五里霧中の「境界戦機」。21話でアモウは混沌の中に放り出される。混沌とはつまり、境界線のボヤける場所だ。
境界戦機 第21話「動乱の兆し」
1.スッキリしない物語
アレクセイ「平和的解決のためなら協力しよう。だが我々は何も知らない」ブラッド「だからこそあなた方が狙われる可能性もある。そのための保護措置ですよ」
この21話はなんともスッキリしない回だ。主人公であるアモウ達の新日本協力機構と北米同盟の会議が上手く進まないことは多くの人が想像していたろうが、参加者の一人であるロイ・ウォーカー議員が狙撃され負傷したために会議は始まることすらなかったのだ。
約束されたはずの未来が奪われた憤りといったものを示せるわけでもなく、アモウとユーラシア軍のアレクセイ中佐は事実上の軟禁状態に置かれてしまう――だが、これは単なる盛り上げの不足ではない。
2.くっきりするほどぼやけ、ぼやけるほどくっきりする
ケイ「威力も射程距離も類を見ない! 機動力は犠牲になるが……」ガシン「実弾もレーザーもこの盾に効きはしない!」
今回の話は八咫烏のガシンの新たな乗機、ジョウガン改のお披露目を兼ねている。交渉の頓挫で再び侵攻を開始した北米同盟の多数の敵機に対し、引き付けた上でとはいえ単機でほぼ壊滅させてしまうジョウガン改の武装の威力は驚異的なものだ。八咫烏の代表である宇堂は想定以上の打撃を与えられたはずと分析するが、実際この攻撃は敵の指揮官の心胆を大いに寒からしめたことだろう。ただ、驚愕したのは指揮官だけではない。
スン・チョン「なんて威力だ……!」
ジョウガン改の攻撃は北米同盟からアジア軍を救うものだったが、それを目にしたアジア軍のスン・チョン特任中尉はあまりの攻撃力にほとんど戦慄していた*2。八咫烏の擁するオリジナルアメインは間違いなく味方だと示してもらったにも関わらず、だ。
ケイ「敵の半数を撃破した!」ガシン「十分だ。掃滅戦に入る!」
敵味方や真偽であるだとかいったことには境界線が必要とされるが、明示的に引かれたとしてもその線が本物とは限らない。例えばお笑いトリオであるダチョウ倶楽部の故・上島竜兵には「押すなよ! 絶対に押すなよ!」という持ちネタがあった。表面的には押しては駄目だと境界線を引いているようで、実際はここで押せば笑いに繋がるぞと促しているところにこのネタの面白さがあったわけだが――スン・チョンが感じた戦慄のロジックはこれに似ている。オリジナルアメインが味方なのは彼もよくよく分かっているだろうが、それがあまりに頼もしいからこそ敵に回った時の恐ろしさを想像してしまう。世の中には境界線を引けば引くほどかえってボヤけてしまう、あるいは逆にぼかしたり否定するほどくっきりしてくる場合というのも存在するのだ。
スピアーズ「お答えしかねます。ですが彼らとは戦争状態。そういったことも十分起こり得る」
実際、北米同盟のジョウ・スピアーズ副司令は境界線のこうした性質を上手く利用している。会見で彼は狙撃犯が何者かはまだ分からないと強調する一方、犯人が新日本協力機構絡みではないかとの記者の推測もはっきりとは否定しない。肯定せずとも否定しないだけで世間の疑いの目は敵に向かうことになるのだから、彼としてはぼかした方がむしろくっきりと境界線を引く結果に繋がるのである。
3.明瞭かつ曖昧な境界線
ソフィア「」もしかしたら、大尉がこの男にロイ・ウォーカーの狙撃を命じたのかも……」レイモンド「バカな、そんなことするわけない」
最初に書いたように、今回はスッキリしない話だ。狙撃犯が誰なのか、その真意がどこにあるのかこの21話では明かされておらず私達はアモウ達同様のフラストレーションを抱えることになる。彼と違いスピアーズ副司令もその養い子であるブラッド大尉も共に何か企んでいるのを知っているにも関わらずだ。……いや、むしろ知っているからこそだろう。
ジェルマン「さて、彼も始末する手配をしなければ。たった数人で戦争を起こせる……安い元手です」
今回の狙撃を巡る状況はあまりにも謎が多い。ブラッドが射撃の名手に接触していた描写からすれば彼の企みと考えるのが妥当に思えるが、会議をはっきり敵視していたのはむしろスピアーズ副司令の方だ。またスピアーズは物語の影で暗躍している男、ジェルマン・ゴベールに対応を指示こそしたがその内容については意図的に関与を避けているし、ジェルマンはブラッドとも繋がりを持っている。この入り組んだ状況下、どこからどこまでが誰の企みなのか切り分けるのはほとんど不可能な話であろう。彼らが企みを抱えているとはっきり分かっているからこそ、私達はどれが誰の仕業なのか境界線が見えなくなってしまっているのだ。
ブラッド「行動するかどうかは君達に任せる」
混沌とする状況下、ブラッドに促されアモウとアレクセイは軟禁状況下から脱出する。ブラッドを全面的に信用などできるわけもないが、かといってこのままでは間もなく拘束されるだろうと示唆する彼の言葉を無視することもできない。アモウ達が脱出するのは、どこまで本気か分からないブラッドの言葉にむしろ絶対に譲れない境界線を見ているからこそだ。
アレクセイ「私は行くぞ。見に覚えのない罪で投獄される趣味はない……濡れ衣は後から晴らせばいい」ガイ「そういうこと。命があればなんでもできるってこった!」アレクセイ「君もその覚悟はあるか?」アモウ「……はい!」
これまで敵だった3勢力と手を組み、北米同盟内に勢力争いがあり、アモウ達を取り巻く敵味方の境界線は見た目より遥かに複雑に動いている。混沌としたこの状況に再びはっきりと境界線が引かれた時、世界はどんな姿を見せるのだろうか。
感想
というわけで境界戦機の21話レビューでした。なんだか思ったより混沌とした状況なってきましたね、本当にこの狙撃はどこからどこまでが誰の狙い通りなのか。再びの逃亡生活でどんなことが起きるのかなども考えつつ次回を待ちたいと思います。
<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>
明瞭かつ曖昧な境界線――「境界戦機」21話https://t.co/cBATHXOiP8
— 闇鍋はにわ (@livewire891) May 31, 2022
今回の話がどのようにして「スッキリしない話」として作られているかについて書きました。#kk_senki#境界戦機 #アニメとおどろう
*1:これに更に一捻り加えた「コードギアス 反逆のルルーシュ」の行政特区日本構想の結末は視聴者の心に深い傷跡を残している
*2:前回予告でで見た時は、基地に何かとんでもないことが起きると想像した人も多いのでは?