見極めの先達――「ゲッターロボ アーク」9話レビュー&感想

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
虎穴へ飛び込む「ゲッターロボ アーク」。9話ではマシーンランドが襲撃され拓馬達も危機に陥る。彼らが迎える危機は、単純な命の危険ではない。
 
 

ゲッターロボ アーク 第9話「突入!!」

アンドロメダ流国の襲撃を受けるマシーンランド。コーメイのナノマシン体が潜入し、拓馬、カムイ、獏の前に立ち塞がる。神隼人は〝ジュラ・デッド作戦〟の即時敢行を決意する。拓馬と獏が掩護するなか、決死の思いでアークに急ぐカムイ。蟲軍の猛攻に満身創痍のゲッター同盟軍。ハン博士が開発した転位装置ゾルドが破壊されれば亜空間の先にアークを送る方法は無くなる。ゾルドに迫る蟲軍。その前に〝黒い真ゲッター〟が現れる。
 

1."道"を見失う危機

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
コーメイ「我々が侵略者だと?フッフッフ、全くふざけた話だ。侵略者はゲッターロボ、そして地球に生まれた貴様達だ。貴様達こそが真の侵略者だ!」
 
虫のようなメカの集合による立体再現で拓馬達の前に立ちふさがるコーメイだが、実のところ彼が拓馬達を直接攻撃する場面は描かれていない。代わりに交わされるのは問答や挑発であり、拓馬達を危険にさらすのもそれだ。地球に攻め込んでいるのはアンドロメダ流国にも関わらず地球側こそが侵略者だとする謎の主張、時折コーメイと入れ替わる拓馬の母の仇マクドナルド……これらは命をこそ奪わないが、拓馬達の行動の正当性への攻撃となっている。
 
なぜ自分達こそが侵略者などと呼ばれるのか、拓馬達には皆目分からない。しかしコーメイの話が事実ならアンドロメダ流国側が単純な悪とは呼べなくなるし、また母を殺された怒りに任せて拓馬が暴れれば作戦は破綻してしまう。戦闘の要訣がどちらかの全滅ではなく地球からアンドロメダ流国への転移の成功/阻止にある点を含め、この戦いは規模の大きさと裏腹に内面にこそ争いの中核が秘められている。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
拓馬「何の恨みか知らんが、俺達には関係ねえ!」
 
拓馬はコーメイを一蹴こそするものの、それは自分達を信じられる題目とまでは言えない。戦況が不透明なように、攻撃を受けた彼らの"道"は極めて不透明だ。
 
 

2.見極めの先達

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
ロン「駄目だ、重力崩壊して全てのものを飲み込もうとしている!」
ハン「諦めるでない。何とか別ルートで組み換えエントロ波を制御するのじゃ!」

 

"道"が不透明であれば前へ進むことはできない。跳ぶこともまた、できない。転移装置ゾルドのセンターコアリングの破壊と暴走は拓馬達が道を見失ったのと連動した現象であり、故にハン博士をもってしても技術だけでは解決できない。必要なのは導く先達の存在――すなわち號の登場であった。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
前回、翔との会話で號は自分がなぜここにいるのか分からないと言った。各所を飛び回ってはストーカから現れる敵を倒し続ける戦いぶりはすさまじいものであると同時に、"道"が見えない迷走をも意味していた。現れてからずっと、號は拓馬に先んじて五里霧中の世界に飛び込んでいたのだ。しかしゾルドのセンターコアリング暴走にあたって、號はついに自分の道を見つける。見極めることに成功する。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
號「俺はたぶん、お前達を送り出すそのためにこの世界に現れたんだ!」
 
後継者たる拓馬達を送り出すことこそ、再びこの世界に現れた自分の"道"。その道は拓馬達を転移させるための装置ゾルドの機能回復と軌を一にしており、故に彼だけがゾルドの暴走を止めることができる。そして拓馬達を送り出すのならば、彼らに精神的な道を指し示すこともまた號のなすべきことだ。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
號「答えを出すんだ!奴らの宇宙に渡り、見極めてこい!」
 
だから號は、拓馬に自分と同じく道を見極めるよう助言する。なぜ地球側こそが侵略者と呼ばれるのか?もしそれが事実なら、自分達はどうすればいいのか?分からないのなら、それを見極めることをこそ"道"とすればいい。號の言葉は拓馬の背中を押し、拓馬は勇躍してゾルドへと、新たな道へと飛び込んでいく。
センターコアリングの機能回復と、拠り所の怪しくなった拓馬への指針の提示。これによって再び世界に現れた號の"道"は完成し、だからこそ彼は生と共に役割も終えることができたのだ。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
號という先達の力で、"道"を見失うというある意味で生命以上の危機を拓馬達は克服した。しかしその先に広がるのは広大無辺の砂漠であり、地球なのかどうかも分からない摩訶不思議な状況だ。道なき中に道を見つけ出す新たな使命を、拓馬達はどうやって果たすのだろうか。
 
 

感想

というわけでゲッターロボアークの9話レビューでした。拓馬達を送り出すのが號の役割、というだけだと今ひとつピンとこなかったのですが、拓馬達が見た目より戸惑っているんじゃないかという仮説を立てたら割とすんなり書けた次第です。同時に號のこれまでの苦しみと今回の解放も味わい深くなり、見返していて彼の最後に涙ぐんでしまいました。名称の明らかになった真ゲッターロボラクともども、お疲れ様でしたと平伏……*1
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
さて、転移した先に待つのはなぜかまさかまさかの(まあパラパラとネタバレは目にしちゃってるんだけど)巴武蔵! 見極めるのが道であれば、この先もますますハードな展開が待っていそうで楽しみです。
 
 

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*1:スパロボだと「拓馬達を生き残らせるのが俺の新たな役割」みたいな感じで生存するんじゃないか?と思ってしまう。それができるのはすごいことなんだけど、元作品より甘口に仕上げる手法はあまり舌に合わない人間になってしまった。