掴め! 究極の予定調和――「真夜中ぱんチ」最終回12話レビュー&感想

©2024 KADOKAWA/P.A.WORKS/MAYOPAN PROJECT

まとまりの「真夜中ぱんチ」。最終回12話は思いもよらぬ結末を迎える。運命、それは究極の予定調和だ。

 

 

真夜中ぱんチ 第12話(最終回)「The Last Live Stream」

mayopan.jp

1.シリアス展開は予想外? ありきたり?

あと1日でチャンネル登録者数100万人を達成するため、追手のヴァンパイアとの鬼ごっこ配信に打って出た苺子達。果たしてこの無謀な配信は成功するのか、そしてりぶはもどってくるのか……!?

 

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真咲「はぁ!? あんたたち一体何をするつもり!?」

 

配信は続く「真夜中ぱんチ」。主人公の真咲を始めとした「真夜中ぱんチ(マヨぱん)」のろくでなし達をコミカルに描いてきた本作だが、最終2話は思いもよらぬシリアスな状況となった。主人公の真咲がアンチコメントに足がすくんでいる内にヴァンパイアにしてメンバーの1人りぶが20年前の悲しい出来事を思い出して失踪、それに怒ったヴァンパイアの長マザーはマヨぱんに課した動画チャンネル登録者数100万人の達成期限を1ヶ月短縮。苺子達残りのメンバーは逆転のため自分達の正体を暴露、追手との決死の鬼ごっこ配信が始まる!……前回の引き、そしてあふれるような情報量に驚かされた視聴者は多いはずだ。しかしあえて言ってしまおう、こんな展開はありきたりなものに過ぎない。

 

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苺子「真咲が来てからの晩杯荘、ずっとずっと楽しかったのに……だから、だからずっと続いてほしいって、それだけだったのに……」

 

コメディタッチの作品は実のところ懐が広いもので、常に笑いばかり描くとは限らない。不意に感動回を挿し込んだり、最終話では真面目なストーリーを繰り広げたりすることだって珍しくはない……そういった傾向を踏まえるなら、本作が最終2話でシリアスになるのはどちらかと言えば当然のことだ。かつて炎上した真咲の動画出演復帰が重要になるのは目に見えていたし、メンバーの中には無理矢理ヴァンパイアにされた過去を持つ者もいるなど案外残酷な世界であることはこれまでも描かれてきた。前回の急展開に私達がついていけたのもそうした前フリあってのことで、つまりそこにはどこか予定調和の空気すら漂っている。

 

最終回付近でセオリーを破るのはありきたりに過ぎない。言うなら枠に囚われた話でしかない。本作は、「真夜中ぱんチ」はそんなつまらない話ではないはずだ。

 

2.掴め! 究極の予定調和

本作が飛び出すべき枠は、他の作品よりもっと大きなところにある。それを証明するように、この12話で見られるのは真咲が飛び出すいくつもの枠だ。

 

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真咲「私まさ吉は、りぶが来るまで逃げ切ってみせますから!」

 

逃避旅行先からりぶ失踪の報に驚いて戻った真咲は当初、蚊帳の外に近い状況であった。彼女が知らない内に事態は大きく動いていたし、ヴァンパイアの鬼ごっこ配信にしても人間の彼女が任されたのはカメラの切り替えだけ。かつて所属していた「はりきりシスターズ」を追い出された時のように、彼女は宙ぶらりんで枠の中に閉じ込められていたのだ。けれど真咲は、次々とメンバーが捕まっていくのを見て自ら鬼ごっこに参加する。全員が捕まればマヨぱん終了となれば、アンチコメントも身体能力の差ももはや理由にはならない。彼女を閉じ込める枠にはならない。

 

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真咲「私は……だから、そんなの決まってんじゃん。そんなの、そんなの、そんなのさ、出たいからに決まってんじゃん!」

 

また、追手のヴァンパイアになぜ動画にまた出たのか問われた真咲は、マヨぱんの皆を大切に思ってはいつつも最後には本音を口にする。「出たいからに決まってるじゃん!」……そう、仲間のピンチを見かねての出演は実のところ、炎上の恐怖で真咲が自分の気持ちから逃げていた事実の解消にはならない。だから彼女は本音を語って、枠から飛び出さなければならない。そして、驚くべきことにここまでではまだ話は半分だ。鬼ごっこのため廃病院の屋上から「飛び出した」真咲を助けたのは追手の格好をしたりぶ――なんと、前回からの出来事は全て彼女の仕掛けた「ドッキリ」、真咲の本音を引き出すための狂言だったのだから。

 

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りぶ「ということで、皆さんどうも心配させてしまってすみませんでした~(中略)ああちょっと待ってね、まさ吉にも今から……」

真咲「てめえ……ざっけんな!」

 

枠を飛び出したはずがてのひらの上=枠の中。あまりにも滑稽だがここまで大掛かりで笑えるドッキリは珍しい。しかもチャンネル登録者数100万人の期限も短縮されておらず、残り1ヶ月で達成を目指す状況のままというのは最終回らしからぬ終わり方だ。逆に言えばこの最終回は、「最終回付近でセオリーを破るのはありきたりに過ぎない」セオリーを破っている。枠の中で踊っていたにも関わらず、枠を飛び出している。そして振り返ってみれば、真咲達真夜中ぱんチはこんな風に見えない枠からこそ飛び出してきたのではなかったか?

 

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真咲「あれ? 喋るコウモリさん……大丈夫?」

 

真咲の真実を引き出すドラマが壮大なドッキリ。予測不能と予定調和の不思議な関係を証明するように、物語はりぶの思い出した20年前の真実を明かす。昼でも外に出たいと飛び出して体が「炎上」、死にかけたりぶは真咲に血を吸わせてもらって助かるが痛みに耐えかねた彼女に「あっち行けよこのコウモリ!」と投げ飛ばされてその後20年寝ていた……という真相はあまりにバカバカしいが、これを拍子抜けだと呆れる視聴者もそうはいまい。前回の急なシリアス展開が驚きはあっても受け入れられるものであったのと同時に、こうしたくだらないオチに終わる感覚も本作をこれまで見てきた人は既に慣れっこになっているはずだからだ。そしてどれだけくだらなかろうとやはり、真咲とりぶの20年ぶりの再会は運命としか言いようがない。

 

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最終回は、物語は難しい。全くの予想通りではつまらないし、思いもよらない終わりならいいわけでもない。想像もしなかったがあるべきところに収まったと、最初から全てがこのためにあったと思わせるような運命的な結末だからこそ人々は感動する。言い換えるなら予測不能でありながら予定調和でなければ運命ではなく、それはある種の枠を超えた究極の予定調和とでも呼ぶべきものだ。真咲とりぶは、真夜中ぱんチはこのドッキリを通してそこにたどり着いたのだろう。チャンネル登録者数がまだ100万人に届かない意外な結末でも、彼女達はもう大丈夫だという納得がこの終わりにはある。

 

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運命とは究極の予定調和である。「真夜中なのにおっはよー!」と突き出す真咲とりぶの拳は、究極の予定調和を掴み取る”真夜中ぱんチ”なのだ。

 

感想

以上、マヨぱん最終回のレビューでした。ドッキリという展開に最初は「真実と虚構」というのを考えたのですが正直これではあいまい過ぎで、視聴を繰り返していく内に浮かんだ予定調和というワードがりぶの言う運命と結びつくことでレビューが書けました。

 

本作を視聴したのは多分に放送枠の都合が大きかったのですが、まさに予測不能と予定調和の狭間を行くような内容で毎週楽しく見せてもらいました。特に最終回はドッキリと分かってから見直すと笑えるところがたくさんありますね。十景は変装した異端児の2人を見たから逆方向に逃げたのかとか、傷(実際は輸血パックを腹に入れてるだけ)を手当しようとする真咲の手を払い除けた時の苺子は内心ヒヤヒヤだったろうなとか……ゆき加入後の動画配信の様子がほとんど見られなかったのだけが残念。あとマザーはどんな姿をイメージして声が当てられてたんでしょう。スタッフの皆様、素敵な作品をありがとうございました!

 

 

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