壊れる敵味方――「ブルーアーカイブ The Animation」5話レビュー&感想

(C)NEXON Games / アビドス商店街

図式崩れる「ブルーアーカイブ The Animation」。5話ではシロコ達の返済している借金の行方が世界を揺るがせる。敵味方は壊れるものである。

 

ブルーアーカイブ The Animation 第5話「友達なんかじゃない!」

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1.敵は敵の顔をしているとは限らない

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カイザーローンに返済した借金が、こともあろうにアビドス高校を襲うカタカタヘルメット団に提供されている。集金記録から判明した事実にセリカ達は驚きを隠せない。ヒフミはこのことをティーパーティに報告すると言うが、ホシノはあまり乗り気でなく……?

 

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世界が壊れる「ブルーアーカイブ The Animation」。前回、カイザーローンへ返済しているお金が犯罪資金に使われているのではないかと集金記録を調べたシロコ達だったが、5話で明かされたその使い方は更に驚くべきものだった。なんとシロコ達のアビドス高校をしつこく襲撃してきたヘルメット団に資金提供していた組織こそカイザーローンであり、彼女達は自分の敵に毎月金を貢いでいたに等しかったのである。更に悪いことに、事態はこの事実を明かせば解決するほど生易しくはないことも今回の話では語られていく。

 

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ホシノ「ヒフミちゃんの気持ちは嬉しいけど、世の中そんなに甘くないからさ。例え知らせたところで、かえって私達がパニクることになりそうなんだよね」

 

ひょんなことからシロコ達と行動を共にしていたトリニティ総合学園の生徒、阿慈谷ヒフミは集金記録を証拠にティーパーティという上部組織に報告しようとするが、アビドス高校最年長のホシノはヒフミの気持ちに感謝しつつもそれをよしとしない。おそらく大手の学園はこうした事実を知った上で放置しているし、仮にそれら学園の生徒会が動いたとしても廃校寸前のアビドスには介入をコントロールする力がない。サポートを名目に悪いことをされたら止めることができない……と。
ホシノの話はあくまで仮定に過ぎず、彼女自身も自説が「万が一の話」であることを否定しない。しかしここで恐れるべきなのは、敵は敵の顔をしているとは限らない世知辛い事実だ。すなわちホシノの懸念はシロコ達が結果的に自分達の敵を助けていた矛盾の延長線上に位置しており、彼女達が今回直面する問題は一貫して敵味方の関係の破綻に他ならない。

 

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ノノミ「きっと、先生のおかげです」

 

敵味方の関係は常に白黒分かれているわけではなく、往々にして流動的。これは逆の場合も同様だ。例えばこの5話ではホシノがかつて学園の苦労を一身に背負い他校と関わるのにも否定的だったが、最近はそういった尖った部分がかなり丸くなっていることが明かされる。原因は「先生」がこのアビドスへやってきたこと……いささか頼りなさもあるが、部外者の彼が真剣に生徒のことを考えてくれていると感じられているおかげだろう。敵は敵の顔をしているとは限らないと嫌と言うほど知っているであろうホシノの殻を、先生は少しずつ壊しつつある。そして、こうした敵味方の問題に直面しているのはアビドス高校の面々だけではない。

 

2.壊れる敵味方

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大将「うちのラーメンを食べにわざわざ来てくれたんだ、いいも悪いもあるもんかい」

 

敵味方の問題の直面しているもう1つのグループ。それは2話ラストから登場した便利屋68、特にその社長の陸八魔アルだ。登場時こそクールな悪役のようだったが、滑稽な失敗を重ね根もむしろ善良なのが知れた今の彼女にすっかり「こっち側」のような認識を抱いていた視聴者は少なくあるまい。シロコ達も常連の店・柴関ラーメンにすっかり魅了された彼女達を店主の大将が「(セリカちゃんの)お友達」と解釈するのは自然な反応だろう。だが、これはアルにとってはなかなかショッキングな見られ方であった。

 

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カヨコ「ここのラーメン好きじゃなかったっけ?」
アル「好きに決まってるでしょ!? 美味しいしお腹いっぱい食べられるし、あったかいし親切! 」
カヨコ「それの何が問題なの?」
アル「問題だらけでしょ! 私達は仕事しに来てるの、私が望むアウトローはこんなほっこり感に浸ってちゃだめなの!」

 

確かにアルは、シロコ達がターゲットと知らず会った時には意気投合した。前回正体を隠した彼女達が集金記録のため銀行を襲ったのを見た時は、自分の目指すアウトローの姿を見たとまで思い感動せずにはいられなかった。だが、両者が「友達」――ある種の味方――であるのが望ましいかと言えばそこにはアルが感じるように疑問が残る。どれだけポンコツで中身が伴わなくとも、彼女がありたい自分は「法律と規律に縛られないハードボイルドなアウトロー」なのだ。餌付けされた子犬のような現状を受け入れてしまえば、便利屋68はもはやアウトローとしての見てくれを保つことすら不能になってしまう。そしてアルのそんな懸念を吹き飛ばしたのはなんと、大将の気前のよいサービスにもっとも感謝していたはずの平社員の伊草ハルカであった。この店の空気にほだされる自分を恐れるアルの発言を聞いた彼女は、なんと柴関ラーメンを文字通り爆破してしまったのである。

 

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ハルカ「つまり、こんなお店は壊しちゃった方がいいってことですね」

 

アルをからかうムツキや呆れているカヨコと異なり、ハルカはアルをほとんど崇めている少女だ。単純に敵味方で見るなら、彼女以上にアルに味方してくれる存在はいないだろう。だがハルカは信奉故にアルの言葉を過剰に増幅し、なおかつそれを実行するのに一切のためらいがない。恩人の店を爆破する、言い訳しようもない悪行でアルを「情け無用のアウトロー」にしてしまったこの少女を、果たして単純にアルの味方と言っていいものだろうか。

 

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アル「これで分かったでしょ? 私達がどんなに悪党か!」

 

店が爆破され、軽傷とはいえ大将も怪我を負わされたことを知ったシロコ達はこれまでにない怒りを見せ、面子の問題からもはや引くに引けないアルもまた自分達は悪党なのだとシロコ達に銃口を向け返す。単純な敵味方以上に深い部分で両者が袂を分かつと思われた、その瞬間――突如降り注いだ砲弾が対決に待ったをかける。町中にいきなり砲撃を加えたのは、キヴォトス最強とも言われるゲヘナ学園風紀委員会、銀鏡イオリと火宮チナツの二人であった。

 

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イオリ「決まってるだろチナツ。公務の執行を妨害する輩は、全員敵だ」

 

砲撃はアル達を狙ったものだったのか、居合わせていたシロコ達予定外の者をどうするかチナツに問われたイオリはこう返す。「公務の執行を妨害する輩は全員敵だ」と。そう、便利屋68もアビドスの対策委員会も敵とみなす彼女達は今回最大の「敵味方の破壊者」である。シロコ達にもアル達にも敵として立ちふさがるイオリとチナツは、見ようによっては両者の決定的な断絶を止めた味方とすら言えるのだ。

敵は敵の、味方は味方の顔をしているとは限らない。そして敵味方の関係はいともたやすく、あるいは気がつけばいつの間にか壊されているものなのである。

 

感想

以上、ブルアカのアニメ5話レビューでした。ここ2話ほどとはちょっと違った30分でしたが、レビューの書き方としてはむしろ1話に立ち返った感があります。世紀末的な世界にちょっと感覚が麻痺しちゃってたところがありますが、やっぱり「既存の概念の危機」を忘れて本作を見るのは危うそう。アル達が色んな意味でどうなってしまうのか、次回の話から目が離せません。