、彼女がただの使役対象を超えて愛着を抱いてしまったスカイフィッシュの亡骸が今日の魔物食になったりするように、センシのことを「よく知っている」も「全然知らない」も両立するように、純と不純は単純には割り切れない。今回の事件とチルチャックの気遣いを契機に過去のことを語り始めたセンシもまた、けして全てを割り切った解脱者などではなかった。

 

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センシ「あの日、我々はずいぶん大きなものを掘り当てた。黄金に輝く古代の城……そう、この迷宮だ」

 

この22話、ライオス達は迷宮へと舞い戻っている。けれど、彼らが今回最後に足を踏み入れるのはセンシの過去という名の迷宮だ。一番の迷宮は私達一人ひとりの足元に――心の中にこそ広がっているのである。

 

感想

以上、ダンジョン飯のアニメ22話レビューでした。センシの迷宮の話なのは明瞭なので、彼の救出劇の意味付けを絡めるとこんな感じかしらん。UMAであるスカイフィッシュが出てくるのもそれがフィッシュ&チップスと結びついちゃうのも人にはできそうでできないアイディア……一生懸命でも「ダンジョン飯」なのは変わらないのを感じた回でした。

 

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