盤外の手ほどき――「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」第1章レビュー&感想

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© Princess Principal Film Project
コロナ禍による延期を越えいよいよ公開となった「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」。第1章では重要人物となるウィンストンとアンジェがチェスを打つ場面がある。実際の棋譜を引用するほど力の入ったそれはけして、一時の場面ではない。今回はすべてが「2人」のチェス勝負なのである。
 
 

プリンセス・プリンシパル Crown Handler 第1章

 
19世紀末ロンドン。共和国のスパイ集団であるチーム白鳩に新たな任務が課せられた。
それはとある古本屋店主の共和国への受け渡し。王国により拘置所に拘束されていた古本屋店主をアンジェとドロシー、ちせの連携で奪還に成功する。
 
一方その頃、王国では女王暗殺未遂事件を契機に“スパイ狩り”が激しさを増し、共和国側のコントロールでは緊張が張り詰めていた。コントロールは、王国王室に派遣しているスパイが“二重スパイ”である可能性があると推測。真相を探るため、チーム白鳩に王室内に送り込んでいるスパイ、コードネーム“ビショップ”との接触を命じる。
 
果たして、新たな任務の行方は。そして“ビショップ”とは何者なのか―――

 (公式サイトあらすじより)

  

 
 

1.二重スパイにして二重の先達"ビショップ"

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© Princess Principal Film Project
老人とは人生の先達である。内容の是非はさておき経験ほど人に何かを教えるものはなく、知恵も知識も蓄えの多さは大きな武器となる。共和国のスパイ組織「コントロール」が送り込んだ王室内のスパイ"ビショップ"の正体であるウィンストンは、そういう先達の強みを存分に感じさせるキャラクターだ。ひと目見てアンジェの正体がシャーロットと気付き、ドロシー達の備考を見事に煙に巻いて未熟さを指摘してみせる。序盤の彼は、アンジェ達チーム白鳩を見事に手玉に取っている。
命のやりとりならチーム白鳩はウィンストンに全滅させられているところだが、(少なくとも表面上)味方である彼はあくまで指摘しかしない。指摘されたなら、アンジェ達も当然行動を改める。言ってみればこれは手ほどきだ。彼はスパイの先達としてアンジェ達に、かつてプリンセスにチェスを教えた時のように手ほどきをしているのである。
 
ウィンストンのスパイとしての先達ぶりは能力だけでなく、"立場"においても同様だ。彼にかかった二重スパイの容疑は事実だったが、そもそもアンジェとプリンセスにしてからがある種の二重スパイだからである。
組織的な雇い主こそ持たないが、2人はかつての革命の際に自分達が入れ替わってしまったことを他の誰にも明かしていない。表向きは共和国のスパイとして動きながら、その実はロンドンに具現化した「壁」を壊そうとしている。
裏の顔の更に裏の顔を持つウィンストンは、同じように表裏を重ねるアンジェとプリンセスにとって二重の意味で先達なのだと言えるだろう。
 
 

2.生き様という手ほどき

人はやがて衰え、その能力はより年若な者に抜かれていく。当初はその老獪さでアンジェ達をあしらったウィンストンもまた、例外ではない。彼はアンジェ達に自分の使っていた暗号をとうとう見抜かれ、逆に出し抜かれてしまう。現実のチェスでは勝ったが、スパイとしてのチェスではとうとう敗れてしまった。
しかし先に述べたように、ウィンストンが先達であるのはけして能力に限らない。アンジェ達にとって二重スパイの先達でもある彼の末路は、その身をもって自分達に待ち受ける過酷な運命を暗示してみせる。つき続けた嘘は自分の人格も立場も危うくし、最後は己の命を奪う。入れ替わりを口外しない見返りに逃亡を手助けしたアンジェの心遣いも虚しく、彼は"雇い主"の刺客の放った凶弾に斃れることとなった。
 
ウィンストンの選んだ人生はけして「正解」ではない。しかし正解だけが人生の先達から学ぶことではないはずだ。「望んだものが望む形で手に入るとは限らない」……彼が長い人生で学んだ教訓は、アンジェの心に何かをもたらすだろう。プリンセスと共に目指す未来への道に、きっと何かを指し示すだろう。
人が先達から学ぶものとは、知識や知恵だけではない。過ちを含めた生き様もまた、先達は遺すことができる。アンジェ達が味わった寂しさとは、人生の先達とのチェス(手ほどき)が終わってしまった寂しさであった。
 
 

感想

というわけで劇場版プリプリ第1章のレビューでした。確認したらTV版が2017年夏アニメですか、ほぼ3年半ぶりになりますね。再放送を見る余力がなかったこともあり、細かい事情の記憶があちこち怪しい……このままだとちょっとまずいかなあ。しかし6話をもう1回見るのは想像するだけで辛い。
 
アクションも序盤用意しつつ、暗闘の妙味をたっぷり味わえるとても内容でした。秋の第2章公開、お待ちしてます。秋と言っても晩秋だとまた延期を強いられる恐れも考えられるので、早めに見られますよう……