究極の泥棒vs至高の泥棒――「ルパン三世 PART6」13話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
仕切り直しの「ルパン三世 PART6」。ロンドンでの謎解きを終えたルパンは、この13話から新たな主題と向き合う。キーワードとなる「女」に、新章はいったいどんな意味を込めているのだろう?
 
 

ルパン三世 PART6 第13話「過去からの招待状」

ニューヨークに構えられたアジト。次元の手料理を食べながら退屈を憂うルパンのもとに、不二子があるオークションの話題を持ち掛ける。世界各地の秘宝が一度に出品されるという、異様な競売――当然、興味を持つルパンだったが、出品リストにあった宝石の記載を見て目つきが変わる。出自も謂れも『unknown』とされたその宝は、かつて幼少のルパンが住んでいた屋敷から盗み出されたものだった。
 

1.泥棒として位置づけられる女達

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次元「出せ!食ったもん全部出しやがれ!」
ルパン「食っちまったのは俺のもんだ!」

 

大胆な盗みの手口やお宝の正体の他に小粋なやりとりも魅力の一つであるルパン三世シリーズだが、新章の発端はこの点でファンサービス精神に満ちている。ルパンに手料理を振る舞う次元とそれに舌鼓を打ちつつもからかうルパン、そこから始まる子供のような喧嘩……二人の様子は夫婦漫才と見紛うほどだ。
 

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ルパン「ふ~じこちゃ~ん!」
不二子「だらしないわねもう……」

 

だが、不二子が部屋に入ってくればこの微笑ましい時間は終わってしまう。ルパンが不二子に首ったけなのだから当然だが、トンビに油揚げをさらわれたような気分になった視聴者も多いかもしれない。不二子がルパンと次元のやりとりを"盗んで"しまったと言ってもいいだろう。このように"盗む"の対象を広げてみると、この13話から見えてくるのは女が男から様々なものを盗む構図だ。
 

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次元「なあ、行く度にわざわざ(花を)買ってくる必要あんのか?」
ルパン「癒やされんだろうが」

 

例えば花屋のマティアはオークションからの盗みに利用するべく近づいてきたルパンの心を盗んでしまっているし、不二子は警官を誘惑して心を盗むことで潜入用の制服を調達している。またオークションに出品された、かつてルパン家の屋敷に保管されていた宝石を盗んだのも女。慎重に仕込んだルパンの計画に乱入して宝石を奪っていったメルセデスも女。この13話はもっぱら、女という泥棒に男が盗まれるばかりの話なのだ。しかしこれはおそらく、女は卑しい生き物だなどと侮蔑しているのではない。
 
 

2.泥棒ものの面白さの源泉は

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新章はなぜ女を泥棒に位置づけるのか。それを考えるにあたって、一つ捉え直してみたいことがある。なぜ私達は主人公が泥棒などという、反社会的な作品に心奪われるのだろう?
 

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ルパン「突入!突入しろー!」
 
泥棒が主人公の作品は数も多いし多種多様だ。ルパン三世にしてもアニメでは義賊的な性格が強いが原作漫画では平気で人を殺す悪党だし*1、そこから発展したクライム・サスペンスはもはや一大ジャンルと化している。ただエンターテイメントとしての泥棒ものに限って言えば、もっとも一般的なのは「強大な権力者や富豪を泥棒があっと言わせる」スタイルだろう。自分より力の劣る者からスリを働く泥棒を描いたとしても、そんなものは何か別の仕掛けがなければ爽快感は生まれようがない。
厳重な警備や権力や金に物を言わせた防備といった、不可能に見える壁を突破するからこそ泥棒ものは面白い。単純化すれば泥棒が主人公の作品の快楽とは、弱者が強者に一泡吹かせる逆転で読者視聴者に溜飲を下げさせてくれるヒーロー性にこそあると言える。
 
 

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泥棒ものにおける泥棒とは弱者であり、弱者は泥棒=ヒーローの資格を持っている。こう考えた時、女性という属性は確かにヒーローの要件を満たすものだ。近現代史は女性が得られず男性が無自覚に享受する特権を解明する歴史でもあったし、その解消は未だ手探りで未解決だ。女性を泥棒として位置づけたこの新章は、それによって女性を男性的権威に対する弱者やヒーロー資格者としても位置づけているのである。
 
 

3.究極の泥棒vs至高の泥棒

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この13話ではいくつかの権威が登場している。ルパン三世の祖父アルセーヌ・ルパンは本来は弱者兼ヒーローたる泥棒であるが、天下の大泥棒の英名はこれはこれで既にある種の権威と化している。もちろん、これはその孫であるルパン三世にしても同様だ。アルセーヌ・ルパンが厳重に守らせた宝物庫やルパン三世がわざわざオークションハウスに送った泥棒の予告状には、権威(お株)という宝もまた収蔵・注入されていたと言えるだろう。そして、ルパンの母トモエや強盗グループのリーダー・メルセデス達女はまんまとそれを盗んでみせた。
 

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メルセデスルパン三世、お前の時代は終わったよ」
 
考えてみてほしい。泥棒の頂点に立った男がこれなら盗めまいと確信しまた何人もの手練が挑んでは敗れた宝物庫の財宝を、また現代の究極の泥棒とも言える男が予告状と入念な準備で奪おうとした秘宝の数々を、全く視界の外にいた者が見事盗んでみせたのだ*2。弱者が強者に一泡吹かせる構図として考えたなら、これは極めて明快で痛快な逆転劇ではないか?
 

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強者に挑む時、弱者は例え泥棒であってもヒーローの資格を持ち得る。ならば男から何かを盗む本作の女達は至高の泥棒であろう。果たして、究極の泥棒たるルパンと至高の泥棒たる女達の対決はどちらに軍配が上がるのだろうか。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期13話のレビューでした。新章のキーワードが女と聞いてどんなもんじゃろと身構えていたのですが、なかなか興味深い図式を見立てることができました。これは色んな人の意見を聞いてみたいし、僕自身も意識を問われる内容になりそう。至らないところを晒す結果になることが多いと思うので、ご指摘いただけるとありがたいです。
緊張感のある3ヶ月と上手く向き合えるといいな。バラエティ豊かな今後の登場人物にも期待したいと思います。
 
 

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*1:10年以上前に1巻くらい読んだだけなので、こんな風に語るのは本来おこがましい話だが……

*2:次元は宝物庫からただ一人財宝を盗んだのが男だと考えて疑いもしなかった