【ネタバレ】奪われたギアス――「コードギアス 奪還のロゼ」第3幕レビュー&感想

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苦境の「コードギアス 奪還のロゼ」。第3幕では容赦なき現実がロゼ達を襲う。この第3幕は、彼らからギアスの魔力を奪う物語だ。

 

 

コードギアス 奪還のロゼ」第3幕

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1.ギアスキャンセラーとしての第3幕

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アッシュ・フェニックスは父・皇重護を殺したのか? 彼の育った孤児院を訪ねたサクヤは驚くべき事実を知る。もはや彼の弟ロゼとしては振る舞えないと帰路についたその時、アインベルクの一人クリストフ・シザーマンが眼前に現れ……

 

簒奪の「コードギアス 奪還のロゼ」。第3幕は陰鬱な展開の続くシーズンだ。ギアスの力がかえってアッシュとサクヤ=ロゼの関係をこじらせてしまったことが明かされ、味方陣営である七煌星団が壊滅的な被害を受け、ラストでは「機動戦士ガンダムF91」のバグを彷彿とさせる殺人マシン(以下「人間だけを殺す機械かよ!?」禁止)が登場して世界中が惨劇の渦に飲まれていく。おおよそ溜めの回といった印象で、第1・2幕で見られたような知略や技巧で苦境をひっくり返す場面――ある種の「ギアスらしい爽快感」が抑えられた作りとなっている。

 

この第3幕が見せているもの。それはギアスに対する一種の幻滅である。サクヤは己の命じた通りに他人を動かせるこの魔術めいた力で様々な奇跡を起こしてきたが、第3幕ではギアスは徹底的に彼女に牙を剥く。彼女は父の仇アッシュに自分を弟と思い込ませて利用してきたが、実際は彼は父に自分を託されておりギアスの力はアッシュの魂の尊厳を踏みにじったに過ぎなかった。またロゼは街中でギアスの力を使ったところを監視カメラに捉えられており、そこから彼女はネオ・ブリタニアに捕縛されアジトを知られた七煌星団も戦力の大半を失う大打撃を受ける。更にはサクヤを捕えたクリストフは研究のため彼女にギアスの力を使うよう命じ、そのために無辜の人々を次々殺していく。「もし、ギアスの力なしにアッシュとサクヤが出会っていたらこんなことにはならなかったはず」……そんな風に想像した多くの人にとって、ギアスはこれまでのような不可能を可能にする力ではなく不幸を招く呪いの力として映っていることだろう。

 

その後の本作の中盤において、サクヤは確かに囚われの身から脱してはいる。アッシュとも一応の和解を果たし、再び協力関係に戻ってはいる。けれどサクヤが対外的な関係から姿をロゼに戻したとて、そこには彼ら「ナナシの傭兵」がかつて見せた力は未だ戻っていない。クリストフは機械的な防護装置はもちろんのこと最後には拳銃で自らの頭を撃ち抜いてまでギアスが有効に働く状況を阻止してみせたし、正体がバレた以上これまでのようにおおっぴらに動くことも不可能だ。ギアスの力が可能にしていた奇跡は今もなお無効にされていると言っていいだろう。他にも今回はアインベルクの一人アーノルド・レンクがギアスを無効にする力を備えて再登場しているが、すなわち彼同様物語そのものが巨大なギアスキャンセラーとして機能しているのがこの第3幕なのである。

 

2.奪われたギアス

第3幕とは巨大なギアスキャンセラーである。そのように見た時、本作の終盤が謎の殺人マシンに蹂躙される世界を描いて終わっているのは象徴的だ。

 

もともと、ロゼが再び戻った後の状況は彼の手を離れたところにあった。七煌星団の受けた損害はおよそ作戦の立てようが無いのではと思えるほどのものだったし、ネオ・ブリタニアはアインベルクの一人ナラ・ヴォーンを和平交渉の特使として超合衆国へ派遣した=平和を願っているとの大義名分を掲げたためこちらから攻撃を仕掛けることもできない。ナラはナイトメアフレームを用いた戦闘のみならず交渉にも長けており、そのままなら物語は政治の世界で全ての決着がついていた(ついてしまった)ことだろう。……だが、物語は突如として更にロゼ達から遠いところまで飛び上がっていく。ナラも知らぬ秘密裏に開発されていたらしい謎の殺人マシンの群れが、ホッカイドウブロックのみならず世界中の人々を襲い始めたからだ。ここに来て危機は日本の一地域に留まらない重大事となった。

 

殺人マシンとはなんとも味気ない言い方だが、正式名称が明かされていないこともあってこの機械は殺人マシンとしか言いようがない代物である。潜水艦から放出された巨大な卵状の物体が陸上で虫のような姿に変形、黙々と人間を飲み込んでは血の霧を吐いていく姿は私達をぞっとさせずにおかないがその感触はあまりにも無機質だ。ただただ効率的に人が殺されていくその光景には、怪獣が放射熱線を吐いたり人型ロボット兵器がミサイルを発射する姿がどうしてもまとってしまうロマンのようなものすら存在していない。ギアスへの幻滅同様、言ってしまえばここには夢がない・・・・

 

ギアスとは確かにろくでもない力である。サクヤが尊厳を奪い不幸にした人間はアッシュだけではないし、人はそうした力をどうしても悪用してしまうものだ。けれど現実に手にすれば不幸を招くだけと分かっているその力に、愚かにもなぜか私達は魅了されてしまう。ギアスにかけられたように夢を見てしまう。そう、アッシュがギアスをかけられて錯覚した時間がすなわち死んだはずの弟ニコルと再会したが如き時間であったように、ギアスをかけられるとは夢を見ることと同義なのだろう。ならば巨大なギアスキャンセラーにかけられた世界とは、ロマンの欠片もない殺人マシンが跋扈する世界とは夢のない世界に他ならない。夢を”奪われた”世界に他ならない。そんな世界でロゼが奪還を再度誓う全てもまた、単なる戦いの勝利ではありえない。

 

コードギアス 奪還のロゼ」第3幕は神殺しをするが如くギアスを殺す回である。だが本当はギアスは、夢は奪われただけに過ぎない。今もなお死んではいない。奪還すべき「コードギアス」を示して物語は最終幕へなだれ込んでいくのだ。

 

感想

以上、奪還のロゼの第3幕レビューでした。前回までとは勝手が違うので最初は何を書いたらいいのか悩んだのですが、「夢なき世界」というワードが浮かんだことで全体像を自分なりに掴むことができました。アーノルドの「そのようなザマだから偽の弟に騙されるのだ!」の台詞、予告で聞いた時は「あー、第1幕で死んだアーノルドは偽の弟だったのか」ってなってたのですが、見終わってみるとそんなわけあるかと自分で笑ってしまいました。

 

さてさて、「亡国のアキト」や「双貌のオズ(未読)」のキャラも登場して最終幕はオールスターの様相を呈してきそうですね。それ以上に大きな夢を見せてくれるのを期待して来月を待ちたいと思います。

 

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