学校に必要なもの――「ブルーアーカイブ The Animation」1話レビュー&感想

(C)NEXON Games / アビドス商店街

大人気ゲーム待望のTVアニメ化となった「ブルーアーカイブ The Animation」。1話は廃校の危機が描かれる。が、必要なのは物資の補充ではない。

 

 

ブルーアーカイブ The Animation 第1話「アビドス高等学校 廃校対策委員会」

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1.廃校の危機とは何か

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砂狼シロコはキヴォトス学園都市の一つ、アビドス高等学校の2年生。私達の世界とは少し異なるこの世界は、学校もまた私達の知るそれとは少し違っていて……?

 

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Yostarの展開するIP「ブルーアーカイブ」。2021年に稼働が始まり好評を博しているゲームを未プレイのままアニメ版に臨んだ私だが、正直に言えば初見時は戸惑うばかりだった。現代的な世界の学園が舞台のようなのだが、主要人物のシロコ達は獣耳やエルフ耳だったりするし彼女達以外は人型の動物やロボットばかり。おまけに都市の一部や周辺は砂漠化が進んでいるようで、どう見ても私達の暮らしているのと同じ世界の話ではない。極めつけは、こうした違いがシロコ達の通うアビドス高等学校……いや「学校」にも及んでいるところだろう。

 

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本作の学校は奇妙である。舞台は学園都市キヴォトスだと聞けばそこに一つの学校があると考えるが、この世界ではアビドスの他にも多数の高校があり、しかも不可侵条約などというものが必要になる程に相互には緊張感が漂っている。学園を取りまとめる連邦生徒会なる組織が存在しその会長の失踪が大画面のニュースを飾っているのも踏まえれば、本作の学校はほとんど国家に等しいものなのだろう。……私は「それは学校なのか?」と疑問を感じずにはいられなかった。

 

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さて、そうした「学校観」から見た時、シロコ達の通うアビドスは世界の潮流からは少し外れている。鉄のリーゼントを持つ番長ロボットとスケバンが銃を撃ち合って(しかもそれは命に関わらないらしい!)いるし、砂漠化は通学路の途中にまで及んでいる。校舎があっても生徒はシロコ達5人しかおらず、連邦生徒会に窮状を訴えているが助けらしい助けはなし……先の時代錯誤なヤンキー描写を重ねるなら、ここは過疎化の進む田舎のようなところなのかもしれない。おまけにアビドスは完済がおよそ非現実的な額の借金を抱えており、シロコ達は廃校対策委員会なる組織を立ち上げこの危機に立ち向かうも成果を挙げられているとは言い難い状況にあった。

 

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「廃校の危機」……ここにあるのは確かに廃校の危機である。いや、もっと言うなら「学校の危機」だ。この1話ではアビドスという一学校に留まらず、私達の知る学校の概念がほとんどゲシュタルト崩壊を起こしている。ならばこの危機は、単純な物資や金銭の補充だけでは解決できない。学校にもっとも必要な補給物資は、金やこの世界で当たり前に使用される銃の弾丸ではない。

 

2.学校に必要なもの

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シロコ「ひなたぼっこ?」
先生「ううん……」
シロコ「行き倒れ?」

 

どうすれば廃校の危機に立ち向かえるのか? 答えの見えない問題に突き当たっていたシロコはこの1話、1人の人物と出会う。砂漠地帯の通学路で行倒れていたその男性は、連邦捜査部シャーレなる組織からやってきた「先生」と名乗った。

 

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先生「私は連邦捜査部シャーレの先生だ。よろしくね」
ノノミ・アヤネ・セリカ「えぇーー!?」

 

学校の概念が大きく異なる本作のこと、この人物の言う「先生」もおそらく私達の知るそれと同じではない。けれど彼の到着はシロコ達にとってとても喜ばしいことだった。自分達が見捨てられていない証であり、また彼は弾薬と物資の補充の手続きも進めてくれていたからだ。しかし、彼の真価はけしてそこに留まらなかった。

 

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ヘルメット団リーダー「アビドス高校の諸君! 今日こそお前らの学校を占拠させてもらうぜ!」

 

補給を受ける予定こそ立ったもの現実にはまだ弾薬不足の状態だったシロコ達は、最近アビドスを荒らしているカタカタヘルメット団なる組織の襲撃を受ける。シロコ達は学校の占拠を目論むヘルメット団を迎え撃つものの、弾薬が残り少ない状況では連携もままならず敗北は必至かと――「廃校」の時が来てしまったかと思われた。だがそうはならなかった。今の彼女達には「先生」がいたからだ。

 

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先生「さあ行くよ、みんな!」

 

先生は問う。なぜこの学校を守りたいのかと。
先生は指揮する。居場所であるこの学校を守りたいと答えたシロコ達が、最大限の戦力を発揮できるように。その先に待っていたのは、これまでの窮状が嘘のような圧倒的勝利であった。

 

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先生のしていることは私達の知る「先生」の振る舞いではない。先生は生徒の戦闘指揮などしない。けれど一方で、定義が違っても彼のしていることは間違いなく「先生」の振る舞いだ。悩める子供を助け導く彼の姿が、私達の知る「先生」と同じでなくてなんであろう。この瞬間アビドスという異郷の「学校」は、私達の知る「学校」と重なり一つになっているのである。故に先生の指揮を受けたシロコ達はヘルメット団を難なく退けることが、「廃校」の危機に立ち向かうことができた。

 

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ホシノ「まさか、あの状況から逆転しちゃうなんてね」
アヤネ「これも先生のおかげです!」
先生「いやあ私は何も、ただ先生として、困っている生徒達を放っておけなかっただけだよ」

 

学校の主役は子供である。子供のために学校がある。けれど学校は子供だけでは成立しない。学校が学校であるには、生徒よりも先に生きた大人が――「先生」が要る。シロコ達の学校にもっとも必要な補給物資とは、すなわち彼女達の前に現れた先生その人であった。

 

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シロコ(これが、先生……)

 

この世界は私達の知る世界と似ているようで大きく異なる世界だ。獣耳やエルフ耳で頭上に光輪のついた少女や人型の動物がおり、殺傷兵器のはずの銃弾をくらってすら彼らは命を落とさない。けれど一方で私達の知る世界と何もかもが違うわけではないこともまた、「先生」の登場が示した通り。
異郷の学校を舞台に私達もよく知る学校を描く物語。「ブルーアーカイブ The Animation」は、きっとそういう作品なのだ。

 

感想

以上、ブルアカアニメの1話レビューでした。こうやってみると「ファンタジー」を見たなという気がします。知らない世界であり、けれどその知らない世界にワクワクするあの感覚。これから何が待っているんでしょうか。いろいろ未知の経験ができそうです。

 

 

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