はみ出るべきは――「SK∞ エスケーエイト」6話レビュー&感想

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
レースとともにお話も一休み、「SK∞ エスケーエイト」6話。沖縄本島ではなく宮古島へと"はみ出た"舞台で描かれるのもまた"はみ出た"もの。今回ははみ出ることの奇妙を笑って包むお話だ。
 
 

SK∞ エスケーエイト 第6話「湯けむりミステリースケート?!」

 
湯治のために宮古島へやってきた暦は、ランガたちと秘湯までの道のりを誰が一番先に着くかビーフをすることに。そんな彼らへと迫る怪しげな影。どうやら、島に何かが“出る”という噂だが…?
 
 

1.人の心ははみ出るもの

今回の舞台が沖縄本島から"はみ出た"ことは最初に触れたが、はみ出るものはそれだけではない。例えば歴は冒頭、湯治などジジくさいと乗り気でなかったように言うけれども、カレンダーについた花丸からも口ぶりからも彼が期待していたことはバレバレだ。その気持ちは"はみ出て"いる。
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞

 
人も世界も、ピッタリ合っているようではみ出ているものには事欠かない。例えば愛之介は仮面を被っている時以外は愛抱夢としての自分を隠しているつもりでも、閃いたアイディアに心躍った様からはその本性がはみ出ている。
ワイワイとした宮古島のやりとりでの中の歴の描写も"はみ出て"いて、皆が楽しくはしゃいでいる中で彼だけは時折不安を滲ませる。メキメキと上達したランガに置いていかれる懸念をはみ出させる。秘湯をゴールとしたビーフで彼は幽霊怖さに取り残されるが、天才集団の中の凡人たる彼が遅れる姿は置いていかれる恐れが仮想的に現れたものと言えるだろう。
 
 

2.はみ出ているようでいないもの

ズレたものはみ出たものをぴったり合わせ直すのは容易ではない。歴がランガのように上達するのは生半なことではないし、怪我を心配したランガが戻ってきても歴はそこに劣等感を覚えてしまう。もう一度同じようには、なかなか戻らない。けれど、ぴったりでなければいけないものだろうか?
 

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
宮古島に集合した面々は別に、同じ目的で集まったわけではない。湯治、付添、子守、バカンス、仕事とバラバラにも関わらず彼らは集って、そして何をするかと言えばいつものように滑っている。ところが変わっても、ぴったり合わなくとも彼らがしていることはいつもと変わりない。
そういう大雑把な意味での等しさの極致が祭神パーントゥによる泥塗りで、暴風のようなその暴れっぷりの前にはあらゆる違いが無効化されていく。怖かろうが臭かろうが逃げたくなるのは同じだし、別ルートを通り温泉に浸かっていたジョーとチェリー(彼ら自身も互いが違う存在であることを主張している)すら泥塗りの祝福から逃れることは叶わなかった。それらの違いは実際のところ、結果を左右するようなズレ(はみ出し)ではなかったのだ。
 
 

3.はみ出るべきは

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©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
置いていかれたくない歴の気持ちをジョーが自分にもあるものとして肯定したように、臭いのが問題なのは花屋もレストランも同じように、人が思い悩むことは違っているようでも案外変わらない。はみ出てしまっていると気にするものは案外、些細で意味を持たない。
大事な違いはもっと別のところにある。けが人だからとランガが歴に差し伸べた手は劣等感を刺激したが、パーントゥに突かれて点灯しそうになった歴を助け起こした行為はむしろ彼を安心させた。あまり変わらないようで、憐れみと支えの微妙な違いがそこにはあった。大雑把な等しさを"はみ出る"ものがあった。
 
物語の終わり、愛抱夢はメインデイッシュたるランガを美味しく味わうべくトーナメントを企画する。彼にとってランガ以外の人間は等しくオードブルでしかないわけだが――歴達はきっと、彼の等しさの傲慢な押し付けからはみ出すことだろう。
 
 

感想

というわけでエスケーエイトの6話レビューでした。ランガを引き止めるべく歴が通報したのではという前回の想像は大きく外れ、お恥ずかしい姿をお見せすることに。
今回は「はみ出る」というワードは割と早期に浮かんだものの、パーントゥの泥塗りをどう解釈したのかに悩みました。結果的にランガに助けられることに対する歴の反応の違いを自分なりに解釈できたので良かったかな。できれば交差や∞も絡められるともっと良かったのですが。
 
トーナメント開催ということで、後半は実に少年漫画らしいシチュエーションになりそう。組み合わせの妙なども含めて楽しみです。