繰り返しから紡ぎ直しへ――「SK∞ エスケーエイト」12話レビュー&感想

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
いくつもの∞を描き続けた「SK∞ エスケーエイト」。愛抱夢との決戦前、歴とランガは最初に滑った時を思い出す。回想とは過去を∞に振り返る行為であり、この良き繰り返し、紡ぎ直しへの道のりが本作の最後の戦いとなる。
 
 

SK∞ エスケーエイト 第12話(最終回)「俺たちの無限大!」

 

菊池の棄権により愛抱夢の対戦相手はランガで決まった。愛抱夢とのビーフに向かう暦とランガはある約束を交わす。愛抱夢vsランガの決勝戦が今ここに始まる──!!
 
 

1.繰り返しからは逃れられない

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
チェリー「Sが始まった当初使っていたコースだ」
ジョー「だが危険過ぎて禁止になった」

  

山頂から廃工場へのコースを"繰り返して"きたSだが、ランガと愛抱夢の決勝は別の場所で行われまた愛抱夢は新たな装いで現れる。視覚的には最後の戦いに相応しい新しいもの尽くしだが、実際のところこれらは新しいものではない。コースはかつて使用されていたものだし、愛抱夢の衣装はより他人から理解し難いもの(というより理解を拒むもの)になっただけだ。過去に幾度も起きたであろうクラッシュを常に想起させるこのコースが示すように、そこにあるのはマイナスの∞――「悪しき繰り返し」である。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
ランガ「これは、あの時一瞬だけ見えた……!?」
 
繰り返しを定められたコースで発生するのは、やはり繰り返し以外のものではない。ランガと愛抱夢のビーフは中断されたとは言え過去に一度行われているし、二人のゾーンへの突入やその危険性もこれまでの話で描かれている。ランガが再び「堕ち」かけるのも、それが過去に父を失った時の感覚の繰り返しだからだ。
「悪しき繰り返し」、すなわち負の連鎖を断ち切るのは難しい。理不尽な指導を受けて育った人間が後輩にも同じように指導してしまうように、虐待された子供は自分の子供にも虐待をしてしまうケースがままあるように、嘘をつけば更に嘘が必要になるように、人は過ちを繰り返す。本作においてもっとも深くそれを背負っているのは愛抱夢で、彼は失意と絶望の繰り返しに疲れ切っている。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
愛抱夢「君も僕の前から消えるのか、ランガァ!」
 

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愛抱夢「フッ、仲間になどいずれ裏切られる。他人なんてあやふやなものを信じたがるのは君がまだ子供だからだ!」
 
最後の戦いに臨む愛抱夢の仮面は10本の指で構成されている。それは彼の心の両手であり、失意と絶望の繰り返しに満ちた世界から目を覆うための嘆きの仮面だ。自分と等しいイヴを得ればその繰り返しから抜け出せるのではと、過去を断ち切れるのではと考える彼の発想はしかし、その時点で繰り返しから抜け出せていない。なぜならランガと共に堕ちるには、ランガを自分と同じく堕とさねばならない。自分の経験を彼に繰り返させなければ・・・・・・・・・ならないからだ。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
「悪しき繰り返し」に打ちひしがれてそこからの逃避を願っても、それすら繰り返しにしかならない。過去を断ち切ることはできない。ではどうしたらいいのか? 答えはもちろん、彼を救うランガの姿にこそある。
 
 

2.繰り返しから紡ぎ直しへ 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
オリバー「Are you having fun? My son!(息子よ、楽しんでるかい?)」
ランガ「Of course.Dad!(もちろんだよ、父さん!)」

 

コースの破損とゾーンへの突入で物理的にも精神的にも「堕ち」かけたランガを救ったのは、新しいロジックではない。スケートボードに加えられた「FUN」をきっかけとした回想……既にランガや皆から教わっていた"楽しさ"の繰り返しだ。そしてそれは、沖縄に来て初めて知ったものですらない。亡き父と一緒にスノーボードで滑った時に抱いた感覚と同じ、既に経験していた感覚を紡ぎ直したものだった。愛抱夢が断ち切れぬ繰り返しに絶望したのに対し、ランガはそこから希望をこそ拾い上げたのだ。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
ランガ「滑ろう。一人じゃ楽しくない!」
 

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忠「一緒に滑りませんか?」
 
再開したビーフの中で、愛抱夢はランガそして彼との滑りにかつて忠と過ごした時間を思い出す。彼はそれを、もうとっくに捨ててしまったと思っていた。「悪しき繰り返し」の中で失われたと思っていた感情を、忠とは全く関係ないはずのランガの中に見つけ出していた。一度途切れた彼と忠の∞は、ランガを通して再び紡がれたのだ。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
愛之助「首輪を外してやると思ったか?お前は一生、僕の犬だ」
忠「……はい!」

  

人は過去の繰り返しから逃れられない。しかし良き過去を紡ぎ直すことはできる。ジョーとチェリーが仲良く喧嘩を繰り返すように。恋に敗れてもシャドウがシャドウであり続けるように。実也が旧友から再び励ましを受けるように。侮蔑だった「犬」という表現が、愛之助と忠の間で異なる意味を持って再び使われるように。
ランガもまた、1話の歴の独白を繰り返し彼のもとへ向かう。幻となった歴との決勝が紡ぎ直されるその瞬間にあるものこそは∞の交点、本作の描く最高の幸せだ。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
歴「やっと約束を果たせるな」
ランガ「ああ、俺達の幻の決勝戦!」
歴「手ぇ抜くなよ?」
ランガ「そっちこそ!」
歴・ランガ「レディ……!」

 

 繰り返しではなく紡ぎ直しの先にこそ、夜明けは待っているのである。

 
 

感想

というわけでエスケーエイトの12話感想でした。「∞は交差する度強くなる」と何度も書いてきましたが、その正負を「紡ぎ直し」「繰り返し」で分けられたのが今回のレビューの一番の成果かなと思います。繰り返しにしかならない絶望を抱いている人に輝いて見える作品だったのではないかなと。
 
本作のレビューでは自分の未熟さを痛感しましたが、振り返ってみるとこれも繰り返しの絶望へのもがきだったのかなと思います。「アニメには一話一話テーマがある」を信条にレビューを続けている僕ですが、最近は「同じことしか書けない」悩みがあったんですよね。ともするとすぐ「自他の境界線」をテーマにしたレビューになりがちで、それが自分で作品の個性を殺しているように感じてしまう。作品をまたいだ共通点ではなく、単に自分の見方が浅いだけではないかという疑念から逃れられない。壁にぶつかっているとだけ思っていたのですが、これは愛抱夢と同じように繰り返しに失望している状態だったのでしょう。で、突飛なことをやってみて失敗したりすると。
 
必要なのは繰り返すのではなく、紡ぎ直すこと。おそらく、僕1人が今持っている概念化(捉え方)の能力は限界にぶつかっていて、だから読み解きも似通った繰り返しになってしまう。けれど世の中にはもっともっと多くの捉え方があって、それを吸収できたら読み解きの姿も変えられる。紡ぎ直せる。まあ具体的にはもっと本を、それも批評的な本を読めって話ですね。他人(本)の捉え方考え方を自分のものにするって、それこそ捉え方考え方を自分の中で「紡ぎ直す」ことなわけですし。
 
赤っ恥かいたりウジウジ悩んだりもしましたが、この作品を見て良かったです。スケートは楽しい、アニメレビューは楽しい。だから見て書く。歴の悩みは僕の悩みでもあった。
必要としていた経験をさせてもらいました。スタッフの皆様、ありがとうございました。
 
 
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