辻褄結びの五つ星――「ラブライブ!スーパースター!!」8話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
五つ星揃う「ラブライブ!スーパースター!!」。8話では副題にもあるように「結ぶ」という言葉が印象的に使われる。この言葉には、どんな力があるのだろうか?
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第8話「結ばれる想い」

亡き母親の残した結ヶ丘を一人で背負っていた恋。このことは口外しないようにと、恋はかのんたちに口止めする。しかし、学校のみんなはそんな事情を知る由もなく、学園祭を音楽科だけで行うと宣言した恋に猛反発している。かのんは恋に、全校集会でみんなで一緒に学園祭を行うと訂正しよう、と提案するが、恋にはまだ悩みがあるようだった。その理由は――。
 
 

1.今回のお話の"緩さ"について

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立ち向かう問題が明らかになり恋も加入する今回の話は、盛り沢山だが非常に"緩い"お話だ。ラブライブ!シリーズでお馴染みとは言え開校1年目で廃校の危機と言うのは今まで以上に無茶があるし(理事長はそもそも恋を追い詰めないように動け)、対立していたはずの普通科と音楽科は恋の悩みの解決で呆気なく和解に至る。感動した人も冷めた目で見た人も、辻褄が力技で解決されたこと自体はおそらく否定しないだろう。
緩い話の解決は強引であり、そこでは辻褄はきっちり合わない。だが、辻褄の合わない苦しみとは元々、今回の救いの対象である葉月恋自身の苦しみではなかったか?
 
 

2.辻褄合わせの限界

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恋「スクールアイドルだけはやめてほしいのです」
 
前回僕が「秩序と辻褄」でレビューを書けたように、恋にとって辻褄合わせは重要な問題であった。学校を続けるための辻褄、使用人のサヤに報酬を渡すための辻褄、一人邸宅に残されることを寂しがらないための辻褄……涙ぐましい彼女の努力はしかし実を結ばず、音楽科メインの学園祭という公約破りによって彼女自身の辻褄すら危うくしてしまった。しかしそもそも、恋の辻褄が合わないのはもっと前からだったはずだ。そう、スクールアイドル活動にだけは頑なに反対していた最初から、彼女の辻褄は合ってはいなかった。
 

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恋「学校でアイドル活動をしたその記録だけがどこにもない。それで思ったのです。もしかしたら、母は後悔していたのではないか。スクールアイドルでは学校を救えないと感じていたのではないかと」
 
なぜ彼女がスクールアイドル活動だけは認めようとしなかったのか。その理由は今回、ようやく明かされる。恋の母・花は結ヶ丘の前身である神宮音楽学校の生徒であり、廃校の危機の際「学校アイドル部」を結成してそれを阻止しようとしたが叶わなかった。一切記録の残っていないその過去を彼女は後悔していたのではないかと推測し、恋は結ヶ丘ではスクールアイドル活動をしてほしくないと考えるようになったのだった。
 

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可可「あの人の気持ちは分かりますが、だからと言ってスクールアイドルを禁止にするのはやっぱり酷すぎると思いマス!」
すみれ「少なくとも、わたしらには何にも関係ないことだもんね」

 

母の後悔の思い出だからスクールアイドルはしないでほしい。クゥすみが指摘するように、恋の理屈はおかしい。苦い記憶だとしてもかのん達の活動まで制限されるのは辻褄が合わない。しかし、活動してほしくないという恋の気持ちそのものは理解もできる。辻褄は合わずおかしいが、気持ちとしてはおかしくないのだ。
 

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かのん「葉月さんの家で見たあのお母さんの笑顔はものすごくキラキラしてた。わたし、確かめたい!」
 
辻褄は理路整然を理想とするものであり美しいが、同時に窮屈なものだ。蟻の一穴で瓦解し崩れるからわずかな隙も許されず、結果として自由を奪いもする。矛盾の解消に終止すれば物語は身動きが取れなくなり、むしろそれ自体が辻褄を狂わせもする。恋が陥ったのはそういう危機であり、すなわち辻褄合わせの限界だった。なら、彼女を救うにはもっと別の手段を示さねばならない。辻褄を合わせるよりも緩く、しかしある程度同じように機能するもの――そう、それこそは"結ぶ"という行為なのである。
 
 

3.辻褄結びの五つ星

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恋「大切な思い出の写真一枚残っていないなんて、あると思いますか!?」
 
母は学校アイドル部での活動を後悔していたに違いない。恋がそう考えるのは状況からは自然ではある。大切な思い出なら写真一枚残っていないのは奇妙だし、活動は廃校の危機を救う結果を残せなかった。廃校を救うための活動は、その辻褄を合わせられなかったのだ。なら、嘆いて後悔する方が理屈には合う。だが、かのんが見つけ出した母のノートに書かれていたのは正反対の言葉だった。
 

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かのん「『でも、わたし達は何一つ後悔していない』!」
 
恋の母は学校アイドル部での活動を後悔などしていなかった。廃校阻止の目的との辻褄は合わせられなくとも、そのために活動した日々は皆と自分に最高の時間を与えてくれた。別の素晴らしいものと自分を結びつけてくれたと彼女は感じていた。だからその素晴らしい思い出を未来に結びたい……そう願って作り出したのがこの学校だったのだと、かのんは恋の母の思いを自分の言葉で語る。
かのんが恋の母と同一人物であるはずはない。そんな辻褄が合うはずはない。だが恋の母が遺したノートは、見事彼女とかのんを"結んで"見せた。
 

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かのん「葉月さん。ううん、恋ちゃん!一緒にスクールアイドル、始めませんか?」
 
辻褄は合わせるのではなく結ぶもの。このロジックを得た時、人と物語は自由の翼を手に入れることができる。理事長だからと堅苦しい言葉を使わなくてもいい。喧嘩していた相手と手を取り合ってもいい。これまで活動に反対してきた恋がかのん達と一緒にスクールアイドル活動をしてもいい。あなたのための歌が私のための歌になっても、皆のための歌になってもいい。
辻褄合わせでは越えられない壁も、辻褄結びならその向こう側まで行ける。だから学園祭でかのん達が歌う歌は恋がセンターを務め、彼女のための歌が5人を、学校を、時を超えた思いを結ぶ歌になるのだ。
 

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廃校ネタの登場を始めとして「ラブライブ!」らしい今回の話にただただ感動した人も、置いてけぼりになった人もいるだろう。どちらも間違ってはいない。それは辻褄の合わない話かもしれないが、どちらの想いも結ぶ(拒絶反応を受けることも想定している)ところにこの8話は立っているのである。
 
 

感想

というわけでラブライブ!スーパースター!!8話のレビューでした。久しぶりにすんなり書けた……1回目の視聴で仮説、2回目で確信、3回目でおさらい。そして書き始めても詰まらない。やはり僕は「しょうもなさ」に必然性を発見するのがたまらなく好きなんだと思います。前回ウンウン悩んで「辻褄」というワードを引っ張り出した僕の目はやはり間違ってなかった。かげじょ12話の小野寺先生よろしく突っ伏しちゃう。
 
それにしても、緻密さといい加減さの間を綱渡りするような回でした。軽業的という形容がピッタリで、見終わった今もハラハラしています。次回いい加減さの側に転落しても全く驚かないくらい、今回の話はスレスレのことをやっている。相当自覚したハンドルさばきが求められるところにこの作品は立ったと思います。でもまあ、理事長が無理をやめて口調を崩すところを見ていると堕落や転落ではなく軽妙洒脱として綱渡りをやりきってくれるのではないかな……と個人的には信じられる次第です。もちろん、僕から見ての許容ラインの話ですが。
 
また、今回の話は論破(相手の辻褄の破壊)が重視され「あいつらは矛盾している」に終止する断絶の現状に対するカウンターとして描かれているようにも思いました。水に流すことを押し付け見て見ぬ振りが続く現状をウヤムヤにするのがいいとは思いませんが、どうにかして他のやりとりもできないのか。他のやり方を模索する問題提起をこの8話から想起することは、けして無茶ではないのではないかと。
*念のため書いておきますが、「だから批判はやめよう」などという話ではありません。
 
さてさて、かつての廃校の上に立つ新たな学校という舞台が明らかになり、無印やサンシャインと"結ぶ"意識を感じられるこの8話は新たなスタートライン。グループ名が決定すると思われる次回からの話がどうなるのか楽しみです。
 

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今週もすみれのかわいさはギャラクシー。グソクムシの格好してこんなキュートな娘が他にいるか?いや、いない! 彼女のセンターの舞台はもっと大きいと信じてます。
 
 

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