揺れる枠組み――「ゲッターロボ アーク」10話レビュー&感想

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
転移の先も地獄の広がる「ゲッターロボ アーク」。10話で拓馬は意外な人物と出会う。恐竜帝国に特攻したはずの初代ゲッターチームの一人、巴武蔵……その存在は生死の枠組みを揺さぶる。そして、揺さぶられるのはそれだけではない。
 
 

ゲッターロボ アーク 第10話「異星の聖戦」

砂漠が広がっていた。時空転位は成功したのか? アークの前にヘリ部隊を引き連れた巴武蔵が現れ、状況を確かめる間もなく蟲軍が出現。拓馬たちは〝異星の聖戦〟の真っ只中に送られたことを理解する。冷血極まりない武蔵の行動に戸惑いを隠せない拓馬たち。武蔵の母船に招かれた拓馬たちはゲッターの進化がもたらした恐るべき宇宙の歴史を知らされる。アンドロメダ流国の潜伏部隊をあぶり出すために無差別砲撃を開始する武蔵。迷いを振り切り、拓馬たちはアークを駆る。
公式サイトあらすじより)
 

1.武蔵の一言が示すもの

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
獏「戦いの決め手はデカさじゃない、パワーだ!」
 
この10話ではゲッターについて衝撃の事実が明かされセリフ量も多いが、同時にアクションの激しさで視覚的な満足度も高い。拓馬達アークチームは3形態の変形合体を2巡する使い分けを見せ、遭遇したインセクターを撃破していく。3人のチームワークは既に円熟の域に入っており、互いが互いにできること、できないことを枠組みできていると言える。武蔵が惚れ惚れするのも当然の反応であろう。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
武蔵「やるじゃねえか。応援したくなるねえ、特に3号機は」
 
彼らを称賛しながら、武蔵は3号機のゲッターカーンを贔屓したくなる心情を口にする。彼は自分がゲッター3を担当した過去と重ねて見ているのであり、そこには自分と他者の「枠組み」の微妙な揺らぎがある。この程度はかわいいものだが、揺らぎは今回、拓馬達にナイフのように突きつけられることになる。
 
 

2.揺れる枠組み

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
武蔵「お前達の何世代か後に、人類は宇宙に飛び出した。彼らは星々を植民地化し宇宙に広がった」
 
遠く離れたアンドロメダ流国の本拠地に転移し敵を叩く――拓馬達が考えていたのはそういう作戦だったが、戦いの実像はそのようなものではなかった。アンドロメダ流国は遠い未来の国家であり、その時間軸の人類とも熾烈な戦争を繰り広げていたのである。戦いの枠組みは物理的な距離に留まらず、時間すら越えたものだったのだ。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
拓馬「悪い夢でも見てるのか」
カムイ「夢ならいいが、これは現実だ……」

 

そして単にスケールの問題に留まらず、遠い未来の人類のありようは拓馬達を驚愕させる。捕虜や民間人も容赦なく殺し、ダーク・デス砲で星ごと腐らせ肥やしに変えてしまう。地球を守るためとは言うがハチュウ人類にも関心はなく、彼らにとってはゲッター線に選ばれた人類だけが絶対の存在となっている。前回コーメイが言った通り、彼らのありようは侵略者そのものだ。悪い夢でも見ているのかと拓馬が思いたくなるのも無理はない。
 
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
遠い未来の話、自分達とは隔てられた話――そのように枠組みして分けられればどれだけ楽だろう。だが未来の世界はそれを許さない。彼らの力の象徴は拓馬達も操るゲッターの力であり、未来人の代表として接しているのは曲がりなりにも自分達の先達たる巴武蔵であり、アンドロメダ流国が現代に攻め込んできたのはこの未来を変えるためなのだ。更には過去の百鬼帝国との戦いがアンドロメダ流国との戦いの系譜にあったことも明かされ、拓馬達はこの戦いが自分達の時間軸にもべっとりと絡みついていることを認識せざるを得ない。
 
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
始まった戦いの中で、既存の枠組みは壊れていく。武蔵の正体はゲッターエンペラーの記憶から作られた「純粋な人間遺伝子を受け継ぐ人造人間」とやらであり、死んでもすぐに次の自分が起動する彼にとって生死や個人の枠組みはあってないようなものだ。また拓馬達はせめてもの抵抗として戦いへの参加を拒否するが、武蔵はこれが現代の地球にも影響する戦いであることを示し逸脱を許さない。拓馬達は否応なしに未来の人類とアンドロメダ流国の戦いの枠組みに取り込まれていく。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
拓馬「俺はマクドナルドの野郎をこの手でぶち殺すためにゲッターに乗ったんだ。今やんなきゃ俺にはどんな未来もねえんだ!」

 

崩壊する枠組みの中で、拓馬にたった一つ残っているものは何か?それはアンドロメダ流国の幹部マクドナルドが母の仇であることだ。善悪敵味方の枠組みがもはや機能しないなら、自分という枠組みを守ろうとするのは当然の反応ではあるだろう。
だが拓馬は、母の仇討ちはあくまで彼個人の枠組みでしかないことを見逃している。獏やカムイは付き合ってはくれるかもしれないが、それは彼ら個人の枠組みではない。特に人類とハチュウ人類のハーフであるカムイにとってこの状況は何より自分という枠組みをこそ揺さぶるものであり、誤魔化すことなどできるわけもない。
世界、時空、善悪、個人、そしてチーム。ありとあらゆる枠組みがぐらついていくのがこの10話なのだ。
 
 

感想

というわけでゲッターロボアークの10話レビューでした。「同じ顔の別人」「別の顔の同一人物」みたいなことを考えましたがなかなか結論と言えるものが浮かばず、たどり着いたのが「枠組み」の概念でした。ホントに色んな枠組みが壊れてるからな、今回。武蔵の色んな作品で死ぬ姿を歴史に組み込むとかえげつない。同じく號を都合で蘇らせておいて待ってるものがこれって。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
同時に顔を背ける拓馬とカムイ、仲が良くて好き。
 
 

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