怖さという可能性――「かげきしょうじょ!!」2話レビュー&感想

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
舞台を目指す日々が始まる「かげきしょうじょ!!」2話。紗和は寝坊したさらさに、今日は自衛隊より怖い人達が待っていると言う。これは先輩にあたる本科生のことを指しているわけだが、一番怖いのは果たして本科生だろうか?
 
 

かげきしょうじょ!! 第2話「銀橋を目指す者」

1.本科生と予科生の指導関係が持つ怖さ

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
リサ「鏡は曇りひとつ残しちゃ駄目よ」
さらさ「ここを一人で2時間で!?」

 

予科生にとって本科生は怖い存在だ。1人の予科生に1人の本科生がつき、生活指導なども含めた指導をマン・ツー・マンで行う。「ホウキを落としたら殺し屋の目で睨まれた」「組んだ相手次第で予科生活が地獄になる」などと語られるほど関係は厳しいし、咎められることがあれば予科生全員の連帯責任となる。1日限りの自衛隊の指導よりずっと怖いというのは間違いではない。しかしこの指導関係でもっとも怖いのは、厳しさよりもそこに「競争」も入っていることにある。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
安道「お前らは卒業後紅華歌劇団に就職する。つまりお前らはこれからずーっと一緒」
 
普通の学校と違い、紅華歌劇団音楽学校の生徒の卒業後の進路は二つしかない。歌劇団に就職するかしないか、それだけだ。就職しない、ドロップアウトするつもりで入学する者など普通はいないから、同級生は――いや、生徒は全員が競争相手となる。同級生の娘役の夢を笑顔で否定した本科生・野島聖の「役を争う戦争はもう始まっている」という言葉は言い得て妙で、指導関係にある本科生と予科生は学年を越えたもっとも身近な競争相手なのだ。ミーハーな気分で彼女の指導担当を希望した本科生達はある意味既に愛に屈しているし、推しでもないのに担当を勝ち取って「品定め」をする聖は見事に愛と競っている。
 
さて、元アイドルグループの一員という華々しい経歴を持つ愛には指導担当の希望者が殺到した。では対照的に、渡辺さらさの担当を誰も希望しなかったのはどういう意味を持つのだろう?
 
 

2.怖さという可能性

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
紗和・薫「「絶対やらかしてる!」」
 
さらさに対する認識は、本科生からも同じ予科生からも共通している。「問題児」だ。
連帯責任を負う予科生はさらさが何かやらかしたのではと本科生以上に彼女を恐れ、大劇場の見学勝手に舞台に入ってしまった彼女に講師の安道すらヒヤヒヤする。さらさはその外見も内面も人並み外れていて、何をしでかすか分からない怖さを感じさせずにおかない。
そう、さらさには自衛隊はおろか本科生の指導以上の"怖さ"がある。愛とは逆に、彼女の指導担当を希望しなかったことで本科生達はその怖さに屈していると言っていい。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
聖「だってならっち、やる気ゼロなんだもん」
 
怖さとはすなわち、可能性だ。
人は自分が予想し制御できるものに怖さを感じない。聖が愛を品定めして微笑んでいられるのは、彼女のやる気の無さに娘役トップを奪われる可能性を、怖さを感じなかったからだ。以前も彼女は、歌もダンスも人並み外れた同級生のリサの性質を言い当てることで彼女を制御し競争相手から蹴落とした。本科生と予科生の指導(競争)関係の緊張もまた、その本質は互いが互いに感じる可能性の怖さにある。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
さらさは本科生の予科生への恐怖の指導によって制御されたりしない。どころかむしろ、自分を指導するリサの既に諦めていた夢に火を付けさえする。自分だけでなく周囲からすら何を引き出すか分からない底なしの可能性、それこそはこの2話で見えるもっとも怖いものだ。
 
さらさは衣装や大道具の人達のやる気を引き出し、うっかり入ってしまった舞台でむしろ自分の圧倒的な舞台映えを見せつけ、彼女が苦手な愛の心さえ揺さぶらずにおかない。形は様々だが、さらさと向き合うことで人々は自分の可能性と向き合っていくのである。
 
 

感想

というわけで、かげじょアニメの2話レビューでした。怖さは可能性である、というワードは割と早く浮かんだのですが、さらさのそれは他者の可能性も引き出すものである……というのにたどり着くのにちょっと手間取りました。これが対抗意識なども含めて人を惹きつける魅力になっていくわけですね。
やる気ゼロのはずの愛が思わず魅了されてしまう様子に、彼女の今後もとても楽しみになる回でした。来週が待ち遠しいです。
 
 

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