どういうことだよ、八奈見さん――「負けヒロインが多すぎる!」最終回12話レビュー&感想

©雨森たきび/小学館/マケイン応援委員会

分からない「負けヒロインが多すぎる!」。最終回12話は原作者原案のオリジナルエピソードだ。それを見て、私は思わず――

 

 

負けヒロインが多すぎる! 第12話(最終回)「俺はひょっとして、最終話でヒロインの横にいるポッと出のモブキャラなのだろうか」

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1.偽装の偽装デート?

SNSでの匂わせがバレそうだからと杏菜に要請され、偽のデートプランに協力することになった温水。文芸部の皆とのんほいパークに向かうことになり……?

 

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杏菜「いやあ楽しかったねえ。助手席、どうだった?」
温水「いやあ特に。何もすることなかったんだが……」

 

そういうところの「負けヒロインが多すぎる!」。12話は原作者である雨森たきび原案のアニオリ回である。マケインの1人、杏菜がSNSで彼氏がいると匂わせるのに失敗した帳尻合わせで主人公の温水が彼女のニセ彼氏計画に付き合うことに……というものだが、面白いのはそのための偽装デートがまるでデートらしくないことだろう。温水は企画の段階で同じ文芸部の檸檬や小鞠を巻き込んだ上に彼女達は当日も同行しているし、舞台となるのは前11話でも訪れたのんほいパーク。杏菜の方も折に触れては温水からかけ離れた妄想の彼氏像を披露するから本物のデートのような雰囲気はかけらもない。ラノベでよくある「偽装のつもりが本気になっちゃった」といった展開が起こりようがないのがこの12話なのだ。……だが、これは失敗ではない。

 

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分かりきったことに立ち返るが、これは偽装デートである。逆説的だが、裏側から見た時にデートらしさをまるで感じずに済んでこそ「偽装デート」なのだ。実際、温水はこれが杏菜とのデートだとは露ほども考えていない。ゴーカートで彼女の隣に座っても、肉巻きおにぎりの串の先に刺したたこ焼きを「あーん」してもらっても、頭にあるのは「狭い、いつ終わるんだ」だの「こんなときめかないあーんが世の中にあったんだ」だの、デートの緊張感からは程遠い気分だ。見方を変えるならこの12話、温水は杏菜のすぐ近くにいながら「クラスメイトの女子と密着すれば緊張して固まっていた」以前のような状況には陥っていない。偽装デートと認識することで、彼はむしろ自然体で杏菜とデートのようなことができているのである。

 

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アサミ「どかわいいじゃら? 待ち受けにするじゃんね」

 

温水達を尾行しその様子を撮影する妹の佳樹が彼女自身も友人の権藤アサミから撮影される場面が示すように、物事は一皮むけば真実にたどり着くとは限らない。牽強付会を恐れず挙げるなら、杏菜の語る妄想の彼氏像にしてもどこか温水らしさが無いではないのだ*1


杏菜のニセ彼氏計画、およびそこから生じた偽装デートはそれ自体が偽装ではないか? この12話ではそんな仮説を立てることができる。ではこの仮説を元にした時、偽装デートの後半はどんな風に私達の目に映ってくるのだろうか?

 

2.どういうことだよ、八奈見さん

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偽装デート自体が偽装なのではないか。そう考えた時、12話後半の杏菜の行動は意味深である。妄想の中でも彼氏を「泥棒猫」に取られてしまいショックを受けた彼女は、温水1人を誘って一緒に観覧車に乗る。折しもスマホのバッテリー切れで佳樹が尾行できなくなってしまう描写が示すように、この時観覧車の中にあるのは少しだけ偽装から離れた空間だ。

 

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温水は言う。無理して彼氏を作る必要はないんじゃないか、と。通じ合ってる同士が側にいれば自然とそうなるのではないか……と。杏菜は「ずっと側にいたけど結ばれませんでしたが」と返すが、邪推を重ねるならこれは1話で振られた幼馴染の袴田草介のこととは限らない。自然な形でずっと側にいたのは今回の温水も同様だからだ。あるいは杏菜は、ニセ彼氏計画を通して温水と恋人になろうと――無理して彼氏を作ろうと・・・・・・・・・・・していたのかもしれない。

 

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温水は以前は杏菜に彼氏を作れと言っていたのに、今は無理して作る必要はないという。小さな変化に気付いた杏菜は温水の隣に座るが、そこで二人が何を話していたのかは私達には明かされない。双眼鏡で覗いていた文芸部顧問の小抜小夜も同僚の甘夏古奈美にそれを取り上げられ、全ては夕焼けに溶けていく。けれど再びカメラに映った時の彼女は、「そうまで言うなら仕方ないな、しばらく彼氏作るのはやめておくかな」と言う杏菜の表情は嬉しさに満ちていた。ニセ彼氏計画から始まった偽装デートは、意外にも彼氏を作らない結論に着地したのである。

 

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杏菜「そうまで言うなら仕方ないな、しばらく彼氏作るのはやめておくかな」

 

温水は心の機微を読むのが上手いとは必ずしも言えない少年だ。友人も恋人も過度にハードルを上げているきらいがあって、自分が誰かのそういう存在たり得ていることに気付かない。けれど一方でそれ故に彼の態度には度を越したくらいの誠実さが宿ってもいて、だから温水は周囲の人間からの信頼を勝ち得てもきた。ならばきっと、彼は今回もそんなふうに杏菜と話したのではないだろうか。素朴で気が利かなくて、けれどだからこそ杏菜を大切に思っているのが伝わるような言葉を。無理に関係を進展させるべきではないと納得できるような、そんなことを言われたからこそ杏菜は笑顔になれた。……もちろんこれは全て私の妄想である。

 

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杏菜「そういうとこだよ、温水くん」

 

神ならぬ私達には、杏菜が何を考えているかは結局分からない。観覧車で何を話したのか檸檬と小鞠に聞かれても本当に何もなかったつもりの温水に彼女が投げかける、毎度おなじみの「そういうとこだよ、温水くん」にしても、彼への落胆を示しているとは限らない。でも、分からないのは悪いことばかりではないはずだ。


「どういうことだよ、八奈見さん」……12話の終わりに私は、思わず画面の向こうの彼女に4話の温水の言葉を繰り返してしまう。何を考えているのか分からない彼女に吸い込まれてしまう。それはきっと、八奈見杏菜という存在をキャラクターではなく1人の人間として見ている証なのである。

 

 

感想

以上、マケインのアニメ最終回12話レビューでした。視聴を繰り返す内、偽装デートだからこそ起きていることがあるんじゃないか?と感じるようになりまして。そこから話の流れを推し量っていくとこんなレビューになった次第です。


振り返ってみるととても手強い作品でした。アニメレビューを何話も書いていくと全体像への仮説がなんとなく浮かぶものですが、本作の場合はそこまで至らずまだまだ全然作品を読めてないんだろうなと思います。けれど登場人物の生き生きとした姿はいつだって私を引き付けてやまず、私にとってアニメレビューを書くことは人と話すのに極めて近い行為なんだと再認識させられる時間でもありました。
悩みに悩んで決めた日曜のレビュー枠、この作品を選んで良かったです。スタッフの皆様、お疲れ様でした。

 

 

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*1:「『今日だけだぞ』とか言ってくれちゃうの」→冒頭の「今回だけだぞ」、「マケインとかそういうとこ勤めてるから」→言うまでもなく本作の略称は「マケイン」、「彼は射的が得意。本物を撃ったこともあるんだって」→ツワブキ祭で朝雲千早の改造銃で景品を当てたことがある