葉月恋から逃げられない――「ラブライブ!スーパースター!!」2期7話レビュー&感想

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
私を広げる「ラブライブ!スーパースター!!」。2期7話ではゲームに熱中し堕落した自分を矯正しようと奮闘する恋の姿が描かれる。だが、そもそもこれは堕落なのだろうか?
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 2期第7話「UR 葉月恋」

夏美を入れて、9人になったLiella!。そして、ついにラブライブ!の開催が発表された。
今回は曲目のテーマが自由であるため、ラブライブ!出場用の新曲を作ろうと意気込む一同。しかし、学校の雑務を一人でこなす恋の疲労はピークに達していた。
結局恋は作曲を引き受けピアノと向き合うのだが、何やら恋の様子がおかしいことに気付くメイ。
そしてメイは、ふと通りかかった音楽室で、恋の秘密を知ってしまう。

公式サイトあらすじより)

 

1.葉月恋から逃げられない

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恋「あのボスだけでも……いやいや、ゲームはいけません
 
この7話は葉月恋を主軸とした回だ。Liella!1期生、結ヶ丘女子高等学校創設者の娘にして生徒会長、ピアノやフィギュアスケートの経験もある生真面目な才媛――そんな彼女は今回悩んでいた。だがそれは1期の時のような母校存続の危機であるとか、ラブライブ!予選のための曲が浮かばないといった悩みではない。彼女の悩みはなんと「ゲーム」……可可の家で遊んで以来すっかりゲームに魅了されてしまい、他のことが手につかなくなってしまっている現状であった。
 

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恋「こうやって毎日充実したゲームライフを送っている内に」
メイ「寝不足ってわけか」
恋「はい……」

 

最近はプロゲーマー、eスポーツプレイヤー等生業にするケースも多くなったが、大抵の人にとってゲームはあくまで遊びだ。大会のための作曲を任されているのに遊びで集中できないなどというのは一般的に言って恥じる話であり、生真面目な恋としては尚更だろう。だがここで注目したいのは、彼女が寝不足で練習や作曲に支障の出ているのを周囲の人間は生徒会長の仕事の忙しさ故と解釈する点である。
 

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千砂都「寝不足なのかもね。昨日も喫茶店来なかったし」
可可「最近生徒会がかなり忙しいって言ってました」

 

寝ぼけて夢の中でもゲームをしている恋を、かのん達Liella!のメンバーはゲームのやり過ぎとは夢にも思わず生徒会が忙しいのだと解釈する。またオーバーワークの懸念を相談された結ヶ丘の理事長の口からは、生徒会が書紀も会計も置かずに恋一人で運営されている状況が明かされる*1。「ゲームに夢中で他のことに支障をきたす恋」と「生徒会長の仕事を頑張りすぎて他のことに支障をきたす恋」は傍目には区別がつかない。というよりも、そもそもこの両者の区別自体が誤りなのだろう。葉月恋とは「何かをやる時は一人で夢中になって他のことに支障をきたす」人間なのだ。
 

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恋「お願いします! ゲームさえ視界に入らなければ今までのわたくしに戻れるのです!」
 
昔のドラマなどでは「真面目に働いてきた亭主が、悪い友達に遊びを教えられて一気に堕落する」という展開がしばしば見られた。こうした話は「だから遊びも若い内に覚えて免疫をつけておいた方がいい」と解釈されがちだが、今回の恋のケースと合わせて考えるとそれは少しボンヤリした理解のように思える。彼女のように生真面目な人間は、自分の役割をいつも人並み以上に懸命にこなそうとする。仕事だろうと、遊びだろうと・・・・・・。社会的な評価が異なるから前者は肯定され後者は堕落とみなされるが、両者に区別のない向き合い方もそういう風にしか向き合えない人間も世の中には存在するのだ。恋はゲームに夢中になった自分は今までの自分でなくなってしまった(堕落した)ように感じているがそれは誤りで、むしろ変わっていないからこそ彼女はゲームに夢中になってしまったのである。
 

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サヤ「恋様はいままで少し頑張り過ぎてきたように思います。羽根を広げて、少し趣味に興じてみてはいかがですか」
 
ゲームが気になっていることを相談された際、恋のメイドであるサヤはゲームが息抜きになることを期待してそれを肯定した。生真面目で、常に頑張る姿勢から彼女が少し離れるきっかけになるのではと考えたのだ。しかし実際のところ、恋は仕事に対するものと同様の姿勢でゲームにのめり込んでしまった。今回の問題はゲームや作曲といった個別のことではなく、彼女が「葉月恋」たる自分から逃れられないところにこそあったと言えるだろう。
 
 

2.二分できない堕落と向上

普段の自分と違うことをしても、自分という存在からは結局逃れられない。このもどかしさ不自由さにどう向き合えばいいのか? 難しい問題だが、同時にこれは普遍的なことでもある。Liella!の他のメンバーにおける事例を見てみよう。
 

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夏美「当然ですの。スクールアイドルを夢と定めた以上、わたしのマニーと! インフルエンサーの! 知識を総動員してLiella!を全力サポートしますの!!」
 
例えば1年生の夏美は夢破れた苦しみから「マニー」に逃避していたが、Liella!に新たな夢を見つけたからと言って彼女がその言葉を口にしなくなったわけではない*2。かのんの家の喫茶店を貸し切ると言えばマニーの問題を気にするし、動機はLiella!の活動サポートに変わっているがマニーとSNSを重視・活用しようという姿勢は変わっていない。
 

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千砂都「わたしも、部長にチャレンジしたよ? 『自分ができないって思いこんでるだけ』……かのんちゃんの言葉だよ」
 
また恋を気遣うかのんは彼女に何かできないか悩む一方、自分なんかには生徒会の仕事は無理だと思っていたが、同じくLiella!のメンバーである千砂都からの指摘にハッとする。千砂都もまた自分には無理だと思っていた部長に挑戦したのであり、そのきっかけはかのんの「自分ができないって思い込んでるだけ」という言葉だったからだ。ならば千砂都によく似た状況に置かれたかのんは自分の言葉から、いや自分の存在から逃れられない。
 

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メイ「もしかしたらすごい怒っちゃうかもな。こんなに心配したのに!って。でもそれでもいいと思う。友達ってそういう部分を互いに知って、たまには喧嘩もして仲良くなるもんだろ?」
 
何か事件が起きた時などは、それを他人事で済ませないよう「自分の身に置き換えて考えてみるべき」だと言われることがある。だがこうした想像はしばしば「自分ならもっと上手くやれる」と妄想をたくましくさせるだけの結果に陥りがちだ。命を落とす危険のある切羽詰まった状態、関係者への愛憎といった諸々を全て頭に入れず、神の視点で合理的・冷静に考えられる自分を当てはめてもその実効性は相当に限定される。自分の身に置き換えて考えるというのはおそらく、そうしたイメージ・トレーニング的なものだけでは十分ではない。過ち、無責任、情けなさ……そういう非難されて然るべき他人の弱さを見て、同じものを己の内に見つけることも自分の身に置き換えて考える行動の一種であろう。劇中でも、恋の悩みを偶然知った1年生のメイは弱さを共有するのも友達だと助言したが、それは親友の四季との自分の過去を参考にしたものだったし、同時に彼女はそこから今の自分と四季の関係を見つめ直したりもした。
 

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メイ「わたしも昔四季と……あ」
 
恋の話をしていたはずなのに、いつの間にかメイは自分の話をしていた。そう、これもまた「普段の自分と違うことをしても、自分という存在からは結局逃れられない」のには変わりなかったのだ。そして彼女のケースからすれば、これがけして呪わしいだけの束縛とは限らないことも言うまでもない。
 

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かのん「恋ちゃんにもそういうことってあるんだね」
千砂都「なんだか嬉しいね」

 

副会長になって仕事を手伝うとかのんに申し出を受け、素直に話すべきだとメイに助言され、恋は意を決して事情を告げる。ゲームに夢中になってしまって寝不足で、作曲が手につかない恥ずべき状況を打ち明ける。学校をまとめる生徒会長として、いや「葉月恋」としてはありないと彼女自身は思っていた事情を、しかしかのん達メンバーは笑って受け入れてくれた。恋にもそういうところがあるのだと、むしろ一層の親しみさえ持ってくれた。彼女達にとってそれは恋を自分達の知る「葉月恋」でなくしてしまうような過失ではなかったのだ。
 
「普段の自分と違うことをしても、自分という存在からは結局逃れられない」ことに苦しんでいた恋だが、その逃れられない自分は実は己が考えているほど厳密に定まったものではなかった。己の知るところ(絶対的と思っているところ)でなく、他者との関係という相対的なところに自分というものはあった。
 

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恋「はー! 1段階目撃破!」
すみれ「なんか、いつもの恋とちょっと違うわね」
千砂都「こういうのもいいと思うよ」

 

「黙ってた罰」としていたずらっぽく笑ったかのんの提案の結果、恋は攻略できずにずっと詰まっていたゲームに協力プレイで挑む。恋にとってこれは、言ってみれば生徒会の仕事やラブライブ!予選の予行演習だ。良くも悪くもたかだかゲームだから一緒に挑戦するハードルは低く、そこに悩みや問題を一人で抱えがちな恋から少し離れるための手がかりがある。彼女自身は変えられない・変えてはいけない己の性質だと思っていた、しかし実際はそう思いこんでいただけのものを壊すための第一歩がある。念願叶って恋はボスを倒し実績を解除するが、それは画面上だけでなく彼女の心の中で解除されたものでもあるのだろう。
 

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恋「不思議なものですね。ちょっとしたことでこうも気持ちが変わるなんて」
 
この7話は最後、ゲーム機のある部屋の鍵を預かろうかというサヤの提案を断った恋が作曲に取り組む姿で幕を閉じる。一度はメイに預かってもらいながらもなお集中できなかった彼女が今はそれを必要としないのは、サヤが願った通り恋が「頑張り過ぎる」自分から一皮むけた証拠だろう。たかがゲームは、結果的には「葉月恋」という人間を大きく変えていた。一般的には肯定的に捉えられる仕事では突破できなかった壁を、ゲームだからこそ恋は乗り越えることができた。
 

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普段の自分と違うことをしても、自分という存在からは結局逃れられない。これは逆に言えば、関係ないはずのものからも自分に繋がる何かを見出せるということだ。
あらゆるところに学びの機会はあるし、それは堕落と向上に二分できるとは限らないのである。
 
 

感想

というわけでスパスタの2期7話レビューでした。1期8話ばりにスッと書けました、珍しい。恋絡みの話だと書きやすいとかあるんでしょうかね。かのんと千砂都、すみれと可可のようにペアで語られない恋ですが、それが活かされた回だったと思います。あとやっぱり青が赤に染まると破壊力が高い。URは「ウルトラリアリティ」と解釈しておくのがいいのか……?
さて、新型コロナによるスケジュール変更で8話は2週間後。ゆっくり待ちますので無理されませんよう。
 
 

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*1:理事長はちゃんと指導してあげてほしい

*2:すみれも「ショウビジネス」という言葉自体は今も使うことがある