意志か、導きか――「ゲッターロボ アーク」11話レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20210915231943j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
そびえ立つさだめの「ゲッターロボ アーク」。11話では拓馬の母の仇マクドナルドとの決着と、未来世界での戦いの終わりが描かれる。あまりにも壮大な闘争を生き抜く希望は、どこにあるのだろう?
 
 

ゲッターロボ アーク 第11話「宿願」

惑星ダビィーンから脱出したアンドロメダ流国の宇宙船には拓馬の母の仇・マクドナルドが乗っていた。百鬼帝国の残党であるマクドナルドにとって〝ゲッター〟はブライ大帝の仇であり、アンドロメダ流国にとって〝ゲッター〟は宇宙を蹂躙する悪の元凶だった。必ず斃す! それぞれの思いをのせ、遂に直接対決が始まる。宇宙船のゲートを開けるため単身潜入したカムイはマクドナルドと対峙し、思わぬ取り引きを持ち掛けられる。
 

1."導き"の敵味方

f:id:yhaniwa:20210915232048j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
拓馬「こんなに甘やかされちゃっていいのかよ。なんか自分達で戦ってる気がしねえぜ」
 
自分の未来は自分で作り出すと息巻いた拓馬だが、今回序盤の彼の役割はかなり限定的だ。未来世界ではゲッターアークの戦闘力は圧倒的ではないし、仇敵マクドナルドの探索やそこまでの道筋も全ては未来のゲッター軍団に先導されるばかり。本人も「自分で戦ってる気がしない」と言うように、序盤の彼の行動は多分に他者に誘導されている――"導かれて"いる。武蔵に言わせればそれはゲッター線の導きであろう。そしてゲッター線の導きは劇中でもある程度自覚されているところだが、この11話ではもう一つの導きがある。マクドナルドがカムイに見せる、ゲッターへの敵対者としての導きだ。
 

f:id:yhaniwa:20210915232100j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
マクドナルド「その牙を使ってバグを完成させ、ゲッターを倒せ!」
 
ゲッターでも破壊できぬシールドの向こうへ行くため単独で潜入したカムイに、マクドナルドは強大な兵器バグの情報を渡しゲッターとの戦いをそそのかす。百鬼帝国にとっても恐竜帝国にとっても人間とゲッターは敵のはずだと説諭する。結論はカムイに委ねているようでも、その言動は巧みに彼の心の急所を突いている。そもそもシールドや高熱の空間といった拓馬達の侵入を阻む要素自体がカムイだけと対面するための誘導、"導き"であろう。
武蔵は大いなる意思ゲッターの前では自分などという"個"はどうでもいいと言い切った。それは"導き"にただ従えということだ。敵対するゲッター軍団とアンロドメダ流国はしかし、拓馬やカムイ達を"導き"に従わせようという点では変わらないのである。
 
 

2.導きと個を結ぶ糸

f:id:yhaniwa:20210915232119j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
"導き"の力は強大で、人が覆すことは難しい。いかに人並み外れていても人間である以上、拓馬はマクドナルドが用意した120℃越えの空間に耐えることはできないように。この"導き"の前に個が無力であるという図式は、ゲッターロボとの戦いにマクドナルドが魔獣ウザーラを繰り出したことでより鮮明になる。
 

f:id:yhaniwa:20210915232130j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
マクドナルド「覚悟するがいい、お前の父流竜馬ですら倒せなかったこの魔獣ウザーラ!アトランティスの遺産と共に朽ち果てよゲッターアーク!」
 
ウザーラを操るマクドナルドは、これが拓馬の父竜馬にも倒せなかった存在であることを強調する。つまりゲッターロボではこの機体に勝てないのが"導き"というわけだ。事実その装甲は非常に堅牢で、ダブルトマホークが砕けるまでゲッターアークが殴打を続けても傷一つ付くことはなかった。対する拓馬の方は母の仇を討ちたい一心で――つまり自分という個に全てを注いでいたのだから、これは導きに対する個の明白な敗北だと言える。
 

f:id:yhaniwa:20210915232146j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
マクドナルド「カムイよ、後は頼んだぞ。ワシらはここで死ぬ、ワシらの遺志はお前の手の内にある。お前は宇宙の運命を握ったのだ!」
 
"個"の力はあまりに小さく、"導き"を覆すことなどできない。しかしならば導きに従うだけが道なのだろうか?そうではないはずだ。いかに圧倒的な戦力を持つ未来のゲッター軍団が先導しようとマクドナルドとの決着は拓馬達が付けるしかなかったし、マクドナルドも言葉巧みにカムイの心を揺さぶりはするが彼を操りきれるわけではない。"導き"の力がいかに強大であろうと、"個"の意志がなければ成せない領域は確かに存在する。
 

f:id:yhaniwa:20210915232240j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
拓馬「信じるんだ自分を!この体に流れている血のさだめを!」
 
故に拓馬はただ個の怒りに身を任せるのでなく、しかしただ導きに従うのでもなく戦うことで事態を打開する。彼の言う「自分を信じる」とはただそこにいる自分を信じることではなく、ゲッター線の歴史に連なる自分を含めて信じるということだ。自らが導きを受けていることを認め、かつその導きの前に自分を放り出さないということだ。
抗わずしかし従わないその時、覆し難い導きはほんの少しだけ表情を変える。「流竜馬にも倒せなかった」=勝つのではなく自爆に巻き込むことを目的としていたマクドナルドの目論見を破って拓馬はウザーラを撃破し、またスターボーダーの自爆から逃れることはできずとも自ら飛び込み時空を越えることはできた。
 

f:id:yhaniwa:20210915232318j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
武蔵「エンペラーなら……拓馬とエンペラーを結ぶ糸が繋がっていれば……」
 
拓馬達が再び時空を越えたことを知った武蔵は、エンペラーと拓馬を結ぶ糸が繋がっていれば……とエンペラーへの報告を促す。この糸はすなわち、"導き"と"個"の意志を結ぶ糸だ。そしてこの糸は、拓馬達がこの世界で生き抜くためのか細い希望でもある。
 

f:id:yhaniwa:20210915232336j:plain

©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
隼人「アークは生きている……宇宙の果てでもがいている。助けに行けるものなら、この手で救い出したい」
 
宇宙の果てでもがくとは、生きるとは、"導き"とその強大さの前に引きちぎられそうな"個"の意志の綱引きを続けることなのだ。
 
 

感想

というわけでゲッターロボアークの11話レビューでした。1日遅れすみません。やはりどうも前日のラブライブ!スーパースター!!で思考力を消耗しちゃうな。"導き"と"個"の関係というところまでは浮かぶもなかなか結論にたどり着けず、過去に書いた「導き、導かれ」「抗わず、従わず」を踏襲する形になりました。
さてさて、別れてしまった拓馬達とカムイの今後はいかに。残り2話、このアニメがどういう決着になるのかは非常に気になります。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>