一歩を教える境界線――「境界戦機」18話レビュー&感想

©2021 SUNRISE BEYOND INC.
分かたれ救われる「境界戦機」。18話では1期の自治区に似た保護区を舞台に物語が展開する。似て非なるものを分ける境界線を見つけた時、私達は自分の歩みを知ることができる。
 
 

境界戦機 第18話「保護区」

 

1.似て非なるを分ける一線

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ユウセイ「こんなことを頼めた義理ではないんですが……彼らを助けてやってほしいんです。お願いします」
 
今回の話は、ガシンがユウ兄と呼ぶ末永ユウセイが八咫烏にコンタクトを取ってきたことに端を発する。アジア協商圏内の日本人自治区の区長を務める彼はその独自のネットワークから、ユーラシア連邦にある日本人保護区の危機を知りその救援を求めてきたのだ。とはいえ、私を含め多くの視聴者はこのSOSに疑念を抱いたことだろう。ユウセイにはアジア軍に自治区を脅かされ、八咫烏の新本拠地の情報を売ろうとした前科がある。今回のコンタクトもそれと同じではないかと警戒するのは自然の心理だ。
 

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ガシン「ユウ兄は疑われるかもしれないというリスクを覚悟して頭を下げた。例えケイの情報がなくても、俺はユウ兄を信じたいと思っていた」
 
しかしガシンはユウセイの前科をアモウ達に語りながら、それ故に今回は信用できると告げる。ユウセイは八咫烏が自分に新本拠地の偽情報を掴ませていると知りながらアジア軍にそれを渡したこと、ガシンのパートナーである自律思考型AI・ケイの精査で保護区の存在は確かであること……以前と似た状況であっても同じではない以上、両者の間には一線を引くことができる。
 
 

2.一線が引かれたら

間に一線を引くことのできる、似て非なる関係。これは18話のあちこちで見られるものだ。
 

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ケイ「ユウセイのところと似ているが、やはり少し違うな」
 
例えばユウセイの自治区と今回の保護区は似ているが同じものではない。保護区は日本の文化や人々に好意的なユーラシア連邦の軍人キリル・ジルコフが作り上げたもので、住人は住み込みの雇用という形で彼の庇護下にある。労働者の都市であることも自治区とは異なる点だ。
 

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ザック「うふふふふ……壮観だなあ、最高だなあ僕のオモチャ」
 
またこの保護区を襲うのはザック・テイラーなる北米同盟でも特殊な立場にいるらしい男だが、彼はゴーストの基本プログラムを使用したAI搭載の無人機部隊でアモウ達を仕留めようとする。複数のゴーストなら勝てるという目論見であったが、実際は学習プログラムの欠如や機体性能差から部隊はアモウ達の脅威とはなり得なかった。彼の無人機はゴーストに似てはいたが、しょせんそれとは一線を画された存在でしかなかったのである。
 
 

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苦戦を強いられるかと思われたザックの部隊との戦いは、当初こそ混乱もあったがアモウ達の圧勝。薙刀で彼のコックピットをむき出しにしたシオンは、自分もアモウがブランク大尉を殺したようにしなければと考えるが――アモウはそれを止め、ザックも勧告に素直に従い逃げ出す。3話前によく似た状況はしかしこれまたやはり、同じ結果とはならなかった。
 
 

3.一歩を教える境界線

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ガイ「誇ってもいいぞ、アモウ。お前が守った命だ」

 

北米同盟を撃退し、保護区へ戻ったアモウは戦闘中に生まれた赤ん坊と対面する。キリルと彼女の妻、高柳ユウナの間に生まれた赤ん坊。小さくとも温かな手を持つれっきとした人間。それは自分が守った命であり誇ってもいいのだというパートナーAI・ガイの言葉に、アモウは涙する。何故か? それが後悔と嫌悪の記憶として刻まれているトライヴェクタでの事件に新たな意味を与えてくれるものだからだ。間近で人の死を見、恐怖で人を殺し、子供達から恐れられたあの出来事が、それでも誰かを守った行為ではあると教えてくれるからだ。今回の戦いとかつての出来事が一線を引ける程度に――境界線を引ける程度に似ていると教えてくれるからだ。新たな生命の誕生は、新たな意味の誕生でもあった。
 

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シオン「アモウくん……?」
アモウ「ごめん、なんでもないんだ。ごめん……」

 

一夜にして別人のように変わる。そんな風に強くなれれば素晴らしいことだが、実際には人間はそんな一足飛びの成長はできない。少し進歩できたかと思えば現実にぶち当たり打ちひしがれる。そういう似たことの繰り返しだ。けれど前に進もうとする限り、私達はその似たことの繰り返しにわずかな変化を生み出すことができる。似て非なるものとして切り分ける境界線を引くことができ、そこに過去との違いやあるいは過去自体の新たな意味を見出せる。ちっぽけだとしてもそれは、歩み続ける理由としては十分なものだろう。
 

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アモウ「二人とも、今まで色々と心配かけてごめん。……ありがとう」
 
全てが終わり戻る帰路、アモウはガシン達に感謝を伝える。以前と少し違う「ごめん」を、そして以前は言わなかった「ありがとう」を口にする。わずかな言葉だが、それだけあれば彼の変化をガシンや私達が感じるには十分だ。打ちひしがれていた以前の彼との間にはもう確かに境界線が引かれていて、だから大丈夫だと安心できる。
 

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常に動き続ける世界の中、私達はともすれば自分がどこにいるのか分からなくなってしまう。けれどわずかでも区切りを見つけられれば、堂々巡りのようでも歩みを止めていないことだけは信じられる。その一歩が前へ進んでいることだけは間違いないのだ。
人は境界線を見つける度、自分の一歩を実感することができるのである。
 
 

感想

というわけで境界戦機の18話レビューでした。落ち込み方も立ち直り方もアモウらしいし、本作はこういう作品なんだというのが感じられる回でした。ザックはどういう権力があるのか描かれてないので、今後も出番があるのかな。次回は予告だとコミカルそうなにも見えますが、はてさて。
 
 

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