女王の鍵――「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」第3章レビュー&感想

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2021年秋の第2章から1年半を空けての新章となった「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」。第3章ではプリンセスが選択を迫られる。選択のためには、彼女は鍵を見つけなくてはならない。
*ネタバレ注意
 

プリンセス・プリンシパル Crown Handler」第3章

暗殺された王位継承権第一位のエドワード王子の葬儀が執り行われる中、アルビオン王国の貴族たちは王位継承権第二位のメアリー王女、同三位のアーカム公・リチャード王子のどちらが王位を継ぐか、ノルマンディー公がどう動くのか、という話題で持ち切りだ。
 
アーカム公はプリンセスに、自分とノルマンディー公どちら側につくか問う。あらゆる民族が平等になる世界へと修正することを願いながらも、エドワード暗殺の黒幕であるアーカム公に、プリンセスは心が揺れる。そんな中、共和国のコントロールから王室の情勢を探るべく、アンジェとドロシーにメアリーの侍女として潜入任務が下る。王位継承権第一位となった重圧に押しつぶされ疲弊するメアリー。混沌とする王位継承の行方、アーカム公の陰謀がついに動き出す―。
 
アルビオン王国に蠢く闇が、チーム白鳩を呑み込んでいく――。

公式サイトあらすじより)

 

1.王国と王族

次期国王となるはずだったエドワード王子が暗殺されるありうべからざる事態を迎えたアルビオン王国。「プリンセス・プリンシパル Crown Handler」第3章はその葬儀から始まるが、参列する貴族達が関心を向けるのは自分達が次にどうすべきかの選択についてだ。もっとも優先的な王位継承権を持つのはメアリー王女だが幼い少女に過ぎず、国の舵取りを考えれば新大陸を平定した次席のリチャード王子が相応しく思える。しかしそれは国内の政治を仕切るノルマンディー公の意に反しているから両者の対立は免れない。どちらにつくかで自分達の未来が大きく変わってしまうのだから、彼らが慎重になるのは無理もない。
貴族達は選択を迫られている。そして、これは主要人物の一人であるプリンセスも同様だ。
 
プリンセスはリチャード王子に次ぐ王位継承権の持ち主だが、様々な事情あって現在は王国と対立するアルビオン共和国のスパイを務めている。そして彼女は第2章の終わりで偶然にもエドワード暗殺の首謀者がリチャード王子であるのを知り、彼から自分とノルマンディー公のどちらにつくか選択を迫られてしまった。そう、これは先の葬儀での状況と同じだ。プリンセスの立場は選択を迫られる王国の貴族達、ひいては王国そのものの選択と重ね合わせられているのである。
 
王族は国を象徴する存在であるから、彼らは個人であって個人たり得ない。例えば新大陸を見てきたリチャードはアルビオン王国が覇権を握る時代が終わりつつあると理解しているがこれは病床の現女王が悟る自分の死期とシンクロしているし、リチャードは自分とノルマンディー公の対立を革新派と守旧派の対立と解釈している。では王国と共和国を、いや世界の人々を隔てる「壁」をなくしたいと願う自分はどうすべきか――プリンセスが迫られる選択は単に身の安全の問題ではなく、極めて思想的な決断を伴っていると言えるだろう。そして彼女の迷いもまた、彼女一人だけのものに留まらない。それを仮託されるのが今回の主要人物と言える少女、メアリー王女だ。
 
 

2.女王の鍵

メアリーは第2章から登場した少女である。エドワードの死に伴い次期女王の座を約束された、アルビオン王国を背負って立つ存在――だがその肩書は彼女の実体と合ってはいない。10歳にもなるかならないかという幼い子供にとって王族としての生活は非常にプレッシャーに満ちたもので、第2章ではプライベートな場面でも王族として振る舞わなければならないと思うほど追い詰められてしまっていた程だ。プリンセスはそんなメアリーを放っておけず、自分と同じチームの一員、本来プリンセスであった・・・・・・・・・・・・・・・アンジェに「まるで昔のあなたみたい」だと語っているが、つまりプリンセスにとってメアリーもまた一個人に留まらない存在感を持つ。メアリーはプリンセスにとって自分の原点、いや、「壁」をなくしたい願いの象徴である。
 
メアリーは守旧的な現在の王国では幸せになれない。厳格な指導を受けて息の詰まるような生活を強いられた彼女は窓から部屋を抜け出して死にかけるほど自分の立場に耐えかねている。だが、革新的なリチャードであれば彼女を救ってくれるかと言えばそれもまた間違いだ。彼にとって権力争いはゲーム的に解釈されるものだから、不要な手駒となればリチャードは躊躇いなくメアリーの命を奪うだろう。事実、未遂にこそ終わったが彼はその暗殺を命じてもいる*1
 
革新か? 守旧か? どちらも選べないプリンセスはメアリーを――自分の願いを――共和国へ亡命させようとする。だが彼女がリチャードに選択の返答をしていない状況が示すように、これは単なる逃避に過ぎず、答えと呼べるほどの力は宿っていない。「壁」を壊す道筋たり得ない。だからこの第3章では作戦は失敗し、彼女達のスパイチーム白鳩は全員が王国に捕まってしまう大ピンチに陥ってしまうのだ。プリンセスは共和国のスパイとノルマンディー公にバレてしまう最悪な状況に陥るが、これはどっちつかずを続けた彼女の思想的な行き詰まりを象徴していると言えるだろう。
 
序盤で仲間の一人ドロシーに指摘されるように、プリンセスの考えは甘い。彼女は女王になって「壁」を壊したい夢を持っているが、その道は手を汚すことなく叶うようなものではない。目的のためなら躊躇いなく人を切り捨てるノルマンディー公や、親族であろうと容赦なく殺すリチャードのようなやり方を採る方が断然効率的である。だが彼女の願いはそういうことの無い世界なのだから、スパイにはなっても彼らのようには振る舞えない。リチャードに迫られた二択は選びようが無かったというのが実情であろう。いや、選んだならその時、彼女はただの権力争いの人形に堕していたはずだ。
プリンセスが陥った囚われの状況は、思想的行き詰まりは彼女に飛躍を求めている。リチャードとノルマンディー公という、対立しているようで人への冷酷さ*2においては変わらぬ2人とは違う新たな道を見つけなければ、「壁」を壊したい願いの成就など夢のまた夢である。
 
プリンセスは鍵を見つけなくてはならない。今の状況を脱するために必要な鍵は、彼女が真の意味で女王となるために欠かせぬ鍵でもあるのだ。
 
 

感想

というわけでプリプリの映画3章レビューでした。公開日は4/7(金)でしたが、春期は金~月は映画に行く予定が立てられない(TVアニメのレビューで手一杯)だったので本日4/12(水)に。観終わった時はボンヤリした印象で書けるかどうか不安だったのですが、プリンセスの選択と状況が重ね合わせられるなと思いついてからはすんなり整理ができました。繰り返し視聴すると味わいの深まるタイプの回だったと思います。
 
さてさて、本作は全6章なのでこれでまだ半分。今後どういう構図が見えてくるのかますます楽しみです。そして今回もレビューで触れる余地がなかったのですがちせ殿が大変かわいらしゅうございました。頭の花飾りを見る度にキュンとしてしまいます。
 

*1:確実に仕留めてくれるという部下を用いなかったあたり、プリンセスに決断を迫るのが主目的ではなかったかと思われるが

*2:ある種のマチズモと言ってよい