忘我の歌――「ラブライブ!スーパースター!! 」1話レビュー&感想

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©2021 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!
新たな星が輝く「ラブライブ!スーパースター!!」1話、主人公の澁谷かのんは歌が大好きで同時に歌にトラウマを持っている。彼女にとって「歌う」とはどんな行為なのだろう?
 
 

ラブライブ!スーパースター!! 第1話「まだ名もないキモチ」

東京の表参道・原宿・青山、3つの街の狭間に設立された新設校、「結ヶ丘女子高等学校」の音楽科を受験した、澁谷かのん。だが歌唱の実技試験で失敗。同学校の普通科に入学した。そんなかのんの目の前に突然、上海から来た少女、唐可可が現れる。かのんと同じく結ヶ丘の普通科に入学した彼女は、かのんと一緒にスクールアイドルを始めたいという。断るかのんだが、可可の情熱を前に部員集めを手伝うことになった。
 
 

1.澁谷かのんという少女

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澁谷かのんは優しい娘だ。志望した学科に受からず気落ちしていても友人の前では元気を装い、知り合って間もない相手でも理不尽な注意を受けていると思えばかばってあげる。自分が入るわけでもないのに留学生・唐可可(タンクゥクゥ)のスクールアイドルメンバー探しを手伝うなどなかなかできるものではない。
 

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ありあ「まだ受験の失敗引きずってるの?」
かのんの母「繊細だから」

 

ただこの優しさは同時に、かのんを窮屈に押し込めてしまう危険性も孕んでいる。本心では志望した学科に入れなかったのは辛いに決まっているし、それでも皆から自分の歌を求められるのはもっと辛い。これまで彼女は肝心な時に限って歌えず、周囲をがっかりさせそんな自分にもがっかりしてきた。かのんは他人を思いやって自分を偽れる優しい娘だが、歌については偽れない。歌についてだけは、他人の期待に応えてあげられない。だから辛い。
かのんの母は彼女は繊細だと言うが、それはちょっとした言葉で傷つくという意味の繊細さとは少し違う。他人を献身的に思いやれる故に自分を封じてしまい、同時にそれを満足にできない自分にも傷ついてしまう――かのんの繊細さは、そういう類のものだ。
 

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かのん「よし!……これで何も聞こえない」
 
だからかのんが一番自分らしく振る舞える時とはすなわち、他人のことを考えずに済む時になる。そう、ヘッドホンを付けて耳をふさいだ時、かのんは自分のこと以外は考えなくて済む。耳をふさぐというと否定的に捉えられがちだが、自分の内面に意識を向けるためのノイズ・キャンセリングとしては非常に有効な手法なのである。
 
 

2.澁谷かのんにとって「歌う」とは何なのか

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前段ではかのんが他人を思いやれるがゆえの繊細さについて触れたが、1話の序盤では思いやる余裕もなく逃げてしまった相手がいる。誰あろう、思わず口ずさんでしまった自分の歌声に感動した可可だ。
 

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かのん「何言ってるか分かんないよぉ!」
 
興奮した可可の言葉は母国語に戻っていて、何を喋っているのか分からない。これは実はかのんにとって相当にプレッシャーのかかる状況だ。他人を思いやって自分を偽れる彼女は、他人が「何を考えているか分からない」のでは行動の指針が見つけられない。だから彼女は二度に渡って「怖い怖い!」と逃げてしまう。
 
 

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我を忘れた状態というのは身勝手なものだ。他人に通じる言葉も喋れないし相手の事情もお構いなし、そこには自分しかいない。そう、矛盾するようだが我を忘れた時こそ究極の自分は現れる・・・・・・・・・・・・・・・・・。そしてそれは可可だけが経験した状態ではない。
ヘッドホンで外界を、他人を遮断したかのんは「我を忘れて」思わず歌を歌っていた。可可を感動させた歌を、歌っていた。ラストにしても彼女は、歌い終わってから歌えた自分に気付いていた。そして我を忘れた彼女の歌声は、今度はもっと多くの人を惹き付けていた。自分だけのための歌こそが、皆を笑顔にしていた。
 

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かのん「もしかしてわたし、歌えた!?」
 
歌で皆を笑顔にするのが夢だと中学時代のかのんは言った。だがそれを意識したであろう受験の時も、その前の小学生時代の合唱でも、彼女は歌うことができなかった。皆のための歌にはかのんは自分を込められず、そこには皆と繋がる歌もまた存在しなかった。歌だけは偽れない彼女はきっと、我を忘れぬことには歌に自分を込められなかったのだ。
かのんにとって歌を歌うことは「自分を表す」ことである。そして自分を表した先にこそ、他者と本当に繋がる道がある。「スーパースター」は、そこにこそ輝くことだろう。
 
 

感想

というわけでラブライブ!スーパースター!! の1話レビューでした。かのんがどういう娘なのか自分なりに理解するのに2日かかった、ということになります。すみません。一番手強い1話群は越しましたが、こう苦戦が続くと体制を見直さないとまずいのでは……
 
掴みはもう完璧と言ってよく、お話は素直に好きです。レビューではかのんにスポット当ててますが、可可や千沙都達にしても動作がいちいちかわいい。今は険しい顔を見せるすみれや恋も今後どんな表情を見せてくれるのか、楽しみです。
 
 

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