蘇る宝は胸の奥に――「ルパン三世 PART6」6話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
仮想の真を見る「ルパン三世 PART6」。6話ではルパンが昭和初期の帝都東京に来てしまった経緯と騒動のてん末が語られる。果たしてルパンは今回、いったい何をどうやって盗んだのだろう?
 
 

ルパン三世 PART6 第6話「帝都は泥棒の夢を見る 後篇」

五ェ門を名乗る用心棒に驚愕するルパン。その斬撃をかわしつつ、からくり時計の展示室へと急ぐ。が、現場では大道寺がサラントヤに銃を向け、時計の鍵を奪おうと迫っていた。警報が鳴り、押し寄せる警察。大道寺の策動により、さらなる危機に陥る瑠璃子とサラントヤ……。そして騒ぎを聞きつけた明智は、静かに推理を働かせる。――夢とうつつの大騒動、ここに決着。
 

1.役割を盗む

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大道寺「貴様がルパン!」
大道寺「さようです大佐殿」

 

ルパンが単にタイムスリップ的な状況に陥るだけでなくその先でよく似た人物と同一視される……という複雑な構造の5,6話だが、今回は更に複雑な状況が描かれる。大道寺大佐に捕まった瑠璃子とサラントヤに親切にする老人がルパンの変装と明智小五郎が見抜くも、実はその明智こそがルパンの変装なのだと本物の明智が暴いてみせるのだ。
 
偽物を指摘する者が偽物というのだから、前回の偽電報同様この状況は実にややこしい。老人の方は結局誰だったのか明示されない点も含め*1、こんな入れ替わりを見せられれば瑠璃子やサラントヤが驚くのも無理はない。この複雑なシーンの意味を考える上で注目したいのは、ルパンの変装を暴く時の本物の明智の台詞である。
 

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明智「困るねえ。いくら盗みが得意だからといって」
 
「盗みが得意だからといって」……この後の言葉を明智は口にしないが、意図するところは明瞭だろう。ここまでルパンはけして、瑠璃子やサラントヤから何かを奪ったりしたわけではない。仮に本物の明智が先に到着したとして、とった行動はルパンと変わりなかったはずだ。盗みが得意だからといって「私の役割まで盗まないでほしい」と明智は言っているのである。
 

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ルパン「行こうぜ、お嬢さんたち」
 
役割を盗む……なんとも概念的な行為だが、考えてみれば変装の本義の一つは自分以外の誰かを、その役割を演じることだ。舞台等での演技にしても、本来は存在しないものを演じることは見ようによっては変装であろう。演じることはすなわち、役割を盗むことなのだ。
 
 

2.盗まれて得られる幸せ

演じることは役割を盗むこと。こう定義づける時、この前後篇でのルパン一味あるいはそのそっくりさんの立ち位置は非常に興味深い。
 

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ルパン「逃げるぜ、不二子!……いや、黒蜥蜴」
 
今回はいつものようにルパンを始めとした4人が登場しているようでそうではない、奇妙な話だ。現代の人間であるルパンと五ェ門は昭和初期のよく似た人間の役割をあてがわれているが、次元や不二子と同じ顔立ちのキャラクターは彼らではなく軍事探偵・本郷義昭や女賊黒蜥蜴でしかない。
「ルパンや五ェ門が黄金仮面や先祖を演じている」のが前者なら、後者は「本郷義昭や黒蜥蜴が次元や不二子を演じている」のであり、4人(正確には浪越警部→銭形警部も含まれる)が登場していても両者の立ち位置は全く逆になっている。今回、次元や不二子は役割を演じられ盗まれる側の存在なのだ。
 

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本郷「大道寺大佐。たとえ誰の目からも同じ穴のムジナに見えたとしてもあんたと俺は違うのだ。この本郷義昭はな!」
 
今日調べた付け焼き刃の情報で恐縮だが、本郷義昭は陸軍軍人を辞めて作家になった山中峯太郎の生み出したキャラクターだ。劇中で言及されるように軍事探偵として「我が日東の剣侠児」といった小説の中で大いに活躍し人気を博したという。ホームズやルパンに対してに比肩できる明智小五郎以外の日本のキャラクターとして挙げる人もいる……が、半世紀以上を経た現在の知名度が著しく低いのは言うまでもない。仮に昭和初期を舞台にしたオリジナル作品を現代新たに作って登場させたとして、その存在が注目される可能性は極めて低いだろう。が、本郷義昭が次元大介を演じる・・・・・・・・なら話は変わってくる。
 

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黒蜥蜴「あれが……」
璃子「有名な……」
明智「そう、あれが日東の剣侠児こと不死身の軍事探偵、本郷義昭だよ」

 

次元の顔をした男が、大見得を切って本郷義昭の名乗りを上げる。周囲の人物もそれが異名持ちの有名な、知っていて当然の人物として扱う。誰か分からないのは我々視聴者ばかりであり、であれば当然「本郷義昭とは何者か?」と検索エンジンSNSで調べるのが現代人の心理であろう。しかも今は便利なことに、紙ならおそらく古書になってしまう彼の本も電子書籍なら容易く手に入れることができる。それは古びた探偵の物語への手を人々に再び伸ばさせる戦略としてこの上なく有効なものであろう(*2)。
 
「役割を盗む」と言えば聞こえが悪いかも知れないが、演じられることで現在や現実に存在しないものは蘇る。盗まれることで相手も幸せになるという不可思議な関係がこの6話では提示されているのである。
 
 

3.蘇る宝は胸の奥に

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演じることは役割を盗むことであり、対象を蘇らせること。この観点に立つ時、この6話は極めて大きな演技の場所を最後に明かして見せる。ルパンと五ェ門は昭和初期にタイムスリップしたのではなく、実は巨大なバーチャル・マシンの中で仮想の昭和初期を体感していたのだ。
ルパンや本郷はおろか、全くの新顔の瑠璃子やサラントヤまでもが演じられた存在だった。なぜ、昭和初期だったのか?五ェ門に問われ、ルパンはこう答える。
 

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ルパン「それは思い出だよ。少女時代の大冒険を唯一のよすがとして、一生事業に捧げ戦中戦後を生き抜いた女性の、あれは思い出なんだ」
 
ルパンは五ェ門に答える中で、バーチャル・マシンの開発出資者が瑠璃子であったことやサラントヤとの思い出が彼女にとっての"よすが"であったことを語る。一生を事業に捧げたという説明からも、瑠璃子とサラントヤはおそらく、あの後一緒にいることはできなかったのだろう。その後に上書きされることのない途切れた時間であったからこそ、それは瑠璃子にとって"よすが"となった。しかしそれがよすが……心の拠り所であった以上、彼女は何度もサラントヤとの時間を思い出したはずだ。くじけそうになった時、諦めそうになった時、瑠璃子は思い出で自分を励まし立ち直ったのだろう。何度もあの時に心の中の針を巻き戻し、勇気づけられたのだろう。
 

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明智「本当の宝物はこの子だったんですよ」

 
明智のこの言葉は至言である。前回僕は、誰かの時間を司る鍵こそがお宝なのだと書いた。そう、よすがとは鍵なのだ。お宝なのだ。からくり仕掛けの大時計やその鍵よりも遥かに大事な、瑠璃子の心の時間を司る形なき宝=思い出がここにあった。
ルパンは黄金仮面を演じることで思い出というお宝を盗み、同時に鮮やかに蘇らせてみせた。それが今回彼の果たした「泥棒の役割」だったのである。
 
 

感想

というわけでルパン三世6期6話のレビューでした。いや、なんとも壮大な話だ。「役割泥棒」という思いつきからどう考えを進めたものか随分迷ったのですが、最終的に前回書いた「お宝とは何か」に繋がる着地で自分なりの読み解きができて安心しました。「謎」「暗号」「思い出」と、これまでの話でどれも素敵なお宝像が示されているのがとても面白いなと思います。サラントヤは女装男子だったかー。はっきり結ばれず終わっても、これはこれで幸せな結末だ。
 

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僕のおつむではこれが限界ですが、大道寺大佐の作ろうとした傀儡政権(満州国)やサラントヤの女装も「演じる」なので、このあたりを深堀りすれば今回の話からはもっともっとたくさんのことを考えられるかもしれません。興味深い中編をありがとうございました。
 
 

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*1:本物の明智と同時に画面に映るし本当に誰なんだ、黒蜥蜴の変装なのか?

*2:無知な門外漢としては旧日本軍の軍事探偵の小説と聞くと、ヒトラーユダヤ系少女の宣伝写真を見て「ヒトラーもけして非人道的な人間じゃなかったんだ」と今更プロパガンダに騙される人と似た結果も生まないか後じさりするところはある。でもとりあえず「我が日東の剣侠児」を買ってみた