逢瀬の時間は0.1秒――「ルパン三世 PART6」17話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
刹那を求める「ルパン三世 PART6」。17話では最強の警備システム突破のため、ルパン達は0.1秒の一致にかける。この0.1秒こそは、何にも代えがたい奇跡の瞬間だ。
 
 

ルパン三世 PART6 第17話「0.1秒に懸けろ」

『Lシステム』――それは、ICPO出身の天才エンジニア・リンファが作り上げた最強の警備システム。彼女はその真価を世間に証明するため、ルパンにあるゲームを提案する。舞台は、彼女がCEOを務めるワンティック・セキュリティーズ本社タワー。ルパンを阻むのは、何重にも張り巡らされた異常な量のセキュリティ! 前代未聞の不敵な挑戦に、ルパンは一体どう立ち向かう!?
 

1.合わせようとしても合わせられない天与の一致

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ルパン「タワーには通常の電気設備以外に自家発電設備、燃料電池、更にはソーラーパネルがある。この4つの電源ユニットが常時システムを支えてんだ。この4つを同時に落とす!」
 
ICPO出身のエンジニア・リンファが組んだ"Lシステム"の突破が目標となる17話だが、そのための課題は極めて明示的だ。「ルパン達4人が0.1秒の狂いもなく同時に4つの電源ユニットを落とす」……口で言うのは簡単だが、もちろんこんなことを実行するのは至難の業。ルパンは隠れ家内に電源システムまでのルートを再現して次元、五ェ門、不二子と練習するが、何度やってもきっちり揃わない。
 

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不二子「もう限界!こんなのいくらやっても揃うわけないじゃない」
 
長年苦楽を共にし気心の知れた4人であっても、さすがに0.1秒の狂いもない一致は難しい。お題こそ特殊だが、こうした感覚はおそらく世界で多くの人が感じていることだろう。家族間の新型コロナウイルスへの考えの不一致に悩むケースはよく言われるし、そうでなくとも食べ物の好みや好きな芸能人はたいてい違うものだ。どれほど仲がよく相手のことを理解し合っていても、いや理解し合っていればこそ些細な違いはむしろ際立つ。
 

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五ェ門「争いなど無益。今は互いに力を合わせ……」
次元「すっこんでろ!」
不二子「すっこんでて!」

 

ルパン達は衣装も揃えて繰り返し繰り返し練習するもどうしても0.1秒の狂いを埋められず、半ば喧嘩別れするように4人はバラバラになってしまう。しかしここで注目したいのは直前の次元と不二子のやりとりだろう。もとより意見の分かれることの多い二人は時間差も特に激しく今回も言い争うが、仲裁に入った五ェ門への反論の時だけは息がピッタリ合う。特にズレの大きいはずの二人がいわば0.1秒の狂いも無い一致を見せるこのやりとりには、世界の奇妙さ面白さがよく現れていると言える。
 
 

2.ルパンを魅了するもの

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リンファ「私のLシステムが守り抜くか、あなたが盗み取るか。勝負よ、ルパン三世!」
 
一致を求めても一致せず、しかし全く合わないはずのところに一致が生まれている。この奇妙さはけして次元と不二子の間だけに生まれるものではない。むしろ今回のゲストヒロイン、リンファこそはこの奇妙さの体現者だ。
 

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リンファ「もうすぐよ、このLシステム……Love Lupin systemであなたを捕まえてみせるんだから!」
 
リンファはICPO出身の天才エンジニアにして警備会社ワンティックのCEO。ルパンでも破れない警備システムを開発し彼に「逆予告状」を仕掛ける彼女は当初こそいかにも自信過剰といった振る舞いを見せるが、物語の半ばで意外な素顔が明かされる。実は彼女は学生時代にルパンに一目惚れ、彼を知るためICPOに入り、更には彼の心を"捕まえる"ためにLシステム……「Love Lupin system」を組み上げた恋する乙女だったのだ。
 

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おそらく多くの人はリンファの本心を見て「やべー女」と笑ったことだろう。恋した相手を捕まえる側になるなど常軌を逸していて、一歩間違えばストーカーも同然のものだ。恋しているなら協力者になった方がマシではないかと、そう考える人も多いかもしれない。だがここで、劇中のルパンの台詞を思い出してほしい。
 

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ルパン「別に矜持云々で受けたわけじゃねえ。あの時、『こいつはちいとばかし盗み甲斐があるなあ』って、そう思ったのさ」
 
一度は諦めたものの戻ってきた五ェ門になぜ無謀な挑戦をするのか問われ、ルパンは自分の変装を見破ったLシステムに興味を抱いたことを明かす。彼は今、世界一の泥棒である自分ですら破れるか分からない警備システムの突破に夢中なのだ。惹かれている――恋している・・・・・と言ってもいい。
 

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ルパン「成功すると分かってりゃあ始めからやらねえよ。できると分かってることをやって何の意味があるんだ? 成功するか分からねえ、しくじれば終わり。だからこそ面白ぇんじゃねえか」
 
もしリンファが単にルパンの盗みを助けようとすれば、その頭脳は確かに力になったかもしれない。けれどそれは単に都合のいい手駒でしかなく、ルパンは彼女を慈しみはしても夢中にはならなかったろう。
不二子が最大のヒロインであることに示されているように、不可能と思える要素を持つものにこそルパンは惹かれる。ルパンを捕えれば彼が自分に夢中になってくれるというリンファの考えは支離滅裂なようで実は的確で、Lシステムとはリンファがルパンのハートを掴むための愛の塔なのだ。
 
 

3.逢瀬の時間は0.1秒

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リンファ「絶対勝って見せるわ!このLove Lupin systemで!」
 
ルパンに恋するリンファが作り上げたLシステムに、ルパンは見事魅了された。ハートを奪われた。しかし彼は泥棒だ。いつだって彼は盗まれる側ではなく、盗む側でなければいけない。故に彼は逆予告状に乗りワンティック本社ビルに忍び込む。不可能なはずのLシステムを突破せんと臨む。ここでも鍵となるのはルパンが突き当たった問題と同じ"一致"である。
 

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警備員「と言われましても……他に特徴は?」
 
ルパンの変装を見破ったLシステムの人物認証システムは極めて精度の高い"一致"を見つけ出す。顔だけでなく1万点以上の項目で照合するそのシステムはルパンが動員した大量の偽ルパン一味の中からすら本物を見つけ出すが、照合するシステムと対処する人間が同じでないなら――"一致"しないならそこには0.1秒の狂いが生じる。リンファが指示しても警備員には見分けがつかず、彼らにはルパンを捕えることはできない。
 

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ルパン「♪ワンティック、ワンティック……!」
 
またルパンが4つの電源ユニットを落とそうとしていることはリンファも見抜いており、展開したジャミングによってルパン達はスタートのカウントを取ることすらできなくなってしまう。しかしそこで彼らの耳に響いたのはワンティックの宣伝カーの音であり、それが"一致"を生み出すことでルパン達は0.1秒の狂いもなく電源ユニットを落とすことができた。練習中の隠れ家近くを何度も通り耳障りに感じていたそれが、偶然にもタイミングを合わせるためのカウントと"一致"してしまったのである。
 

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リンファ「こちらの負けね。私じゃあなたに及ばなかったみたい……」
 
今回のルパンとリンファの対決は、けしてルパンの計算だけで勝負が決まったわけではない。宣伝カーの謳い文句がカウント・タイマーに一致するなど誰も予想もしなかった。
だが同時に、既に示されているように今回の対決は恋心の対決でもある。計算だけで済まない、予想もしない一致こそは恋心にとって最高に幸せな瞬間ではなかったか?
 

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ルパン「いやあ、いい夜だったぜ?お前さんのお陰で随分と楽しませてもらった」
 
対決をやめるよう銭形警部が忠告に来た際、リンファはこう答えた。「ただのゲームですよ。互いの合意の上で行われ、そこには被害も加害もない」……公的には今回の勝者はルパンだが、実際のところルパンとリンファにとってそれはさほど重要ではない。ルパンに恋するリンファの作り上げた警備システムがルパンを魅了するほど素晴らしい出来だったこと、それをルパンがリンファに告げたことこそが二人にとっては大切なのだ。それは合わせようとして合わせられるものではない天与の一致だ。あくまでゲストヒロインに過ぎないはずのリンファが得た望外の幸せだ。リンファにとってこの時間は、ルパンの都合のいい女になって体を重ねるより遥かに素晴らしい時間だったことだろう。
 

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この17話、リンファは確かにルパンの恋人だった。例え0.1秒の逢瀬であっても、彼女は怪盗の心を盗んでみせたのである。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期17話レビューでした。いや参ったな、2話一挙放送とかレビューをどうしたらいいのだ。この17話はものすごくすんなり見立てができましたが、残り時間でプラネテス放送までに18話についても書けるだろうか……?
 
懸念はともかくとして、ルパン三世らしい素っ頓狂さで非常に面白かったです。よくあるゲストヒロインとは全然違う立ち位置で、ともすれば押し付けがましいキャラ扱いされかねない設定からこんなロマンスが生まれようとは。五ェ門が言うようにろくでなしで、ろくでなしだからこそのしかし普遍的な恋。ゆかなの演技もベストマッチだったと思います。同時に、リンファの立ち位置がけしてこれまで誰もやってない存在ではないことに目線が向いているのも見落としてはいけない部分で……
 

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銭形「完璧で不可能ですか……それは実に危険ですな。あなたはルパンのことを何も分かっていない!奴はそういったものを破ることを最も得意としている」
 
俺の方がルパンのことを分かってるんだ!とゲストヒロインのところにカチコミに来るシリーズヒロイン。
 

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銭形「最初からタワーに入らず外で張っていたのだ!こんなこともあろうかとな!」
 
やっぱり俺の方がルパンのことを分かってるんだ!と得意げなシリーズヒロイン。
 
ルパンと銭形のコンビが好きな人にも大満足の回だったのではないでしょうか。さて、続いて18話の視聴に移ります。場合によったらプラネテスのレビューの方が先になるかもしれません、ごめんなさい。
 
 

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