合唱から輪唱へ――「ラブライブ!スーパースター!!」2期6話レビュー&感想

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
新たな集団を求める「ラブライブ!スーパースター!!」。2期6話では最後の一人、鬼塚夏美がLiella!に加入する。きな子達の悩みで始まった話は、なぜ夏美の加入とともに解決されるのだろうか?
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 2期第6話「DEKKAIDOW!」

夏休み中、別行動をとると宣言した1年生たち。かのんは、そのことを気にしていた。
そんなかのんをほかの2年生が励ます。1年生が自ら別行動をして頑張りたいというのは、いいことなのだと。
かのんは不安を残しつつも、みんなの言葉を信じることに。
一方、1年生たちは夏美と共に、きな子の実家がある北海道へ合宿に来ていた。
みんなと一緒に過ごす中で夏美は、自分には夢が無い。だからお金を稼ぐくらいしかできないと本音を漏らす──。

公式サイトあらすじより)

 

1.一番うしろにいたのは

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夏美「マニーが……命の次に大切なマニーが……」
 
前回本格登場し、Liella!の動画配信や同級生のきな子達の悩みに付け込むなど騒動を巻き起こした1年生・鬼塚夏美。この6話でもきな子達を散々に引っ張り回す……かと思いきや、今回の彼女はそうではない。集中合宿できな子の実家である北海道へ同行させられたり、四季の機械で無理やり走らされるなど小狡さよりも振り回されている面の方が目立つ。そしてそんな中で見えてきたのは、夏美が「マニー」に執着するのはそれ自体が必要だからではなかったという驚きの事実であった。
 

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子供「夏美ちゃん、またビリだね」
 
幼い子供の多くがそうであるように、かつて夏美は多くの夢を見ていた。スポーツ選手、科学者、モデル……だが彼女が眠りの中で振り返るようにそれはどれも叶わなかった。彼女は足が速いわけでも頭がいいわけでも背が高いわけでもなく、それらいずれにおいても皆に劣後する事実に夏美は打ちのめされた。前回描かれたマニーを「絶対」視するような姿勢は実際のところ、「相対」に敗れ続けた挙げ句のものでしかなかったのだ。
 
 

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夏美「それはとても素晴らしいことですの。頑張れば手が届くかもしれない、そういう夢があるというのは!」
きな子「夏美ちゃん……!」

 

夢を追いかけることはしばしば他者に勝利すること、相対的に上回ることによって達成される。それに負け続けた夏美の目には、2年生の壁に挑むきなこ・メイ・四季達1年生はとてもまぶしく見える。だから彼女は金儲けだけが目的で同行していたはずが、いつの間にかきな子達を応援するようになっていた。アップする動画は再生数目当てのセンセーショナルなものではなくなり、部長の千砂都から課せられた高難度ステップを諦めかけた彼女達を鼓舞したり……ただ、これはきな子達への励ましになっても夏美自身の救済にはなっていない。「頑張れば手が届くかもしれない夢があるのは素晴らしいこと」だと彼女は言うが、それには「自分と違って」という枕詞が言外に隠されている。
 

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夏美「本当に無いからこうしているんですの。マニーを稼ぐくらいしかないんですの」
 
夏美の言葉は結局、才能の差という問題を何も解決していない。前回問題となったのはかのん達ときな子達の差であったが、問題の真の担い手はそもそもそこにすら立てていなかった夏美だったのだ。
 
 

2.合唱から輪唱へ

自分より勝る人に追いつけるよう頑張る。それは素晴らしいことだが、実現できる人間は限られている。ではこの才能や能力の格差の問題はどう向き合えば良いのか? ヒントはきな子が夏美に明かした夢に隠されている。
 

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きな子「メイちゃん達とも話してたんすけど、きな子達、これを超えるのが夢なんす」
 
恣意的な動画編集を誤魔化そうとした際夏美が見せた、昨年のクリスマスのかのん達Liella!のライブ映像を目にしたきな子はこう言った。「これを超えるのが自分達の夢」だと。……自分達1年生が入ったからこれを超えるライブができたと思ってもらうのが夢だと、そう言ったのだ。
 

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きな子「きな子達が入って、1年生が増えたからこのステージを超えることができたって。Liella!はパワーアップした!って」
 
きな子達の夢はユニークだ。なぜならこの夢では、自分達がかのん達に追いつけるかや上回れるか――つまりどちらが上か下か――は関係がないからだ。夢の実現には上下ではなく、横方向の配置こそが必要になる。自分達の加入によってLiella!を広げる・・・こと、個人ではなく全体としてのLiella!が以前より大きくなるかどうかに目標はシフトしているのである。つまりそこでは、努力は必要だが才能の差はさほど問題にならない。個人の才能で全てを決める世界では敗者になる人間も、ここでは何かができる可能性がある。
 

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かのん「どう? 気持ちいいでしょ?」
 
父の仕事の忘れ物を届けに北海道にやってきたかのんはこっそり夏美に会い、彼女に9人目のメンバーにならないかと誘う。非才ゆえに繰り返した挫折から断る夏美にそれが特殊な経験でないことを語り、自分のダンスの真似をして見るように言う。夏美はもちろん同じようにはできないけれど、それでもそこには広がる・・・ものがある。そしてその広がりは客席にも続くもので、そんなライブをするのが夢なのだとかのんは言う。そう、言ってみればこれはきな子の夢をかのんが広げたようなものだ。
 

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千砂都「これだけできるなら、自信つけるためにハードル上げてもいいかもって」
 
走る速さは人によって違うもので、どうしてもそこには差が生まれる。スタートが違えば尚更だろう。けれどそれはただ否定するべきものではなくて、場合によっては時間や距離を始めとした差がむしろ好影響を与える場合もある。千砂都がきな子達1年生も自分達と同じステップができると判断したのは合宿の様子を動画で見たからだったし、夏美がきな子達を励ませたのは自分と彼女達に差を感じていたからだった。こうした「差」がマイナスではなくプラスに働くケースはけして特異ではなく、音楽の中にも見ることができる。
 
 

 
音楽には輪唱という様式がある。同じ旋律を同時にではなく、一定の間隔を空けて別グループが繰り返すものだ。単純な合唱ではタイミングが合わなければただの失敗だが、輪唱なら差はむしろ美しさを広げるきっかけになる。歌唱について何度も挫折したかのんはそれ故に挫折の繰り返しで失望した夏美を励ますことができたが、これは人間関係における輪唱として捉えることができるだろう。今回の騒動の発端は2年生と1年生の才能の格差であったが、その問題と解法はかのんと夏美にこそ象徴されていた。
 

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きな子達と、そしてかのんと重ね見られるその経験故に、夏美にはLiella!に相応しい資格があった。彼女という輪唱に――狭義の「カノン」に必要な最後の1ピースを得て、Liella!は9人へ至ったのである。
 
 

感想

というわけでスパスタ2期6話レビューでした。初見時は「え? きな子達の問題は???」と困惑したのですが、視聴を繰り返す内に輪唱という捉え方を思いつき、そこからようやくきな子達の問題が担い手を夏美に変えて解決されていることに思い至りました。あくまで夏美の主役話というのを念頭に置いておくべきだったか。夏美がマニーに拘泥するのもそこ自体には理由はなかったわけですが、格差の話なので象徴としては相応しかったように思います。
さて、次回は副題からすると恋が主役の話のようですがはてさて。URって賃貸? ウルトラレア
 
 

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