もう一人のかのん――「ラブライブ!スーパースター!!」2期11話レビュー&感想

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
私に替わる「ラブライブ!スーパースター!!」。2期11話冒頭、結果に納得のいかないウィーンは一人吠える。この叫びは劇中、もう一度繰り返されている。
 
 

ラブライブ!スーパースター!!2期 第11話「夢」

見事、東京大会の勝者となったLiella!。しかし、現実を受け止めきれないウィーンは、その場を立ち去ってしまう。
一方、かのんの家で打ち上げをするLiella!の9人。いつしか年も明け、初詣に向かうことに。
すみれの実家の神社で、いい歌が歌えますように!と願掛けする9人。
そんな中、かのんはなぜウィーンが来日したのかを気にしていた。
その時、SNSで近くにウィーンがいることを知ったかのんは──。

公式サイトあらすじより)

 

1.世の中だいたい替えがきく

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かのん「年……明けた」
 
この11話は物語が新たなステージに進む回だ。発表された東京大会の結果で主人公・かのん達のスクールアイドルグループ・Liella!は念願の全国大会進出を決め、また劇中の時間では年が明けたことが語られている。そしてこの新たなステージでの描写に共通して挙げられるのは、世の中は案外に「替えがきく」ということであろう。
 

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可可「ここの方が空いていて良いデス」
すみれ「いちいち言わなくていい」

 

例えば打ち上げの最中に年が明けたことを知ったかのん達は当初は人の集う神社へ初詣へ出かけたが、初詣は別にそこでしかできないわけではない。メンバーの一人であるすみれの実家の神社で済ませても問題はないのだし、なんなら詣でることなくこたつに入っていても別に支障はない。
 

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夏美「既にけっこう有名ですの!」
すみれ「あああやめてーーっ!」

 

またすみれには過去にTV番組で演じたグソクムシの役をほじくり返される、という定番のネタがあったが、これまでと異なり今回それをやるのは同級生の可可ではなく1年生の夏美だ。当然と言えば当然だが、このネタは別に可可の専売特許というわけではない。
 

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本作は従来のシリーズと異なり先輩後輩の関係や能力差にもスポットを当ててきたが、すみれと夏美のやりとりに見えるようにLiella!のメンバー間の関係は当初とは別の形に変わり、いや替わりつつある*1。これまで2年生は1年生にとってほとんど恐れ多い存在であったが、そういう関係もけして不動のものではないのだろう。
 
昨年のラブライブ!優勝グループ・サニーパッションが地区予選で敗れたり、それを圧倒したウィーン・マルガレーテに昨年2位のLiella!が勝った結果などからも分かるように、世の中は案外と入れ替わりが効くものだ。しかしその描写に反して一人、この11話は絶対的な、特別な存在を浮かび上がらせてもいる。東京大会での敗北を受け入れられず、結果を認めないと一人吠えたウィーン……ではない。それは誰あろう本作の主人公、澁谷かのんである。
 
 

2.かのんがかのんであるが故に

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かのん「さ、練習始めよう!」
 
言うまでもないが、澁谷かのんは本作の主人公だ。物語を背負って立つ主人公が絶対的でないわけはなく、私達視聴者はそのことをはっきり認識している。しかし一方で彼女は自分が特別だと驕り高ぶってはいないし、実際物語は彼女に何度も挫折を与えてきた。歌が大好きなのにいざという場面で歌えなくなってしまったり、これ以上ないくらいの上り調子で挑んでも全国大会には進めなかったり、優勝候補として呼ばれたはずのフェスでも新人に圧倒され優勝を持っていかれたり……だが今回物語は、かのんが特別な存在であることをはっきり示している。
 

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かのん「ウィーン国立音楽学校……?」
 
全国大会に向けて練習を開始しようとしていたかのんは、理事長に呼ばれ驚くべき話を聞かされる。音楽指導にかけては世界一とされるウィーン国立音楽学校からなんと、彼女を留学生として招きたいと打診があったというのだ。この音楽学校はかつてかのんを圧倒したウィーンですら試験に受からなかった難関であり、そんな名門から来てほしいと言われるなど稀有な事なのは言うまでもない。かのんの才能は、それほどまでに群を抜いたものなのだ。
 

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かのん「駄目だよそんなんじゃあ! 気合い入れて皆で練習していれば、すぐに温かくなるから!」
 
また先に触れたようにLiella!内の1年と2年の関係は初期と異なりだいぶ気安いものになり始めているが、そんな中でもかのんだけは別格の存在感を保っている。全国大会進出を学校に報告する際、1年生のきな子は同じ言葉でもかのんとすみれ、夏美では説得力が違うことを指摘しているし、皆が真冬の屋上での練習に耐えかねている時もかのんだけは元気いっぱいだ*2。極めつけ、かのんが留学する可能性を聞きつけた他のメンバーは彼女なしではやっていけないと不安いっぱいになってしまう。
 

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夏美「かのん先輩がいなくなったら、残りの先輩、今一つ信頼感薄いんですの」
 
かのんは完璧とは程遠い一方で人を引っ張る力も確かに持っており、メンバーや仲間、そして多くのファンを惹きつけてきた。留学しないとかのんが言明した際に夏美が彼女と他の先輩の信頼感の差を指摘するように、彼女がLiella!の柱であることは言うまでもない。しかしこの指摘は、見方を変えればメンバーがかのんに依存し始めていることも意味する。大体のことは替えがきくというのがこの11話の描写であるが、一方でかのんだけはかけがえのなさ過ぎる・・・・・・・・・・存在に祀り上げられているのである。それはある意味、周囲に誰もいないことよりも辛い孤独だ。
 

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
前回のラブライブ!東京大会で、かのんはウィーンの孤独な歌を否定した。それは本当の歌ではない、と言い切った。だが、他のメンバーが肩車してようやく望遠鏡が届くような高みに孤独に祀り上げられる今の彼女の状態はむしろウィーンにこそ似ている。かけがえのなさを突き詰められたかのんはいつの間にか、自分が否定したはずのウィーンの替わりになってしまっていたのである*3
 
 

3.もう一人のウィーン

かけがえない存在であるがゆえに、むしろ自分ではなくウィーンのようになってしまったかのん。この11話は同時に、そんな彼女を一人の少女が救おうとする話でもある。他でもない、スクールアイドル部部長にしてかのんの幼なじみ、嵐千砂都だ。
 

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!! 「ラブライブ!スーパースター!!」2期4話より
かのん「ちいちゃんは自分ができないって思い込んでるだけ。だから大丈夫!」
 
幼い頃は泣き虫だった千砂都にとって、かのんは自分を導いてくれる光のような存在だった。そんな相手に恩返しをしたい、助けたい一念が彼女には強くあり、故に音楽科から普通科に転科してまでスクールアイドル活動を始めたわけだが――この2期では、二人の関係の変化も描かれてきた。端的に言えば、千砂都がかのんに替わる場面が増えたのである。
 

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!! 「ラブライブ!スーパースター!!」2期5話より
千砂都「分かった、部長として許可します」
 
例えばスクールアイドル部の部長を決めようという話になった際、皆が最初に思い浮かべたのはLiella!を引っ張ってきたかのんであったが、紆余曲折の末それに立候補したのは千砂都であった。彼女はかのんに替わって部を引っ張ることに挑戦したのであり、事実かのんと少し違う所に目配りのできる千砂都は立派にその務めを果たしている。
 

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!! 「ラブライブ!スーパースター!!」2期7話より
千砂都「わたしも部長にチャレンジしたよ? 『自分ができないって思いこんでるだけ』……かのんちゃんの言葉だよ」
 
またかのんは7話でメンバーの一人にして生徒会長である恋の多忙さを心配した際、生徒会に入って手伝おうかと考えつつも足踏みしてしまっていたが、そんな彼女の背中を押したのも千砂都であった。特に注目したいのが千砂都はかつてかのんにかけられた言葉を使って逆にかのんを励ましている点で、この時もやはり千砂都はかのんに替わっている。もう一人の澁谷かのんとでも呼ぶべき存在になっている。
 
千砂都にとってかのんがかけがえのない、世界にたった一人の存在なのは言うまでもない。一方で彼女の友情や恩返しは、自分がその相手に替わることでこそ成立している。ならばかのんがウィーンに替わってしまった今千砂都がするべきは、自分がウィーンに替わることだ。もう一人のウィーンになることだ。
 

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ウィーン「かのんが駄目なら、自分の力だけで夢を叶えてみせる!」
 
ウィーンをウィーンたらしめているものは何か? それは強烈なエゴだ。自分こそが一番、自分こそが正しい。そう言い張る自我だ。冒頭のラブライブ!東京大会の結果発表で自分の敗北に異議を申し立てる姿は衝動的ではあるが、彼女の闘志の表れでもある。勝敗への認識は誤っているかもしれないが、自分以外の全てを敵に回すようなことを口にできる勇気のある人間など果たしてどれだけいるだろうか。他のメンバーが、そして誰よりかのん自身が留学に否定的な状況で異議を申し立てる千砂都に必要な勇気とは、すなわちそれと同じものであろう。
 

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ウィーン「わたしは、この結果を認めない!」
 
冒頭、ウィーンは一人叫んだ。誰もがLiella!を祝福する世界にたった一人反逆し、そこに彼女という人間はいた。
 

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千砂都「反対されるのは分かってる。でも、正直な気持ちだからはっきり言うね。わたし、かのんちゃんに留学してほしい」
 
ラストシーン、千砂都もまた、一人かのんに正直な気持ちをぶつける。波風を立てると、一緒にいられなくなる結果を招くと分かっていても、そこに否定しようのない彼女の本心がある。
これは冒頭のウィーンの異議のリフレインであり、ある意味で千砂都は、ウィーンのように振る舞うことで真に自分らしく行動できたとも言える。だからこそ、きっとその言葉はかのんに届く。彼女に普段のかのんらしからぬ、しかしウィーンの替わりに陥った今より遥かにかのんらしい選択をさせる呼び水になることだろう。
 

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かのん「ちぃちゃん……」
 
人は自分だけでは素直になれない。誰かの「もう一人の自分」になる時、あるいは誰かが「もう一人の自分」になってくれた時にこそ本当の"らしさ"は現れてくるのだ。
 
 

感想

というわけでスパスタ2期11話レビューでした。書いてあるように、アバンのウィーンの叫びがラストを重ねて見られるのではないか?という思いつきから話を広げてみました。1期1話のレビューでは「我を忘れた時こそ究極の自分は現れる」と書きましたが、そことも繋げて考えられる話かなと。
 
 
さて、怒涛の勢いで進んできた2期も次回で最終回。ラストステージを見届けたいと思います。
 

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!! 「ラブライブ!スーパースター!!」2期5話より

©2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
そういえば部室に貼ってある他校のスクールアイドル、左側ポスターの左下の子が「お気楽そうに振る舞ってるけど内心はむしろ重いタイプ」と勝手に想像して気になってたんですが、結果発表の場面で映って泣いてますね。見た感じセンター的ポジションだったっぽい。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいですのー>

*1:こういう場面で体を張れるすみれにスタッフは特別手当を検討してほしい

*2:こたつと共に宙を舞うみかんはちゃんと回収したのか、『ラブライブ!サンシャイン!!』との関連的には確認しておきたい

*3:これは彼女が自分の受験失敗をウィーンに重ねる描写とも呼応する