時という名のゲットマシン――「ゲッターロボ アーク」12話レビュー&感想

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
時の因果を破壊する「ゲッターロボ アーク」。12話の副題は「折り重なる刻」……意味深と言うより意味不明とすら思えるこのタイトルは、しかし正鵠を射ている。今回のレビューではそれを解き明かしていこう。
 
 

ゲッターロボ アーク 第12話「折り重なる刻」

アンドロメダ流国との戦闘の最中、宇宙空間ではぐれたカムイ。一方、敵の自爆から逃れるため、アークで行先もわからない転位ポイントに飛び込んだ拓馬と獏は不思議な空間を漂っていた。カムイ、獏、拓馬……。同じ未来を視ながら、それまでの因縁によって異なる道を選択する三人。アンドロメダ流国の進撃が止まり、閉鎖された早乙女研究所で彼らの帰りを待つ神隼人。共通の敵が倒れれば、相容れることのない思いの先に、新たな衝突が起こることを隼人は予見していた。
 
 

1.バグはオーパーツなのか?

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
ハン博士「馬鹿な、こんなものが何万年も前の地層から出てきたじゃと!?」
 
今回の本編は、ハン博士が超兵器バグを発見する場面から始まる。前回マクドナルドがスターボーダーで送り込んだバグは現代ではなく何万年も前の地球に届き、結果としてオーパーツと化していた。
"オーパーツ"とは「out-of-place artifacts(場違いな工芸品)」の略称であり、本来その年代には存在しないはずの高い技術で作られた過去の遺物を指す。有名な水晶髑髏などは後世の模造品であることが分かっているが、「未来の世界で作られ何万年も前の過去に送られたもの」はオーパーツと言えるだろうか?……多くの人は、考えるだけ馬鹿らしいと思うだろう。過去から現代に現れた未来の遺産バグは、それら時間の関わる定義を全く破壊してしまっている。
 
 

2.破壊される時系列

時間の破壊。それに目を向けた時、破壊されているのはけしてオーパーツの扱いだけではない。順に並べてみれば、この12話は劇中の時間の流れもまたメチャクチャに破壊されているからだ。
 
<アバン>

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
前回から時間が飛び、拓馬とカムイが戦う様子が描かれる
 
<Aパート>

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
時間が戻り、ハン博士がオーパーツを発見
時間が飛び、恐竜帝国でクーデターが発生
時間が前回の続きに戻り、カムイとゲッターザウルスがスターボーダーに飲み込まれる
拓馬と獏のゲッター空間での会話
時間が飛び、恐竜帝国のクーデターの続き。カムイの反乱が明かされる
 
<Bパート>

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
カムイがゴール三世に未来での経験を語る
時間が流れ、恐竜帝国が人類に宣戦布告
時間が戻り、未来から帰還したカムイがハン博士にゲッター打倒の決意を告げる
時間が飛び、恐竜帝国が早乙女研究所を襲撃
アバンの拓馬vsカムイには結局たどり着かない
 
……並べてみると、意地悪にすら思えるほど複雑だ。しかもこれは拓馬達を中心とした時系列の整理であって、これらの描写の一部は現代より遥か未来の出来事なのである。私達がさほど混乱せずに済むのは、アバンで拓馬vsカムイという未来を既に経験して――過去にしているからに他ならない。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
カムイ「このまま人類の進化を許せば宇宙は消滅する。拓馬、お前はそのことをよく知っているはずだ」

 

未来を過去にする。奇妙な言葉だがこれは時空転移した拓馬達も、先述したように拓馬とカムイの戦いを先行して知っている私達も経験している現実だ。「過去・現在・未来」の3つはこの順番に固定されていると思われがちだが、意外と簡単に入れ替えられるものなのである。
 
さて、ここで唐突だがクイズを出そう。3つのものの組み合わせでできていて、順番を入れ替えることで特性を変化させるものは何か?……本作を見ている人には愚問だろう。そう、ゲッターロボ・・・・・・だ。
 
 

3.時と言う名のゲットマシン

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
ゲッターロボは3機のゲットマシンが合体し、その順番が入れ替わることで特性を変化させる。ならば時間軸が複雑に交差するこの12話とは、過去・現在・未来の3機のゲットマシンが激しく変形合体を繰り返している姿に他ならない。
スケールの大きさに僕も頭がジョジョ3部のポルナレフになりそうなのだが、事実、人類が宇宙を侵略する未来を自らの過去(体験)としたことは拓馬達の運命を大きく変えている。獏は予知能力という未来を現在に感じる力によって拓馬と共には帰還せず、未来を変えようとカムイが戦うことで人類とハチュウ人類は再び戦いを繰り返し、拓馬は経験した未来を良しとせずともゲッターを操る者の宿命(繰り返されてきた、そして繰り返していくであろうもの)自体は受け入れカムイと矛を交える。これらはどれも、拓馬達が未来を見た結果変わったことだ。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
竜馬「拓馬!行くがいい!」
 
繰り返したくない未来のために現在で繰り返される過去の戦いはしかし、過去にも現在にも未来にも無かった新しい何かを生み出すだろう。
アークのゲットマシンに揃わずとも拓馬達3人が時の合体変形を繰り返すこの12話は、まさしく「折り重なる刻」なのだ。
 
 

感想

というわけでゲッターロボアークの12話レビューでした。この構造は石川賢原作の時点であったのか、川越淳監督が思いついたのか、シリーズ構成の早川正氏の提案なのか、それともお三方の変形合体か?ともかくこんなものどうやったら思いつくんでしょう(解釈するのとはわけが違う)。ゲッター線の導きとしか……2話でゲッターロボが3機合体の理由が分かったとはしゃいでいた僕ですが、まさか時間がゲットマシンになるとか想像もせなんだ。ゲッター曼荼羅といいどこまでいくのか。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
あとレビューでは書きそびれましたが、すごく面白かったのが今回突然正気を取り戻すバット将軍で。すっかりボケたはずの彼が正気を取り戻すというのは、つまり彼の過去・現在・未来が入れ替わってるってことなんですよね。少ない登場でもしっかり仕事してる。すごい。それと敷島博士は死んでるのか生きてるのか。次回首だけで出てきても驚かんぞ。
 
本作の壮大さ、他のアニメとは脳みその別の部分を使う感じでたまらなく面白いです。さあ次回、未完の戦いはどんな合体変形を見せてくれるのか!?
 
 

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