【ネタバレ】軋む歯車――「コードギアス 奪還のロゼ」第2幕レビュー&感想

(C)SUNRISE/PROJECT G-ROZE Character Design (C)2006-2024 CLAMP・ST

2人が織り成す「コードギアス 奪還のロゼ」。第2幕では順調な戦いにわずかな影が射す。それは噛み合っているはずの歯車の軋みである。

 

 

コードギアス 奪還のロゼ」第2幕

geass.jp

1.歯車を合わせるギアス

「ナナシの傭兵」ことロゼとアッシュを加えたことで快進撃を続け、勢力を拡大していく七煌星団。対するネオ・ブリタニアは天空要塞ダモクレス大量破壊兵器フレイヤを持ち出してサッポロ・ゲットーを消滅させようとするが……

 

北の大地を行く「コードギアス 奪還のロゼ」。6月に公開された第2幕は前回同様にエンターテイメントとしての面白さにあふれた内容であったが、個人的に印象に残ったのは七煌星団のエースとして琉高ハルカが選ばれたくだりであった。彼女は第1幕ではさほど活躍したわけではなかったが、主人公であるロゼはそれは彼女の身体能力が高過ぎる故だと洞察してみせる。反応速度や装備が適切な機体を用意すれば――パイロットと機体の歯車が噛み合えば一気に化けるはずだ、と。

 

「歯車が噛み合う」ことは大切である。敵対するネオ・ブリタニア帝国の新たな皇帝にホッカイドウブロックのかつての領主の娘である皇サクヤが担ぎ出されたギャップに七煌星団のメンバーは戸惑いを見せるし、彼らと同じくレジスタンスを続ける北狼軍や暁旅団は志こそ同じでも自分達が七煌星団の配下になることには拒絶感を示したりする。物事の成否にスペックや物量が重要なのは言うまでもないが、それ以上に大切なのはこうした歯車の噛み合わせの問題なのだ。

 

「歯車を噛み合わせる」ことにおいて、ロゼは天才的……というより悪魔的である。なにせ『彼』は前作の主人公であるルルーシュに授けられた「絶対遵守のギアス」を持ち、その力を受けた者は自らの意思や記憶すらねじ曲げて命令を実行しようとする。ロゼはいわば「どんな無茶な歯車も合わせてしまう」ことができるに等しく、それがほとんどインチキ同然の行為なのは言うまでもない。このギアスによって自分と兄弟だと思い込ませているアッシュの身体能力の高さもあり、二人は「コードギアス 反逆のルルーシュ R2」でルルーシュとスザクが天空要塞ダモクレス大量破壊兵器フレイヤの無力化させた奇跡の再現にまで成功してみせた。彼らの操るナイトメアフレーム、Zi-アルテミスとZi-アポロは合体しZi-オルテギアとなって爆発的な高性能を見せるが、これには歯車の噛み合わせが一心同体のレベルに至った時どれほどの力が生まれるかが上手く視覚化されていると言えるだろう。……だが、本当にこれは「歯車が噛み合って」いると言えるのだろうか?

 

2.軋む歯車

絶対遵守のギアスを持つロゼはしかし、本当に歯車を噛み合わせることができているのか。この疑問は、順調そのものに見える戦いに潜む小さな蹉跌から見て取ることができる。

 

この第2幕で持ち出されたダモクレスフレイヤに対し、ロゼは当初ダモクレスを奪取できればベストと考えていた。だがギアスの力を持ってしてもさすがにダモクレスを内部から占拠することはできなかったし、高高度に逃げるのを阻止するための破孔爆弾の設置作戦もロゼの目論見通りにいったわけではない。爆破が成功したのは機体が戦闘不能となった暁旅団のリーダー・東見が自爆特攻というおよそ作戦とは言えない手段で無理やり歯車を合わせた結果に過ぎない。また情報では3発以下とされたフレイヤは最後の1発がダモクレス以外の場所で保管されており、その発射によってダモクレスが落下したサッポロ・ゲットーはフレイヤによる消滅こそ免れたものの「多少の」被害を受けることとなった。一見全てが順調に進んでいるように思えるロゼの戦いはこの第2幕、微妙な歯車の狂いを見せ始めているのである。

 

絶対遵守のギアスとは歯車を噛み合わせる力であるが、先に述べたように実際はこれはインチキに過ぎない。ロゼの正体はアッシュの弟ではなく皇サクヤその人であり、ネオ・ブリタニア玉座に座らされているのは影武者の春柳宮サクラ。加えて彼女は息抜きで手伝う喫茶店での姿「ラズベリー」にアッシュから好意を寄せられているが正体を明かせるはずもなく、更に言えばサクヤの父・重護の仇の筈のアッシュには何か重大な事情が隠されていることがこの第2幕では示唆されているが、「弟のロゼが」そんなことをアッシュに聞けるわけもない。表面上は仲の良い兄弟であるはずの二人が、実は決定的に歯車が噛み合っていない……サクヤはそういうジレンマに陥っている。

 

無理矢理に噛み合わせた歯車は、動くことはあってもいずれ軋みをあげる。相手がギアスの力を使っているらしいことをネオ・ブリタニアは薄々察知しているし、この第2幕ではサクラはとうとう自分が偽者だと看破されるに至った。更に言えばネオ・ブリタニアの事実上の長であるノーランドにとって、ダモクレスフレイヤも失ったこの状況はむしろ狙いと歯車が噛み合っている可能性すら劇中では指摘されている。


かつてルルーシュが自分に手を差し伸べてくれたユフィ(ユーフェミア・リ・ブリタニア)を最悪の形で裏切る結果になってしまったように、インチキによる軋みは歪みを呼び、やがては大きなしっぺ返しを呼ぶものだ。第3幕の予告では登場人物の関係に様々な破綻が訪れることが示唆されているが、サクヤもまたルルーシュの轍を踏むことになるのだろう。では、「反逆のルルーシュ」から続く本作はその先で何を見せてくれるのか。

 

何の障害もなく全てが上手くいっているかのようだった物語には、静かに終わりの時が忍び寄ろうとしている。破滅の足音とは、歯車が軋むところに聞こえてくるものなのである。

 

感想

以上、奪還のロゼの第2幕レビューでした。第1幕は見終わった当初ずいぶん戸惑ったのですが、レビューを書いて消化できていたおかげでこの第2幕はシンプルに鑑賞することができました。物事がスムーズに進み過ぎる気持ち悪さも意図的なのが見えてきて、だんだん作品と自分の歯車が噛み合ってきたのを感じます。
さて、来月公開の第3幕とその先の第4幕では一体何が起きるのか。アインベルクの一人、内山夕実さん演じるナラ・ヴォーンが意外と重要なキャラなことも分かってきて、個人的には彼女の活躍に期待したいところです。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけると励みになります>