繰り返す「響け!ユーフォニアム3」。最終回13話は終わりと共に私達に驚きを届ける。つながるメロディ、それは高校吹奏楽の響きである。
響け!ユーフォニアム3 13話「つながるメロディ」
1.「1」と「3」
1日と1日と迫る吹奏楽コンクール全国大会の日。久美子達は練習を重ね、思い出を重ねていく。3年間の吹奏楽部の物語、そのフィナーレは果たして――
響き渡る「響け!ユーフォニアム3」。フィナーレを迎える13話は出来事としてはとてもシンプルな回だ。全国大会までの数日を点々と描き、迎えた当日は自由曲「一年の詩~吹奏楽のための」の演奏にたっぷりと時間を割く。演奏の合間には主人公である久美子の高校3年間の回想が挿入されるのもあり、本作が2015年のアニメ1期から続く物語の終わりであることを強く想起させる内容だ。悔いのない演奏の結果として彼女達北宇治高校吹奏楽部は遂に全国大会金賞を獲得、万感の思いと共に受賞後の久美子達が描かれてエンドロール……物語としてかくあるべきという道を進んでいく展開と言えるが、驚きが無いかと言えばそれも正確ではない。エンドロールの後では久美子が後に北宇治高校吹奏楽部の副顧問になったことが明かされ、なんと1話冒頭の演奏シーンがそこに繋がっていたことが明かされるからだ。既に予想していた敏い方もいらっしゃるかと思うが、全くの予想外だった私は面食らわずにはいられなかった。最新話の放送直前に1話前を見返すのが習慣になっていたが、最終回だというのにどうして第1話を見直さなかったのかと数時間前の自分に説教をしたい気持ちである。……同時に印象的だったのは、顧問の滝先生の10話での言葉を引き継ぐような言葉を久美子が口にしていたことだ。
滝先生「毎年メンバーが変わる楽団で、毎年1度しかない大会を目指すようなものですから」
久美子「高校の吹奏楽部は不思議な空間だ。毎年メンバーが変わる中、1年に1度の大会のために1年間練習を続ける。理不尽で、取り返しがつかないこともたくさん起きる空間だ。でも、私はここが好きだ。たった3年、3回しかない大会に全てを懸けるこの濃密な時間がたまらなく好きなのだ」
久美子の言葉には「1」と「3」の2つの数字が登場するが、私はこれを聞いて久美子が3年生の年のもっとも大きな変化が複数回のオーディションだった理由が分かったように感じた。都合3回行われるオーディションは3年間と同じものであり、そしてそのメンバーで演奏するのは1度の大会に1度きり……主要人物ばかりに気を取られ、私は心のどこかで2回目(関西大会)と3回目(全国大会)ではメンバー自体は変わっていないように錯覚してしまっていたけれどそんなはずはなく、2回目の後に練習を重ねて再び選ばれた者も3回目で涙をのんだ者もいたはずなのだ。その子達が味わった喜びや悔しさはきっと、オーディションが1年に1回だった時とさほど変わるものではないだろう。本作は久美子が3年生の間の1年を描いた話にも関わらず、ここには「毎年メンバーが変わる楽団で、毎年1度しかない大会を目指す」3年間が丸々収納されている。
3度のオーディション示すもの。それは「一度きり」の三段化である。吹奏楽コンクールは1年に1度しかないが各大会毎に3分割できるし、逆に高校生は3回大会に挑めるが同じメンバーで演奏できる機会は1度しかない。久美子の3年間をこの1年にオーバーラップさせるTVシリーズ第3期は、全く別の数字であるはずの1と3を軽やかに繋いでみせていると言えるだろう。そして更に、本作が繋いでいるのは1と3だけではない。
2.三度きりを何度でも
前節で記したように久美子の3年間は1と3を繋いでいる。だが当然ながら、高校は黄前久美子が在校する3年間だけこの世に存在するわけではない。この最終話は、久美子の3年間からはみ出た存在もまた描いている。
春香「きたね、黄前さん!」
久美子の3年間からはみ出たもの。その分かりやすい例はやはり彼女の先輩達だろう。2代前の部長である小笠原晴香を始めとした先輩達は当然ながら先に入学・卒業しているから、3年間の全てが久美子と重なるわけではない。全国大会金賞受賞で後輩が宿願を果たしてくれた喜びはあっても、彼女達自身が受賞したわけではない。同時に、彼女達のしてきたことが今年の北宇治に繋がっているのもまた確かだ。
久美子「大切に吹いていってね、大事な曲だから」
奏「はい!」
また、久美子は先輩の1人である田中あすかから教わった曲「響け!ユーフォニアム」を大切にしていたが、今回同じく3年生の真由や後輩の奏にも伝え「これからは皆に吹いてほしい」と語ることでそれは彼女だけの思い出から
あすか「今度は黄前ちゃんが後輩に聴かせてあげてよ」
高校の吹奏楽部は不思議な空間である。毎年メンバーが変わる中、1年に1度の大会のために1年間練習を続ける。だがこの1度は内部的にも外部的にも「3」への可変性を秘めているし、アルペジオのように分散した「3」は1つずつズレることで音を響かせ続けてていく。その構造は、例えるなら1話の始まりが実は最終回のラストであった本作と同じループに等しい。高校の吹奏楽部とはすなわち、たった3年、3回しかない大会に全てを懸ける濃密な時間の「繰り返し」なのだ。そして本作には、この3年間の繰り返しがたまらなく好きになった者がいる――そう、本作の主人公たる黄前久美子である。
松本先生「高校生活最後の1年だ。自分が何者か、そして何者でありたいのか。きちんと考えてほしい」
高校最後の年を描くこの3期、久美子にとっては進路選択もまた大きな課題であった。悩みに悩んだ末、彼女が教職を選んだことは映像からも明らかである。だが一方で本作は、この「教職」という言葉を一度も台詞にしていない。それは単にサプライズでとっておいたという話ではない。1話で彼女の担任の松本先生が「自分が何者か、そして何者でありたいのか」考えるよう生徒に言ったことを踏まえれば、ラストの久美子の自己紹介は前回の「(誰にも平等な)正しい人になりたい」に続く答えにほかならないからだ。では、彼女は松本先生の問いかけにいったいなんと答えたか?
吹奏楽部員を前に久美子が名乗った「自分が何者か」――それは北宇治高校吹奏楽部の副顧問である。そう、黄前久美子は教師である以上に「北宇治高校吹奏楽部の副顧問」なのだ。彼女が選んだ道とはきっと、実力主義という北宇治イズムを滝先生以上に実践し、同時にそれが生み出す生徒達の喜びや悔しさに全力で向き合っていくことなのだろう。高校生だった3年間がそうであったように、久美子は教え子達との3年間をこれからも繰り返していく。生徒から教師に立場を変えても、それは彼女の中の和音であり続けていく。
この13話の副題、「つながるメロディ」は3年間の繰り返しを繋げている。三度きりを何度でも繰り返す魔法の旋律、それが高校吹奏楽の響きなのだ。
感想
以上、ユーフォ3期最終回のレビューでした。ラストが示すように「終わりと始まり」だけだとレビューを書くのにちょっとあやふや過ぎるかな……と思ったのですが、1と3という段階を踏んだことと「久美子が選んだ進路は教職であって教職ではないんじゃないか」という着想から内容を具体的にしていくことができました。キャッチコピーの1つの「私、北宇治が好き」が見事に回収された終わりだったと思います。
なんというかまあ、本当に濃密な13話で。それでいてぼやけていないのがすごいですね。副題が上手く手がかりになってくれたのもありますが、普段はレビューを書くのに5,6回見返している私が後半はほとんどの場合2回の視聴で書く内容をまとめられました。もちろん、終わると毎回ヘトヘトでしたけども……記憶力の弱い人間なので自力では分かりませんでしたが、30分の内で秀一とのその後までこっそり示してるというんだから恐ろしい。
前回の告白を経て、奏が久美子への思いを全然飾らなくなったのがとても好きです。最後に一緒に吹けなかった彼女にとって、久美子から受け継いだ曲はきっと大きな思い出になる。前回の悔しさも乗り越えられるだろうと感じました。
物語を最後まで映像にしてくれた京都アニメーションの皆様に心からの感謝を。ありがとうございました。
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三度きりを何度でも――「響け!ユーフォニアム3」最終回13話レビュー&感想https://t.co/lu8zRbZCNc
— 闇鍋はにわ (@livewire891) June 30, 2024
ブログ更新。久美子の進路って表面的には○○だけど実際はもっと深い意味のあるものだよね、という話。それと奏が私の中で全国大会金賞。#ユーフォ3期#anime_eupho