ルールは以下の通り。
・2021年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。・1作品につき上限1話。・順位は付けない。・集計対象は2021年中に公開されたものとします。
- No.1 オッドタクシー 第12話「たりないふたり」
- No.2 ワンダーエッグ・プライオリティ 第1話「子供の領分」
- No.3 灼熱カバディ 第1話「カバディってなんだよ」
- No.4 小林さんちのメイドラゴンS 第9話「いろいろワケがありまして(エルマざんまいです)」
- No.5 ゲッターロボ アーク 第12話「折り重なる刻」
- No.6 IDOLY PRIDE(アイドリープライド) 第1話「この一歩から」
- No.7 白い砂のアクアトープ 第16話「傷だらけの君にエールを」
- No.8 吸血鬼すぐ死ぬ 第8話「ピスピス危機一髪」「キッドナップ・カプリチオ」「キッドナップ・エレジー」
- No.9 ゾンビランドサガ リベンジ 第11話「たとえば君がいるだけで SAGA」
- No.10 のんのんびより のんすとっぷ 第1話「カエルの歌を吹いた」
- 選外候補
- 雑感
No.1 オッドタクシー 第12話「たりないふたり」
笑顔になれる作品、ワクワクする作品、うっとりする作品。物語にもたくさんの形がありますが、2021年もっともサスペンスフルな作品は?と聞いて少なからぬ人が挙げるのがこのオッドタクシーでしょう。セイウチを始め動物の姿のキャラクター達が抱かせる柔らかい印象と裏腹に展開はユーモラスであってもほんわかとはしておらず、不穏さを増していく展開と視聴者が自然と過去回を見返したくなる作りは極めて中毒性の高いエンターテイメントとして成立していました。
この魅力的な作品の中から12話を選んだのは、とにかく関口の「踏めてません、韻、韻が踏めてないです!」が印象的だったから。普段はラップで喋っているヤノがあまりの事態に動転して普通の喋りに戻ってしまったため発したものですが、「そんなことで」と思うようなこの台詞が、本作において"繰り返し(これは視聴者が繰り返し見たくなる本作のスタイルも同様)"がいかに重要かを示唆しているのが本当に素晴らしい。
ありがたいことに多くの人にレビューを見てもらえた最終回もとても良かったですが、それが書けたのはこの12話のおかげです。
No.2 ワンダーエッグ・プライオリティ 第1話「子供の領分」
2021年の問題作の一つと言えばワンエグが挙げられるでしょう。どんどんと複雑化していく問題が最終的には一切解決せず、むしろ更に複雑化して終わる。特別編を最初に見終えた時は僕もずいぶんポカンとしました。
僕にとってこの作品この1話との出会いは結構苦いもので、いつもレビューでやっている1話1話のテーマに上手くたどり着けなかったのですよね。「大戸アイはなぜオッドアイなのか」と銘打ってはみたものの、これは苦し紛れで打った逃げの一手にも等しいものでした。でも、最終的にはアイがなぜオッドアイなのか考えたことが僕の中で本作に対する納得を生む大きな武器になってくれた。
裏アカ「夢じゃ駄目か?」アカ「現実の方が良かった?」
彼女の色違いの両目は、現実とそれに匹敵する夢を見るためにある。特別編を見てたどり着いた答えを胸に見返すと、それはちゃんとこの1話の中で示されています。
10選を選ぶにあたって、自分の中で想像以上にこの作品が足跡を残していたことを再確認できました。本作の持つ独特の空気も、こうやって振り返るととても愛おしい気持ちになります。
No.3 灼熱カバディ 第1話「カバディってなんだよ」
2022年「出会った」なと思う作品を挙げるとするならこの灼カバになります。アイドルものがスポ根もののスタイルを受け継いでいるという指摘も見かけますが、考えてみるとスポーツアニメ自体はあまり見なくなってるなということで手を伸ばしてみたのがこの作品でした。
副題の「カバディってなんだよ」にこの1話はもうこれ以上なくはっきりと答えを出していて、それはコミュニケーションだと言うこと。想像と接触という人や真理を知るための2つの手段がスポーツに落とし込まれた物語が非常に秀逸で、そこには燃え展開の一言で済ませてはいけない、涙が出そうなくらい熱い灼熱がある。ネタスポーツの認識の人はぜひ見てみて、接触してみてほしいです。
No.4 小林さんちのメイドラゴンS 第9話「いろいろワケがありまして(エルマざんまいです)」
告白シーンというのは物語を見る上でもっとも盛り上がる場面の一つです。それがどういう感情であったとしても、抑えきれない思いを打ち明ける姿には飾るもののない真があり私達の胸を打つ。いっそみっともないくらいの自分をそれでもさらけ出すことが思いの証明だし、言葉で飾ることが容易くなればなるほど逆に必要になってくるものだと思います。
この9話はポンコツさまで含めて極めて優等生なエルマがそうした告白をする話であり、彼女がそうまでするからこそトールも素直にならざるを得ない。そこで生まれるバランスこそ、人が求めてやまない愛おしいものなのでしょう。今年見た一番の告白回でした。
No.5 ゲッターロボ アーク 第12話「折り重なる刻」
昔はスパロボ好きだったんですが、なんだか近年は僕の方が変わって楽しめなくなっちゃいまして。原作では死んだキャラが生存、とか仲違いしたライバルが和解、とかスパロボマジックを見せてくれてもどうも乗れない。原作に比べたら圧倒的に薄味で、完成した料理を甘口のカレーにぶち込む行為に思えてならなくなってしまいました(もっとも、普通なら「上等な料理にハチミツをブチまける」結果に終わるのでカレーにできる時点ですごいことだ)。
そのスパロボの御三家の一つであるゲッターロボについてはあまり触れる機会がなかったのですが、アニメで見たこのゲッターロボサーガ最終章は漏れ聞いていた通りそのスケールの大きさに圧倒されることしきりで。キャラクターを容赦なく使っていくスタイルとアニメ化に当たって追加・変更されたという部分のバランスも良く、とても素晴らしい形でアニメ化された作品だったと思います。
話数ベストに選んだこの12話は、激しく過去・現在・未来が入れ替わる構成それ自体がゲットマシン3機の合体変形と同じ性質を有しているというメタ的な見立てができることがもう発想として脱帽もの。號の最後を描く9話や未完の作品を未完のまま成仏させた最終回も素晴らしかったですが、これは本当に他のアニメではなかなかできないすごい回でした。意味不明にすら思える副題に、しかし一切の偽りなしです。
No.6 IDOLY PRIDE(アイドリープライド) 第1話「この一歩から」
アイプラは一言で言って珍妙なアニメでした。かわいい・格好いい少女や少年、青春を懸けた努力、葛藤の先の輝きといったもので視聴者を魅了するアイドルアニメの常道に背を向けた、鎮魂と解放に1クールを捧げたとも言える構成。それは挑戦的だが派手ではなく、評価されたとは言い難いかもしれません。けれどその足跡は確かに本作だけの道を歩んでいて、塗り替えられない唯一の輝きを持っていたと思います。
光と影、ステージと舞台裏、太陽と月……決定的に分かれているはずの2つのものがそれでも共にあろうとする話。そういう作品であることは1話ではっきり示されていたし、だから僕はこの物語と一緒に走り抜けられた。一見するとご都合主義や不合理に思える展開に理由を見つけられた最終回も個人的にスマッシュヒットですが、それはこの1話あってこそだったと思います。
No.7 白い砂のアクアトープ 第16話「傷だらけの君にエールを」
雫「ママ、かっこいい!」
オリジナルの連続2クールものがめっきり減って久しいですが、その魅力を存分に堪能させてくれているのが白い砂のアクアトープ。正直なところ最初はそれほど惹かれていなかったのですが、視聴を続けていく内に付き合い方が分かってきて読み取れるものの多さに驚かされるばかりになっています。その中でこの16話を選んだのは、知夢の息子の雫が母に投げかけた上記の言葉が彼女を救う最高の言葉だったから。
この回、知夢は水族館の仕事と育児の両立に苦しみどちらも「ごっこ遊び」になってしまっているのではないかと悩みます。最終的に子供の存在を同僚に打ち明けたところ水族館を見せてあげるよう言われ、水族館の館長が知夢は生き物達のママでもあるのだと告げたところ雫が返した反応がこの「ママ、かっこいい!」でした。
知夢「ありがとう、しずくん」
この「ママ」というのはけして、「雫のママ」に対してだけに向けられたものではないのですよね。「雫のママ」も「生き物達のママ」もかっこいいと言っているのであって、それは知夢の仕事も育児もどちらもごっこ遊びなんかじゃないという証明なわけです。きっと彼は自分がこんなことを言ったのを忘れてしまうだろうけど、知夢はずっと忘れることはないでしょう。それくらい、この言葉の持つ意味は大きいものだと思います。
また、この作品についてはナガさんのこちらの記事をぜひ紹介しておきたいです。読んだ時は正直、これで僕にできることは半分なくなっちゃったと思いました。
No.8 吸血鬼すぐ死ぬ 第8話「ピスピス危機一髪」「キッドナップ・カプリチオ」「キッドナップ・エレジー」
昨年アイドルアニメの扉を開いて以降、かわいい女の子が出るアニメを見る率もぐっと高まったのですが最近はちょっと食べ過ぎた感もありまして。今の僕には笑いが第一の作品の視聴が必要なのでは?というところに飛び込んできたのが吸死でした。いやー、毎週吹き出さずにおられず賑やかさを楽しませてもらっています。一発屋にしか見えないキャラがその後も登場し続けることで作品の世界が感じられるのもとてもいいし、毎回3本立てからテーマを考えるのも頭の体操としてやり甲斐がある。
どの回も抱腹絶倒の楽しさですが、8話を選んだのは吸血鬼・辻斬りナギリの陥った立場が非常に興味深かったから。不死身の力を失ったことが実は変化できるようになったという祝福でもあり、それがシリアス作品以外ではやっていけそうもなかったナギリにコメディでの生存(登場)の道を与えている。保身のためとはいえ吸血鬼退治人のような真似をした彼がお礼にもらった今川焼きは、本作で命脈を繋ぐためにもらったパンなのだと思います。まあ、その後も基本的に悲惨な目にしか会ってないんですけど。「ヌー」だけであらゆる感情を表現するジョン役・田村睦心の演技も素晴らしかったなあ。
No.9 ゾンビランドサガ リベンジ 第11話「たとえば君がいるだけで SAGA」
後追いで前作を追いかけ、初めてリアルタイムでの視聴となったゾンサガ2期。こうやって振り返ると改めてゾンビィ×アイドルの組み合わせと素っ頓狂なほど群を抜いた独自の展開の数々に驚かされます。純子の魅力が炸裂する4話や芸の死と蘇生を描いた5話、EDの遠い過去を描く映像に無性に切なくなる9話など素晴らしい話は色々ありますが、一番印象に残っているのはやはり11話の愛のこのカットかなと思いました。
ゾンビィの素顔が人目に入り、素直に正体を明かそうとしても子供達はさくら達をゾンビィとして認識しない。彼女達の素顔を認識しない。それは優しく温かく、しかしかつて恐怖した警官に撃たれた銃弾よりずっと残酷な否定でもあります。ゾンビィとしての素顔で生きられる場所などなく、しかしそれがアイドルなのだと引き受けるフランシュシュの姿は本当にもうなんと言うか……永遠のアイドルというのはこういうものなんだと、文字通り痛感させられた回でした。
No.10 のんのんびより のんすとっぷ 第1話「カエルの歌を吹いた」
2009年の原作連載開始、2013年のアニメ放送から好評を受け続け終了したのんのんびより。映画版を見ておらず3期での久しぶりの再会にどうなるかと思ったのですが、無用の心配でこの1話を見た時点でスッとれんげ達の世界に戻ることができました。
この1話が素敵なところは、私達に遠くから見る視点と近くから見る視点、遠景と近景を提示してくれる点です。普通なら小学生と中学生が一緒に勉強するなどありえないのですが、子供の数の少ない旭丘分校では皆が机を並べて勉強する。一方、新キャラクターのあかねはれんげ達と話して人見知りがちょっと治っただけのことが嬉しくて小さくガッツポーズする。
異なるものも遠くから見れば同じになるし、些細な違いも近くで見れば大きなものになる。田舎の景色にあかねとこのみのフルートとれんげのリコーダーが響く様は、遠景と近景の溶け合う1話の、いや本作の象徴とも言えるものでした。
遠景と近景による差異と同一化を、れんげは最終回でそれが日常なんだと気付きに至りますが、1話で示されているようにこれは人間も同じなのでしょう。どんなに絶望的に違うように見えても同じ人間だし、同じ人間であっても本当に小さなことから一人ひとりは異なっている。どんなに誰かが愚かな悪魔のように見えたとしても、どんなに相手より自分の方が「エビデンス」に基づき「客観的」に物事を見ている自信があっても、その視点は忘れてはいけないのだと思います。
選外候補
*ラ!ス!!については髙橋 優さんの批判的論考も興味深いので紹介しておきたい。
雑感
以上の10本になります。毎クール3本程度ずつ候補を考えておいてはいたのですが、いざ詰める段になると結構変化がありました。間が空いて熟成された部分があったわけで、そういう面でも秋アニメはちょっと不利だったかな。
昨年に続き今年も嫌な出来事の多い年で、科学や経済合理(だと思ってるもの)を「暴走させていい正義」みたいに扱う考えもずいぶん広まってしまったなと感じるのですが、そんな中でも良い作品にたくさん会えたことは救いでした。来年はジョジョ6部や平家物語の地上波放送もありますし、また色々なことをアニメから見つけられると嬉しいです。
<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>
話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選https://t.co/buFEa2dxV7
— 闇鍋はにわ (@livewire891) December 11, 2021
今年も10本選びました。#TVアニメ話数10選2021#アニメとおどろう