奇跡への帰還――「ブルーアーカイブ The Animation」最終回12話レビュー&感想

(C)NEXON Games / アビドス商店街

おかえりの「ブルーアーカイブ The Animation」。最終回12話ではホシノがあるべき場所へ帰還する。一体それはどんな場所だろうか?

 

 

ブルーアーカイブ The Animation 第12話(最終回)「ただいま」

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1.奇跡の危機

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ホシノを救出すべくカイザーPMCの基地へ突入するシロコ達。あまりにも多くの敵が立ちふさがる中、彼女達の前に現れたのは……!?

 

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ファウスト「と、とにかく違うんです! 私はヒフミではありませんし、ここにはたまたま通りかかっただけですし、これはトリニティ総合学園の榴弾砲なんかではないですし、今撃った方が誰なのかも知りませんし、こちらの皆さんも完全に無関係の方々なんです!」

 

ただいまの「ブルーアーカイブ The Animation」。最終回となる12話は一言で言えばあっけない回だ。「大人」の汚さで様々な手段を使ってアビドス高校を追い詰めてきたカイザーコーポレーションとの決戦は熾烈を極めるものに……かと思いきやそうはならない。以前はボス敵のような扱いだった巨大ロボットの量産型が多数登場したりもするが、ヒフミもといファウスト率いるトリニティっぽい学園やゲヘナ、そして便利屋68が救援に現れ苦戦らしい苦戦とはならないからだ。正直に言えば、私は最初すっかり拍子抜けしてしまった。これではまるで奇跡のバーゲンセールに等しい――だが、それは単なる安っぽい展開というわけでもないよう思う。

 

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イオリ「やれやれ……数だけの見掛け倒しだな」

 

この12話で本作が直面しているもの。それは「奇跡」の危機である。不運にも砂嵐と砂漠化に襲われ、更には莫大な借金まで背負ったアビドス高校の未来は、はっきり言って奇跡でも起きない限り開けようのない真っ暗闇の中にあった。そしてその奇跡とは可能性0の話にもひとしく、かつてのホシノ自身、最後の生徒会長であるユメがその言葉を口にするのを何度も否定してきたのだ。にも関わらず、こんなにも都合よくポンポンと物事が進むのが本作の奇跡であるはずがない。トリニティやゲヘナ、便利屋68の助力は確かにありがたいものだけど、それらは少なくとも奇跡そのもの・・・・ではない。なら、何が奇跡なのか? 本作はその答えをはっきり言葉にしている。

 

 

2.奇跡への帰還

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ホシノ(みんな、今頃どうしてるかな……)

 

カイザーコーポレーションの雇った兵士とシロコ達の戦いが続く中、囚われの身のホシノが考えていたこと。それは自分の選択への後悔であった。自分が身売りすれば借金が減らせるという期待は無残にも裏切られ、最後の生徒会メンバーである自分がいなくなったのを理由にアビドスへの侵攻すら始まってしまったのだから無理もない。そしてホシノは、自分が対策委員会の4人にいかに救われていたかも痛感せずにはいられなかった。ノノミの包容力やセリカの不器用な優しさ、アヤネの真面目さやシロコの成長……「おじさん」を自称し4人を守っていても、本当に守られていたのは自分の方だった。

 

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ホシノ「奇跡というのはもっとすごくて、珍しいもののことですよ」
ユメ「ううん。ホシノちゃん、私はそうは思わないよ」
ホシノ「なんですか、急に」
ユメ「ねえホシノちゃん。いつかホシノちゃんにもかわいい後輩ができたら、その時は……」

 

自分と出会えたことを奇跡だと言っていたユメ先輩の言葉を思い出し、ホシノは悟る。自分にとって奇跡とは砂漠にまた水が湧くだとか借金が消えるだとかいったものではなく、対策委員会の皆の存在のことだったのだと。奇跡とは凄くて珍しいものなどではなく、目の前にありふれて見えるものなのだと。

 

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そう、アビドス高校は本来とっくになくなっているはずだった。砂による不運、何事かを企む者達の謀略……にも関わらずシロコ達はくじけず、絶望することなく、日々を笑顔で過ごしていた。カイザーコーポレーションの理事が不可解に感じるほどにありえないそれこそ、奇跡以外の何であろう。ホシノがかつて否定した奇跡は、本当は目の前にありふれていたのだ。そんなにも当たり前にあるものなら、都合のいいことがいくら起きても不思議なことなど何もない。タイミングよく味方が現れようと、崩れ行く基地で爆炎に飲まれたはずのシロコ達が生きていようと、彼女が落下したホシノの救出にギリギリ成功しようと――目の前にありふれたそれを見失わない限り、奇跡は何度だって起きる。最終回でこれまでが嘘のようにあっけなく物事が進んでいくのは、これが30分のアニメである以上にホシノが奇跡に気付けたからこそなのだろう。

 

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かくてひとまず事件は解決し、「おかえり」にホシノがいつもの笑顔で「ただいま」を返したことに皆が喜びを爆発させたところで物語はエンドロールに移る。感動的な場面だけれど、そこに涙だとか今まで見せたことのないような笑顔などは必要ない。だってこれは今まで同様、彼女達5人には当たり前の奇跡に過ぎないのだから。

 

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「ただいま」と口にした時、ホシノは確かに帰ってきた。アビドスに、学校に、シロコ達のところに――そして、ありふれた奇跡へと帰還したのである。

 

 

感想

以上、ブルアカのアニメ最終回12話レビューでした。奇跡が何なのかははっきり語られていたのもあり、序盤の出来事の意味づけができた後はすんなりレビューを書き進めることができました。

 

本アニメを見ていていつも感じていたのは、「台詞がAVGパートっぽい」ということでした。原作そのままではないそうですが、聞いているとついAVGで同じことをやってる様子を想像してしまうんです。背景と立ち絵差分しか見せられない状況で、台詞に説明要素を含ませると多分こういう喋り方になる。アクションシーン周りが特にもっさりした進行になる一方、戦闘のない回だと齟齬をあまり感じなかったのはそこに一因があるのではないかと感じました。

 

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上述した理由もあって映像にはあまり魅力を感じなかったのですが、一方で感じたのは本作が「ファンタジー」だということでした。私にとってファンタジーとは何よりも「遠い世界」なので、学校が国のような存在で少女達も特別な本作の世界には久しく忘れていた遠さを感じることができました。それからこれまでのレビューを読んでくださった方は御存じだと思いますが、登場人物の中ではセリカが一番のお気に入りです。5人の中では一番子供で、だからその隠そうにも隠せないまっすくさが愛おしい。

 

作品問わずゲームは当面いいやとなっている自分に、本作の世界の一端に触れる機会を与えてれたことに感謝を。スタッフのみなさま、ありがとうございました。

 

 

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