覆水は天下の回りもの――「ブルーアーカイブ The Animation」7話レビュー&感想

(C)NEXON Games / アビドス商店街

帰らずの「ブルーアーカイブ The Animation」。7話ではアビドスの穏やかな日々が描かれるが、そこには終わりの予感も付きまとう。覆水は盆に返らず、しかし……

 

 

ブルーアーカイブ The Animation 第7話「前に進むしか…」

sh-anime.shochiku.co.jp

1.時計の針は戻らない

(C)NEXON Games / アビドス商店街

ゲヘナ風紀委員会を退け、アビドスには再び平穏な時間が訪れる。しかし、柴関ラーメンの大将を見舞いに行ったセリカ達は彼から元々店を閉めるつもりだったと聞かされ……!?

 

(C)NEXON Games / アビドス商店街

アナウンサー「なんらかの爆発があったようですが、普段と変わらない砂漠地帯が見られますね。それでは本日のニュースはここまでとなります、またお会いしましょう!」

 

青き前夜の「ブルーアーカイブ The Animation」。ぽんぽんドンパチが発生してきた本作だが、この7話は銃器が登場することはあっても実際には使用されない静かな回だ。ゲヘナ風紀委員会との戦闘も終了した街は穏やかで、以前の日々がまた戻ってきたかのよう。……だが、これはあくまで「よう」の話に留まる。

 

(C)NEXON Games / アビドス商店街

表面上かつての町並みが戻っても、前回までの戦闘が残した爪痕は大きい。便利屋68のハルカが爆破してしまったラーメン屋(柴関ラーメン)は今も壊れたままだし、風紀委員会に居場所を知られてしまった彼女達はもはやアビドスの事務所に居続けられない。また主役格のシロコ達は前回便利屋68と共闘して風紀委員会と戦ったが、だからといって憩いの場だった柴関ラーメンの爆破まで許したかと言えばそれは別。ひっくり返したお盆の水がもはや元の場所に返らないように、起きてしまったことはもう取り戻せない。そして、これは対策委員会の一員である小鳥遊ホシノも同様である。

 

(C)NEXON Games / アビドス商店街

先生「やあ、ホシノ。天気もいいし今日は屋上で昼寝?」
ホシノ「そんなとこかな。そういう先生は?」

 

ホシノは最上級生にして対策委員会の委員長という立場だが、普段の行動はあまり威厳があるとは言い難いものだ。「おじさん」を自称し昼寝が大好き、会議などでも皆を主導するわけでもない……アビドス襲撃を指示した風紀委員会のアコが彼女をあまり警戒していなかったのも当然と言えば当然の反応だろう。だが委員長のヒナに言わせればホシノは数年前はゲヘナ潜在的脅威としてリストアップされていた恐るべき相手であり、その行動も攻撃的な戦術を得意とした好戦的なもの。今だけ見れば昼行灯のようでも、かつてのホシノの脅威を知るからこそ前回ヒナは委員を撤退させる驚きの指示を出したのだった。

 

覆水盆に返らず。時計の針は戻らず、故に人は今回の副題のように「前に進むしか」ない。だが、私達は本当に過去と対面することはないのだろうか?

 

2.覆水は天下の回りもの

時が前に進むしかない世界で、私達は過去と対面することはないのか。それを考えるヒントは、対策委員会と柴関ラーメンの大将(店主)のやりとりにある。

 

(C)NEXON Games / アビドス商店街

大将「いいんだ。そもそももうすぐ店も畳むつもりだったからな。なあに、予定がちょっと早くなっただけだ」
ノノミ「お店をですか!?」

 

既に触れたように、柴関ラーメンはシロコ達にとって憩いの場だったがハルカが暴走したことで爆破されてしまった。大将自身は軽傷で済んだとはいえ、あんなことがなければ店は営業を続けていたはず……と思いきや、彼は意外なことを口にする。なんと柴関ラーメンは以前から退去通知を受けており、もともと閉店を予定していたというのだ。つまりこの店じまいはある意味既知のものであり、爆破はそれ自体は驚きであっても大将にとって過去との対面に過ぎなかった。

 

(C)NEXON Games / アビドス商店街

セリカ「私達が返済している以外にも借金があったってこと?」
ノノミ「私も知りませんでした……」
セリカ「じゃあ今は誰のものなの!?」
ノノミ「もしかして……カイザーコーポレーション……」

 

また、退去通知が来ていたなどと思いもよらなかったセリカ達対策委員会は大将から更に驚きの事実を聞かされる。この自治区の土地や建物は本来アビドス高校のものだが、実は一部のそれの保有権は数年前既に別の何者かに移っていた。セリカ達は今更になって過去と対面させられたのであり、そして彼女達は保有者がカイザーコーポレーションである可能性を――カタカタヘルメット団や便利屋68を雇って過去にも自分達を襲撃してきた企業である可能性を想像せずにはいられない。そう、これも過去との対面である。

 

(C)NEXON Games / アビドス商店街

アル「あ、あれはあなた達が銀行強盗で奪ったお金でしょ。それを拾ったからって自分のものにするほど落ちぶれちゃいないわ。アウトローにもけじめってものがあるの!」

 

時は前にしか進むことはないが、それでも人は眼前に過去を見出す時がある。いや、過去が自分達の前に回り回ってくることがある。便利屋68はアビドスを去る一方、かつてシロコ達と出会った柴関ラーメンが再会すればまた会える可能性を否定しないし、シロコ達が4話で誤って奪ってしまった闇銀行の金は最終的には便利屋68を経由して柴関ラーメンの再建資金に使われることとなった。「金は天下の回りもの」と言うけれど、人と人の間を巡っていくのは金に限らずお盆からひっくり返した水=因果もまた同様なのだろう。

 

(C)NEXON Games / アビドス商店街

ホシノ「それにセリカちゃん、水族館に行ったらクラゲもたくさんいるよ? こう、うにょうにょしてて、きれいだよ? おじさんと一緒に行こうよ、ちょっとでいいから~」
セリカ「分かったわよ、行けばいいんでしょ!?」

 

カイザーコーポレーションはなぜ何重もの策を重ねてアビドス自治区を手に入れようとするのか。一同が不審と不安に襲われる中、ホシノはあえていつものようにちゃらんぽらんに振る舞って皆の緊張を和らげる。以前ブラックマーケットに行った際に話した水族館に行ってみようとシロコ達を誘う。「相変わらずのしょうがない先輩」と笑ってホシノの提案を受け入れる後輩達はきっと、後になってそれがいかにかけがえのない時間だったか思い知ることだろう。ホシノはアビドスを守るためカイザーコーポレーションと何らかの契約を強いられていることがアバンで示唆されているし、シロコの部屋に忍び込んだカラスは菓子箱からホシノの髪色と同じピンクのクッキーを奪っていってしまった。そうした不吉な描写に、私達視聴者はシロコ達とホシノの別れを連想せずにはいられない。それが訪れた時きっと、突然ではなく過去との対面だと感じずにはいられない。

 

(C)NEXON Games / アビドス商店街

一度お盆からこぼれた水は元に戻ることはない。けれど、こぼれた水は天地を流れ流れてまた私達のもとへやってくる。人はその時、否が応でも過去と対面せざるを得ないのだ。

 

感想

(C)NEXON Games / アビドス商店街

以上、ブルアカのアニメ7話レビューでした。わー不穏。ホシノ先輩はいったい何を背負っているんでしょう、柴関ラーメン再開の意思を聞いた今回のセリカ(とてもとてもかわいらしい)みたいに心から笑える時が来るといいのですが。段々と作品の雰囲気も変わっていきそうです。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけると励みになります>