抗わず、従わず――「ゲッターロボ アーク」8話レビュー&感想

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
人と竜が歩む「ゲッターロボ アーク」。前回突如人類のパートナーとして浮上した恐竜帝国だが、8話ではその体制が見えてくる。果たして恐竜帝国はどのような国家なのか、そしてそれに対する拓馬の行動の持つ意味とは?
 
 

ゲッターロボ アーク 第8話「竜の血 人の心」

〝ジュラ・デッド作戦〟が発動するまで恐竜帝国の指揮下に組み込まれ戦うことになったアークチーム。不満はあるがカムイの真意も気になり、命令に従うしかない拓馬。一方、橘翔は〝黒い真ゲッター〟の正体を確認するため戦場に赴く。恐竜帝国では〝ジュラ・デッド作戦〟の成功を祈願して出陣式を行うことに。ハン博士からカムイの過去を聞かされた拓馬は、カムイとカムイの母が気兼ねなく堂々と逢えるよう一計を案ずる。

1.順番を重んじる国、恐竜帝国

初代ゲッターロボでの敵対勢力から、全面的な信用はなくとも協力者に立場を変えた恐竜帝国。必然として、その国家像はいわゆる悪の帝国から変貌を遂げている。今回の描写から見えてくるのは恐竜帝国はしきたりを重んじる国――「順番」を重んじる国であることだ。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
ゴール三世「亜空間固定装置ゾルドの最終組立を許可する」
ハン「ははっ、承知いたしました」

 

前回も示唆されていたが、恐竜帝国という国家は古来からの体制を色濃く残している。帝政や階級制度、市民の暮らしの格差……ハン博士も完成した亜空間固定装置の最終組立には皇帝への報告という「儀式」を経なければならない。ゲッター線により地上から追いやられても彼らの科学が進歩を続けてきた事実は、その体制が揺らぐことのなかった証明である。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
ハン「カムイは正真正銘帝王の血族。人工的なものではあるが、生物学的にはゴール三世の弟。この恐竜帝国の第二王子なのじゃ」
 
しきたりを重んじる国で重視されるのは何か?それは「順番」だ。君臣の順、長幼の序といったものは全てが順番であり、人間関係もまた順番が重視される。初めて会う相手との間で重視されるのはどちらが上か下かであり、また一度決まったそれを覆さんとする者は危険分子に等しい。今回はカムイがなんとゴール三世の弟なのだと明かされるが、人工的に作られた彼がそれでも第二王子として認識されているのもその伝統的な「順番」意識の産物と言える。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
拓馬「おかしいじゃねえか。人質とはいえ同じ帝国内で話もできねえなんて!」
 
ゴール三世にとってカムイの存在は悩ましい。自分の立場を、順番を脅かしかねないと同時に、ハチュウ人類と人間のハーフである彼は恐竜帝国の未来を切り開く鍵としての可能性も持っている。母親を人質に取りつつ厚遇をチラつかせて従わせようとするのは、鍵としての利用と上下関係の維持を両立する実に恐竜帝国らしい対処なのだ。
ただし拓馬はゴール三世のそのやりように、大きな怒りを覚える。カムイの母親は拉致されてきた身の上に加えて息子との会話すらロクに許されていない。それはお天道様とでも呼ぶべき道理、すなわちこれまた「順番」に背いているのではないかと拓馬は憤るのである。
 
 

2.抗わず、従わず

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
ハン「くっ、カマをかけたのかこの悪童が!」
 
憤りの内容そのまま、拓馬の考える道理は、順番はシンプルだ。しかし世の中がそれだけで済むものではないのもまた事実である。ハン博士はカムイの母を始めとした人間をどうにか助けたいと奔走したがそれはゴール三世にも嘘をついてのものだったし、拓馬自身もハン博士に真実を語らせるためにカマをかけたりしている。ゴール三世とカムイの兄弟関係を知れば、拓馬も単純な直談判するのは止めざるを得ない。
順番を重んじる国で歪んでいる順番に、いかにして対処したら良いか?――答えのヒントはゲッターザウルスのパイロット・バイスと拓馬の喧嘩の始末にある。
 
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
バイス「あの程度の敵に手を焼くような奴が偉そうにするんじゃねえ! 戦うなら俺達の指示に従え!」
拓馬「バカ言ってんじゃねえ、トカゲ野郎!」

 

バイスは不甲斐ない動きを見せたゲッターアークに自分達の指示に従うよう言い、拓馬は当然それに従わない。簡単に言えばこれもどちらが上か下かの「順番」争いだ。しかしこの喧嘩は、カムイが仲裁に入ったことで終わる。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
カムイ「さっきの戦闘でもたついたのは私のミスだ、すまない。双方とも収めてくれ」
 
不甲斐ない動きの原因がバイスの幼馴染のカムイのミスであると言われれば、バイスも拓馬も上下の順番を決める喧嘩の理由はなくなり矛を収めざるを得ない。これはある種の「合体」だ。ゲットマシンが3機でゲッターロボになるように、バイスと拓馬だけではぶつかるしかなかった話がカムイの加入でまとまったのである。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
拓馬「カムイ、人間を入れてもいいだろう?俺たちだけじゃ寂しいや」
 
2人でなく3人なら単純な上下にはならず、またそれを覆すことにもならない。拓馬はこの方法を使いカムイと母親の間で果たされぬ順番を正してみせる。恐竜帝国が開いた出陣式を逆に利用し、何も知らないフリをして母親をカムイの前に連れ出したのである。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
ゴール三世「ぬぅぅぅ~~~っ!」
ハン「あちゃあ……」

 

もしカムイがやればこれはゴール三世への、「順番」への反逆だが、何も知らない拓馬を加えた3人でなら見かけ上の順番は壊れない。何より拓馬は恐竜帝国を称揚し、出陣式というしきたりを一切崩すことなくそれを行っている。怒りに任せ咎めれば、ゴール三世こそが順番を崩してしまう。順番を重視する恐竜帝国の帝王だからこそ怒れない自縄自縛を用いて、拓馬は母子の順番を取り戻してみせたのだった。
抗わず、しかし従わず。拓馬のこのやりようはきっと、大いなる運命(順番)とも言えるゲッター線との関係とも無縁ではないだろう。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所
翔「お前はいつもそうだ。いつの間にか私達を追い抜いて」
 
2人ならば上下にしかならず、3人であれば歪んだ順番を破壊することなく正せる。この法則は実は、號と翔の関係にも当てはまっている。號の乗るブラック真ゲッターは1人乗りであり、連戦に疲弊しようと誰に変わることもできない。そもそもかつてゲッターロボ號を駆った彼のチームは、今は號と翔の2人しか残っていないのだ。だから翔には、消えゆくさだめだからと戦いを続ける號に何をしてやることもできない。19年前と順番の変わらぬ状況を、見ていることしかできない。
もし孤軍奮闘を続ける號に救いの手を差し伸べられるとしたら、それもおそらく「3人」であることではないか。今回登場したゲッターザウルスはアークと共に「3人」を作ることができるのではないか。間もなく命尽きることを自覚している彼に希望ある終わりが訪れることを、期待せずにはいられない。
 
 

感想

というわけでゲッターロボアークの8話レビューでした。3話や6話のレビューを援用して読み解きをやってみた感じです。こうやってみると拓馬が凄くいい奴で、好きになれる主人公だなあと思います。なかなかできるもんじゃない。
コーメイが恐竜帝国を襲撃し、敵地に乗り込む前に大ピンチ!というおなじみの展開ですが、拓馬達はこれをどうやって乗り切るのか。楽しみです。
 

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©永井豪石川賢/ダイナミック企画・真早乙女研究所 「ゲッターロボアーク」4話より
それにしてもゲッターザウルスの3人、カムイの幼馴染って4話のこれか。面影あるな!
 
 

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