二つ星輝く「かげきしょうじょ!!」、9話は沢田千夏と千秋の関係が主軸となる。言うまでもなく二人は双子であるわけだが、果たして今回登場する双子は彼女達だけだろうか?
かげきしょうじょ!! #09「ふたりのジュリエット」
1.専科と予科
明羽「ポンポン作り、懐かしい……私は中卒で紅華に入学したのだけれど、あなた達と同じく予科生の時に運動会だったの」
これまで予科生・本科生・劇団員の3つのグループを見せてきた本作だが、今回は専科という別グループが登場する。春組等の特定の組に所属しない芸に長けたプロフェッショナル集団、トップや組長も頭の上がらない雲の上の人々……タブーとして念押しされるが予科生とは年齢の開きがあり、トップ以上に今のさらさ達からは離れた存在だ。
明羽はさらさ達に、他の期生以上に過去の自分を重ねてみている。実際、大運動会が開かれるのは10年に一度だからその経験の重なりは希少なものだ。明羽がさらさ達100期生に向ける眼差しは、言ってみれば「時を超えた双子」を見るようなものだと言える。
2.双子だから双子からもっとも遠い千夏と千秋
紗和「まあね」薫「紗和!めっちゃ血ぃ出てるから!」
明羽の眼差しに象徴されるように、時の制約を取り払えば双子のような事例は本作のあちこちに見ることができる。例えば各組のトップ揃い踏みの状況を前にムスカの如く「目が、目がー!」となったさらさと比べ落ち着いているようだった紗和は興奮の余り時間差で鼻血を出していたし、冬組トップの里美星は安道の教え子という共通点で自分とさらさへの彼の態度を比べてみたりする。
世代や場所によって人の経験は大きく異なるが、本質的な部分はむしろ双子のように似通っているものだ。そして、同じ時間を生きているものほどその類似には目が行きにくい。時を超えずとも双子である千夏と千秋がそこからもっとも遠かったのは、逆説的な必然だったのである。
3.千夏の苦しみは千秋が味わった苦しみ
千夏(わたしは千夏であって、千秋じゃない)
時を同じくする双子であるが故に、時を超えた双子からもっとも遠かった千夏と千秋。故にこの9話は二人の喧嘩と和解、双子の破壊と再生で構成されている。モノローグが千夏の視点に限定されているのも、それが一方的で不安定な心情によって既存の双子関係を破壊するものだからだ。
千夏「初めは小さな嫉妬だったのに、双子でなんでも一緒だと思われていてもいつも微妙に姉のわたしが損してるとか、色々考えていたら黒いものがどんどん膨らんでいって……」
本人が言うように、今回千夏が揺り動かされるのは嫉妬心である。どうして千秋だけがジュリエットを演じられたのか、どうしてそれが憧れのミレイと千秋を繋ぐものになってしまうのか。そもそも最初の紅華受験の時に自分が受かったのに千秋だけが落ちて、自分が一年入学を見送ったのはなんだったのか……
「自分ばかりが苦しんでいる」。そんな思いが千夏の心を黒く塗りつぶしていく。二人が双子とミレイが知らなかったこともあり、話しかけてきた彼女に千夏は失礼な態度を取ってしまった。
千夏(本当は分かっていた。わたしが入学を一年見送ったのを、千秋がずっと気にしていたことを)
しかし千夏の黒い思いは、実は千秋の方が先に味わっていたものだ。自分が落ちて千夏だけが受かった事実、しかも、一緒でなければと彼女が自分の合格を見送った過去。千秋が嫉妬心や罪悪感に思い悩まないわけがなく、千夏はそれに見ないふりをしてきた。それが回り回って、千夏は自らも同じ思いをすることになった。千夏は時を超えて、千秋と同じ苦しみを味わったのだ。
4.時を超えた双子
歴史を重ねても繰り返される過ちのように、千夏が味わった千秋と同じ苦しみ。しかしそれこそは「時を超えた双子」の形だし、そして繰り返されるのは苦しみだけとは限らない。
ミレイ「この辛い経験も、きっと糧になるわ」
千夏はミレイに失礼な態度を取ったことを謝罪し、ミレイはそれを受け入れ彼女を励ます。謝罪から始まる違いはあるが、ここでも千夏は千秋と同じ経験をしている。憧れの女優と二人で会話し、激励を受けた点では彼女達に差はないからだ。千秋がミレイから受けた向上心と千夏が抱いてしまった嫉妬心はここで新たに交差し、故に彼女達は「時を同じくする双子」を破壊し「時を超えた双子」として再生することができた。
ミレイは言う。嫉妬心は誰にでもあるものだが、それは味方に付けられれば向上心にも変えられるのだと。両者が相互に変化する、いや交差するものであることは、運動会に対する各組トップの意地の張り合いなどからも明らかであろう。
千夏と千秋はもう、時を同じくする双子ではいられない。向上心に満ちあふれる時もあれば、嫉妬心に駆られる時もあるだろう。けれどどちらもあるからこそ、それらは交差することができる。対極的な嫉妬心と向上心こそは時を超えた双子であり、それが交差するところに未来への希望があるのだ。
感想
というわけでアニメ版かげじょの9話レビューでした。毎度胃が痛い、まあ1話で解決してくれるからダメージ少ないんですが。公式サイトのキャラ紹介で千夏が一度入学を見送ったのは知っていましたが、てっきり千秋の罪悪感の方が主軸になるとばかり思ってました。これを実の双子の松田利冴と松田颯水が演じているというのがまた。
「嫉妬心と向上心が双子」という仮説は割と早々に浮かんだのですがそれだけだと説明できない描写が多く、「時を超えた双子」というクッションを見つけて形にすることができました。レビューでは書き損ねましたが、運動会に楽しい思い出がない愛が紅華の運動会を楽しむことはさらさと時を超えた双子になることだし、さらさが予科生の身ながら劇団員と一緒に走ることなんかも同じように捉えられるかなと思います。あと1話で示された「終わらない競争」からすれば、二人で合格することがゴールにはならない(終わらない)けれど、その先の交差が救いになるんだよという話でもあるかな。
次回は全13話の10話ということで後半から終盤に移り始める頃合いですが、どんな話になるのでしょう。楽しみです。
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時を超えた双子――「かげきしょうじょ!!」9話レビュー&感想https://t.co/IggI4lJ2HH
— 闇鍋はにわ (@livewire891) August 29, 2021
千夏と千秋が体現する、もう一つの概念的な双子についての話。#かげきしょうじょ#kageki_anime#kagekishoujo #アニメとおどろう